48 STUDIES Op48
4.窓の月(まどのつき)


その夜は月がとても綺麗だった。
悟浄はいつも通り仕事(笑)に出掛けていった。
今日はきっと帰ってこないだろう…。
「…今日は月がとってもきれいですねぇ」
こんな夜に早く寝てしまうのももったいないなぁ、と八戒は思う。
明日はこれといって早起きをしなければならない用事があるわけでもない。
「今夜は少しぐらい夜更かしをしてもいいかな…」
台所に行き、やかんに火をかける。
その間に自分の部屋から読みかけの本を取ってくる。
湧かしたお湯で紅茶を入れ、窓際のテーブルに置く。
本を読みながら紅茶を一口含む。
紅茶の温かさが体中に広がっていく。
「…落ち着きますねぇ……」
こんなのんびりとした時間は久しぶりだった。
たまにはこんな夜もいいなぁと思う…。





それからどれぐらい時間が経っただろうか…。
ふと家の外に人の気配を感じる。
時計を見ると時間は12時を少し回ったところ。
最初は悟浄が帰ってきたのかと思った。
だが、これは悟浄の気配ではない…。
この気配は…。
「前から非常識な人だとは思っていましたけど…。まったく…こんな時間に……」
八戒は軽く笑うと本に栞を挟み閉じる。
そしてゆっくりと立ち上がると玄関へ移動する。
そして訪問者がノックするよりも前に扉を開ける。
「いらっしゃい。三蔵」



扉の前にはいつもの無愛想な三蔵の姿。
「こういう時間に来るときは前もって連絡して頂けるとありがたいんですけど…。で、今日はどうしたんですか?」
「丁度近くに用事があったからな。ついでだ」
三蔵は手土産だと言って、一本の日本酒を渡す。
それは前に八戒が飲みたいと言っていた物だ。
「ありがとうございます」
こんな時間に用事があったというのも考えられない。
三蔵は八戒に会うために来たのだろう。
「どうぞ。上がってください」
八戒は三蔵を中に招き入れる。
居間ではなく自分の部屋に…。





「これ一度飲んでみたかったんですよ」
部屋のテーブルの上に2人分のお猪口を用意する。
「せっかくですから、乾杯でもします?」
「何にだ……」
「んー。じゃあ、この月夜にってのはどうですか?」
八戒は冗談ですよ、と笑う。
三蔵は立ち上がると、部屋の電気を消す。
部屋の中に、月の光だけが射し込んでいる。
「月夜に乾杯するのなら、この方がいいだろ」



一体どれだけの時間、こうして飲んでいただろう。
あんなに沢山入っていた酒ももう底が見えている。
次第にお互いの口数が減ってくる。
言葉を交わすのは口ではなく目……。
どちらからともなく顔が近づく。
軽く触れるだけのキス。
それが合図であったかのように席を立ち、ベッドへと移動する。
「…三蔵……」
今度はもっと深く口づけをかわす。
互いの境界線を無くすように、舌を何度も絡め合う。
八戒の上着のボタンを一つずつはずしていく。
月の光に浮かぶ八戒の肌は一層白く見える。
その肌にそっと唇をあてる。
「お前の肌は月の光のように透き通っているな…」
滑らかな肌を三蔵の指先が滑る。
「ん…さんぞ……」
「お前には月の光がよま似合う」
八戒の髪を一房手に取り口付ける。
「そうですか?…貴方は……月の光のようですね……」
「…月……?」
三蔵の首元に唇を寄せる。
「ええ。太陽よりも月って感じですね。だから……」
軽くその振動が伝わるように囁く。
「貴方の光で僕を照らして下さい…」
甘い…ささやき……



「あ…三蔵……ん…」
八戒の腰を抱き、後ろから重なる。
八戒の足の間に自分の右足を入れ、八戒の左足を腰の横で支える。
互いが同じ窓を見つめる…。
外に輝く月を……。
輝く月に誓いをかけるように。

 

 

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