48 STUDIES Op48
21.茶臼のばし



「これって…どういうことでしょうね…」

その出来事は…とんでもないことであった。
いくらこの度に出てから、大概のことでは驚かなくなったとはいえども…これはさすがに驚く。
…突然八戒が女になっていたら…。


「…それは…たぶん、あの森の呪いだと思います…」
宿屋の娘が戸惑いながらそう言う。
「…呪いだ?」
「えぇ。最近はなかったんですけど…。
 森を通り時に霧が出ませんでした?」
「…確かに…」
確かに、さっき森を通過するときに突然濃い霧に包まれた。
八戒の体に異変が起きたのはその後だ。
「それで、呪いをとく方法は…」
「あ、大丈夫です。呪いの効果は短いですから、明日の朝には解けてると思いますよ。(…たぶん…)」
娘はにこやかに言い、最後に小さな声で『たぶん…』と付け加える。
「…たぶんって…ずいぶんあいまいだなぁ…」
「だって、ここ二十年ぐらい呪いかかった人いないんですもの…」
確かにこの娘はどう見ても十代…。
実際に呪いを見るのが初めてならしかたがない。
「しかたがない。今日はここで一泊するぞ」


「今日の部屋割りはどうします?」
今日はもうあまり部屋が空いていないらしく、八戒が持ってきたのはツインの鍵二つ…。
今回はいつもと違って…八戒が女なのだ…。
「いつも通り俺と八戒、三蔵と悟空でいいんじゃねぇの?」
いつものように八戒の肩に手を回しながら悟浄が言う…。「「「…………」」」
それに対しての三人の答えは…明らかに不審者を見るまなざし…。
「エロガッパと一緒はマズイんじゃねぇの?」
悟空が嘲笑する。
「僕もちょっと身の危険を感じますね…」
八戒も苦笑いしながら悟空に同意する。
三蔵に至っては無言で視線だけで悟浄を攻める…。
「…ひでぇな…。いくら女だからって俺が三年も一緒に暮らした八戒に手を出すとでも言うのかよ」
「「「………」」」
悟浄の訴えに対して返されるのはやはり無言…。
しかし三人とも目が肯定を表している。
「…俺、そこまで信用されてないわけね…。
 いーよ。俺今日はどっか別なトコ泊まってくるから!」
悟浄はなげやりな態度で言う。
「…わかりましたよ…信用してますって…」
…という具合に今日の部屋割りは悟浄と八戒、三蔵と悟空に決定した。


「…みんなヒデーよな…」
悟浄はベッドに転がったまま小さく呟く。
そりゃ普段の行いがいいとは思えないけど…何も八戒まで自分のことを疑わなくても…。
いくら姿が女になっても八戒は八戒だ。
三年も共に暮らした親友相手に欲情してたらさすがの俺も人間失格…。
「悟浄、お風呂上がりましたよ。次どうぞ
「…あぁ…」
風呂上がりの濡れた髪…。
いつものようにTシャツとGパン姿なのだが、女になって身長が縮んだ(といっても170cmぐらい)のでTシャツがぶかぶかとしていて…。
…そう、まるで彼シャツ状態である。
そして当たり前なことだが、ブラなんぞしているわけでもないので薄手のTシャツにその少しふっくらとした乳房が透けて見える。
今は女であっても元々は男なので無防備である。
狙って色気を出してくる女と違って、自然な色気が溢れ出る…。
「…悟浄、どうかしました?」
「いや、なんでも。風呂入ってくるわ」
悟浄は慌ててバスルームに駆け込む。
「…まじヤベーよ俺…」
悟浄はすっかり反応してしまった体に冷水をかけ、必死に熱を押さえようと努力する。
このままではさっきの話がシャレにならない。
「…今日はもうさっさと寝よう……」
悟浄は八戒と同室になったことを激しく後悔した…。


─── 眠れない…。
悟浄は何回目になるかわからない寝返りをうった。
視線の端に眠っている八戒…。
横向きで眠っている八戒の…胸の谷間…。
ぶかぶかのシャツを着ているためその谷間がくっきりと見える…。
……ヤベェ…。
下半身が反応し始めている…。
そんなに溜まっているハズではないのに…。
『女にはウルサイ』といつも言っているのに…まさかいくら体が女だからって元男に反応してしまうとは…。
「……悟浄?眠れないんですか?」
眠っているものだと思っていた八戒の目がぱちっと開く。
心配そうに見つめてくる瞳…。
それって反則…も…限界……。


「悟浄…どうしたんですか?」
悟浄は八戒のベッドに乗り上げる。
八戒の瞳が恐怖の色に染まる。
「…悟浄…冗談ですよね…ん……」
悟浄は何も答えず、八戒に無理矢理口付ける。
時折漏れる八戒の声に引き込まれる。
それはいつもより少し高いだけで、間違いなく八戒の声である。
それなのにその声ですら感じてしまう。
もう、非道徳であろうが人間失格であろうが構わない…。
「……八戒…」
今、自分は八戒を求めている。


「やだ…悟浄…無理です……」
八戒が顔を真っ赤にして泣きながら言う。
それがまた男の心に火をつける。
「…八戒……大丈夫だから…そのままゆっくり腰を下ろして…」
横になっている悟浄の上に八戒が少しずつ腰を下ろしていく。
苦痛で八戒の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「大丈夫…力を抜いて…」
八戒を安心させるように優しい声で言う。
「いたい…あ……」
「ほら…ちゃんと入っただろ。…八戒……」
八戒の腰を引き寄せると自分に密着するように八戒の体を倒す。
悟浄の体に八戒の体温とその柔らかな胸の感触が伝わる。
悟浄はゆっくりと体を楯に揺らす。
「や…いた…動かな…で…」
「…八戒……」


翌朝、宿の娘の言うとおり、八戒は男の体に戻っていた。
…ちょっとヤバかったかな……
目の前でまだ眠っている八戒を見て悟浄は考える。
いくら女の体だったとはいえ、親友を抱いてしまった…。
「…………」
八戒の目がゆっくりと開く。
「おはよ…八戒」
「………おはようございます…」
昨夜のことを思いだしたのか、八戒は恥ずかしそうに布団に潜る。
その可愛らしい仕草に悟浄の心がどきっとする。
…もう相手は男なのだ…
そう言い聞かせても胸の鼓動は収まらない。
─── …道、踏み外したかも…。
悟浄は心の中でそう呟いた……。

 

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