48 STUDIES Op48
31.しがらみ(しがらみ)




ゆっくりと目を覚ます…。
目を覚ましても、目の前に広がっているのは…闇…。
「ここは…?」
自分の身体に伝わるのは冷たい石の感触。
石の上で眠っていたせいか身体が痛い。
八戒はゆっくりと体を起こす。
記憶がはっきりとしない。
ここはどこなのだろう…。
闇に慣れた瞳に映し出されたものは…。
鉄格子…?
どうやらここは牢の中らしい。
なぜこんなところに居るんだろう。
必死で思い出そうとすると激しい頭痛に襲われ踞る。
「………?」
その時目に入った物…それは編み込まれた長い髪。
「まさか…」
八戒は自分の身体を見回す。
色は暗くてわからないが、ロングスカートのワンピース…。
そして、胸にかけられた十字架…。
「………花喃…」
これは花喃の…じゃあ、今自分は…。
なら…そうならここは百眼魔王の城だろう。
そうだ、牢の中からだから気が付かなかった。
けれど、ここはあの時の地下牢だ。
そして、今自分は花喃になっているのだ…。
「…そんな……」
何故だなんて理由はわからない。
夢なのかもしれない。
それでも良かった…。
花喃の受けた苦しみを…少しでも感じることが出来るのなら。


「出ろ…」
それからどれだけ時間が経っただろう。
一人の兵士らしき妖怪が牢の扉を開く。
八戒はただ黙ってそれに従った。
自分は今、気孔も何も使えない非力な女性だ。
逆らうことも出来ない。
「………」
冷たい廊下を歩く。
体が震えているのがわかった。
恐怖を感じているのだ。
「百眼魔王様、例の女を連れてまいりました」
「……入れ」
中から短くそう答えが返り部屋の扉が開く。
その瞬間、中から広がってくる噎せ返るほどの血の臭い…。
「おいで」
男がそう言う。
部屋は暗く、一部だけ…そう、百眼魔王の居るあたりにだけ数本の蝋燭に灯が点され周りを照らしている。
「待っていたよ。
 ちょうど前のおもちゃを壊してしまったところだったからねぇ」
そう言った百眼魔王は手に持っている何かを口元に近づける。
「ひっ……」
それは…先程まで生きていただろう女の頭部だった…。


「やめて…下さい…」
声が震える。
自分の何倍もの大きさのあるものに押し倒され、恐怖を感じないわけがない。
百眼魔王の目が八戒を冷たく見下す。
彼は八戒のことを人として認識などしていない。
ただ、目の前にある物、『玩具』なのだ。
百眼魔王の目を見ないようにと目を逸らす。
「……っ…」
目にはいるのはバラバラにされた無数の死体…。
自分もあのようになるのかと思うと恐怖で身体が固まる。
声を発しようにも声も出ない。
ただ、冷たい汗が体中を伝う。
もう、何がなんだかわからなかった。
掴まれた胸も、体中を這いずり回るように動く舌も…。
ただ、気が狂いそうな時間。
「や…やめて……」
自分の身体を跨ぐようにして百γ王子心が押し入ってくる。
痛みと嫌悪感で瞳に涙が浮かぶ。
このまま気を失ってしまえば楽になるのに…。
ただ耐えるしかない…。
…花喃もこんな気持ちだったのだ。
「…う……」
百眼魔王は小さく呻くと八戒の中に放った。
これで終わる…そう思った…。
「…何……?」
何かが体の中を這いずり回る、そんな感じだった。
気持ちが悪い…。
八戒はその場に踞る。
これは……。


あれから数日が経った。
自分の腹の中であの男の子が育っているのがわかる。
普通では考えられないほどの速さの成長。
これがあの男の力なのだろうか…。
「…早く来て……」
死にたい…。
自分が死ぬだけのなら舌を咬んだって死ねる。
でも、このお腹の中の子はどうだろう。
これだけの生命力を持っているのだ、簡単には死なないだろう…。
自分とあの男の子供がこの世に生き残るなんて考えたくもない。
だから…
「早く来て…」
この子供を確実に殺すために…。

「……早く来て…悟能……」

 

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