48 STUDIES Op48
5.燕返し(つばめがえし)


窓から差し込む月の光が八戒の身体を照らす。
「お前は空を飛べそうだな」
「え……?」
三蔵は八戒の右手を左手で、右足を右手で掴み八戒の身体を反らせる。
「や…あ……」
大きく体を反らせた八戒は、まるで光の中を飛ぶ燕の様である。
「こうしていると空を飛んでいるみたいだろう」
「は…あ……さんぞ……」
掴まれた右手を縋るように延ばす。
「どうした?」
「捕まえていてください…僕が飛んでいってしまわないように……ずっと……」
「…ああ……捕まえてやるよ…ずっとな……」





「月の光って冷たいと思いますか?暖かいと思いますか?」
八戒はそっと三蔵の肩に寄りかかりながら問う。
「………?」
「月の光って…なんか冷たい感じがしますね…」
「…ああ……」
三蔵は枕元に置いてあるライターを取り、煙草に火をつける。
「でも…こうして月の光を浴びていると、とっても心が落ち着いて…暖かい感じですよね……」
「………」
三蔵は八戒が何を言いたいのかに気付く。
八戒は本当の月の事だけを言っているのではない事に。
月に三蔵を重ねているのだ…。
「ねえ、どう思います?」
三蔵は火のついた煙草を灰皿に押しつける。
そして八戒の肩を抱き寄せる。
「お前はどう思う?」
「そうですねぇ……」
八戒はふふ…と笑う。
三蔵の耳元に唇を寄せ、小さな声で囁く。
三蔵にだけ聞こえるように。

────普段は冷たいけど、本当は優しくてあたたかい…
    そんな貴方が好きです……

 

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