48 STUDIES Op48
47.菊一文字(きくいちもんじ)




「お疲れさまでした」
その挨拶と共に弓道部の練習が終了する。
弓道部部長の三蔵はタオルを手に取ると弓道着のまま弓道場の外の水道へ向かう。
「三蔵、部活終わったんですか?」
扉を開けると三蔵に向かってそう声がかけられる。
「あぁ、八戒。お前も終わったのか?」
弓道部の隣で活動している茶華道部部長の八戒である。
彼も今日は部活を行っていたらしく、着物を身につけている。
「時間があるならお茶でも飲んでいきませんか?」
八戒の言うお茶とは勿論濃茶のことだ。
八戒の点てるお茶も久しく飲んでいない。
「あぁ、邪魔させてもらう」


「少し汚れてますけど」
そう言って三蔵を部室の中にすすめる。
茶華道部の部室は畳貼りの和室になっている。
今まで花を生けていたのか、中央に花器が置かれていた。
八戒はそれを部屋の隅に置くと茶を点てる準備を始める。
「どうぞ。作法なんて気にせずに飲んでくださいね」
「あぁ」
三蔵も一応は作動の作法は身につけているが、二人っきりの時にはあまり気を遣わずにいたい。
「他の部員はもう帰ったのか?」
部室には他の人はおろか、荷物さえも見えない。
「えぇ、少し残って花を生けていたものですから。
 …だから……」
八戒は正座のまま少し身を乗り出すようにして上目遣いに三蔵を見る。
「だから、この部屋には僕と貴方の二人きりですよ」
艶っぽい視線を三蔵に送る…。
八戒は三蔵を誘っているのだ。
「こんないつ誰が来るかわからないところでか?」
三蔵の言葉に八戒は立ち上がると部屋の扉まで行き、内側の鍵を閉める。
「ほら、これでもう誰も入れませんよ。
 外側の鍵は僕が持っていますからね」
クスクスと笑いながら再び三蔵に近付く。
そして甘えるように三蔵に身を寄せる。
「まだ汗を落としていないぞ」
「いいんですよ。僕、貴方の汗の香り、好きですよ」
そう言い、三蔵の首筋に顔を埋める。
三蔵の汗と体臭の混ざった香りが伝わる。
「貴方の矢を射る姿、好きです。
 凛としていて…」そう言いながら三蔵の道着を少しずつ脱がせていく。
脱がせながら少しずつ露わになる肌に愛おしそうに唇を落とす。
三蔵はそんな八戒の髪を優しく撫でる。
静かな部屋に二人の甘い息づかいが響く。
それは静かに…でも少しずつ熱を含んでいく。
「…お前は菊のようだな」
「…菊ですか?」
三蔵は八戒の上体を起こさせると着物の帯を解く。
着物の合わせ目がずれて八戒の白い肌が姿を見せる。
「あの花はお前が生けたのか?」
三蔵は部屋の隅に置かれた花を指してそう言う。
「えぇ…そうですけど」
それは学校に頼まれて八戒が生けている物だった。
菊の花の周りに柳が生けられている。
「菊と柳は良く合う…だが…」
三蔵は八戒の着物に手をかける。
八戒の着物を取り去ると床の上に八戒を仰向けに寝かせる。
「三蔵?」
そのまま、足を大きく広げさせられる。
不思議そうに見つめる八戒に三蔵は言葉を続ける。
「菊はそれ一つだけでも十分に美しいとは思わんか?」
「あ…三蔵……」
その言葉と共に横になった三蔵が八戒の中にその身を押し進める。
まるで、八戒が三蔵に生けられているかのように…。
「……三蔵…」

─── もし僕が菊だというのなら…
僕を生けることが出来るのは…貴方だけです。


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