48 STUDIES
Op48
40.獅子舞(ししまい)
三蔵はいつも機嫌が悪い、というようなイメージがあるが、意外と本気で怒っていることは少ないのではないか、と八戒は思う。
どんなに怒っているように見えても、結構八戒への気遣いをしてくれる。
八戒にだけなのかもしれないが…。
でも、自分にだけだというのなら、それはそれで『特別』という感じがして嬉しかった。
…しかし、そんな三蔵でも八戒に対して本気で怒ることもある…かもしれない。
「三蔵、コーヒーでも煎れましょうか?」
「あぁ…」
八戒の言葉に三蔵は短く応える。
ここ数日、三蔵はかなり忙しそうだった。
近隣の街で妖怪関係の事件が起こり、それ関連の書類等がかなりの量あるらしい。
あまりに大変そうだったので、八戒は寺まで手伝いに来た。
だが、書類の殆どは極秘の物なので、八戒は手にすることが出来なかった。
というわけで、八戒に出来ることはこうしてコーヒーを煎れることくらいであった。
「…三蔵、大丈夫でしょうか」
コーヒーを煎れながら、八戒は心配そうに溜息を吐く。
あの様子ではあまり睡眠も取っていないように見える。
忙しいのはわかるが、このままでは三蔵が倒れてしまわないか心配だ。
だからといって自分には手伝うことが出来ない。
せめて美味しいコーヒーでも持って行こう、そう思いカップを手に三蔵の元へ向かう。
「三蔵、コーヒーここに置いておきますね」
と言って、コーヒーを置こうとした八戒の手と、書類を置こうとした三蔵の手がぶつかる。
「あ…熱っ…」
揺れるコーヒーの表面が波を打ち、カップの外に零れる。
煎れたばかりの熱いコーヒーが手にかかり、八戒は思わず手に持ったカップを離してしまう。
あまり高さがなかったため、カップが割れることはなかったが、机の上に中身が零れ、琥珀色をした液体が机の上に置かれた紙に吸い込まれていく。
「あ…ごめんなさい」
八戒は慌てて机の上を拭くが、かなりの量の書類がゴミと化している。
恐る恐る三蔵を見るが、三蔵はその動きを完全に止めていた。
何日もかけた書類が一瞬でゴミになったのだ、ショックは大きいだろう。
「本当にごめんなさい。…あの、僕に出来ることなら何でもしますから…」
「ほぉ…なんでもするんだな」
三蔵は八戒の腕を掴むと、部屋の隅に置かれたベッドまで連れて行き、乱暴に押し付ける。
「あ…三蔵……?」
いつもとは違う、三蔵の鋭い瞳に八戒はビクッとする。
三蔵は本気で怒っているのだろうか。
三蔵の手が荒々しく八戒の服を剥ぎ取っていく。
「準備しろ」
三蔵は短くそう言い放つ。
八戒は恐る恐る三蔵のモノに手を伸ばし、口に含む。
震える舌で三蔵のモノをなぞり、熱を高めていく。
「もういい」
そう言って、八戒の顔を離させる。
そして、八戒の足を上に持ち上げ大きく広げさせる。
「あ…さんぞ…」
八戒がバランスを崩し、後ろに倒れそうになり、慌てて後ろに手を付く。
「時間がないからな、今日はそのまま行くぞ」
三蔵は申し訳程度にローションを入り口に塗ると己のモノを押しあて一気に貫く。
「や…あぁ……」
後ろに強い痛みと焼けるほどの熱を感じる。
薄れる意識の中で八戒は三蔵の顔を見る。
しかし、瞳に溜まった涙のせいか、三蔵の表情を見ることは出来なかった。
八戒が目を開けると…視界の先に金色の光が映る。
次第にはっきりしていく意識の中、それが書類を片付ける三蔵であることに気が付く。
「気が付いたか」
三蔵はゆっくりと起きあがる八戒に水の入ったグラスを手渡す。
八戒は受け取った水を一口飲み俯く。
「あの…書類すみませんでした……」
小さな声でそう言う。
「気にするな…」
起こられると思っていた八戒に意外にも優しい声がかかる。
言葉と同時に優しく髪を撫でられる。
そっと、三蔵の顔を見るが、そこに『怒り』など全くなかった。
さっきのことが夢だと思えるくらいに。
でも、身体にはまだ痛みが残っている。
…結局、三蔵はあの時本気で怒っていたのだろうか。