48 STUDIES
Op48
15.後櫓(うしろやぐら)
「うーん……」
悟浄はベッドに横になったまま、ゴロゴロと寝返りをうつ。
そして、手に持った物を天井にかかげるようにしてまた考え込む。
「何かイイ手はないかな…」
考えながらまた寝返りをうつ…。
…何を考えてる…って、ロクな事ではないだろう。
煙草を取ろうとテーブルに手を伸ばす。
「…これは……」
手の先に触れたのは昼食を食べてそのままにして置いた食器の……箸…。
「コレダ!」
「な〜、八戒ゥ」
台所で食器を洗っている八戒の背中にぴとっとくっつく。
「はいはい、どうしたんですか?お昼食べた食器は持ってきてくださいね」
八戒は振り向きもせずに答える。
「…はい、食器……」
「はい。ちゃんと食べたらすぐに持ってきてくださいね」
「……はい…」
…今の八戒に逆らうと恐ろしいと本能が訴えるので悟浄はとりあえず洗い物が終わるまで待つ。
「…で、どうしたんですか?」
洗い物を終え、エプロンで手を拭きながら八戒が悟浄にそうたずねる。
悟浄は、にっと笑うと二本の割り箸を取り出す。
「…これは?」
「王様ゲーム♪」
「…二人でですか?」
悟浄の突然の発案に八戒は呆れた顔をする。
「いーじゃん」
だだっ子のように言う悟浄に、八戒は『はいはい』と呆れながらも一本引く。
「はい、じゃあ一番さんは王様の代わりに買い物お願いしますね」
八戒は王様と書かれた割り箸を見せながらにっこりとそう言った。
「……重い…」
悟浄はたくさんの買い物袋を持ち、そう呟く。
しかし、悟浄としてはこれは考えの範疇の出来事である。
八戒が運がいい…というか、賭け事に強いのはわかっている。
だから、今回は長期戦で行こうと決めたのだ。
ようは一回勝てればそれでいいのだ。
それまで何回負けても。
それに、自分がどんな嫌なことも素直にやっていればいざ八戒が負けたときに自分がどんな命令をしても八戒は逃れられない…ハズだ。
……しかし…
「重い…マジで……」
米・醤油・味噌の入った袋を見つめ、悟浄はすでにめげそうになっていた…。
それから悟浄はことあるごとに『王様ゲーム』をしようと言い出した。
最初はイヤイヤやっていた八戒であったが、悟浄にお手伝いを頼むことが出来るので、そのうち、なんの抵抗もなく王様ゲームをやるようになった。
今のところ、八戒の勝率は100%である。
悟浄はそのたびに『買い物』『掃除』『洗濯』…ましたや『禁煙』などを言いつけられたのであった…。
そんな悟浄にもやっと運気がまわってきた。
遂に『王様』を引くことが出来たのだ。
一体何回目の王様ゲームであっただろうか。
「…負けてしまいましたね…」
八戒は苦笑いをする。
悟浄の満面な笑顔を見る限り…おそらくとんでもない命令が来るだろう。
「じゃ、一番は今日一日これだけを着ること!」
そう言って悟浄が八戒の目の前に差し出した物は……薄手のエプロン一枚…。
「つまり、今日一日裸エプロンでいろ…ってことなんですか?」
「んー、まぁそういうコト…」
悟浄は一生懸命頭の中で言葉を探す。
八戒が素直に『はい、そうですか』と言うはずもない。
なにせ、命令が『裸エプロン』であるだけに…。
だあ、このために辛い炊事洗濯生活をしてきたのだ。
嫌だとは言わせない。
「…仕方ありませんね…。命令ですからね…」
「…え…?」
悟浄は一瞬耳を疑った。
今…八戒は何と言った?
いいって言ったのか?八戒が…。
それはかなり官能的であった。
まだ陽も高く明るい部屋で八戒が素肌にエプロンだけをつけているのだ。
男としてはまさに『たまらない』といった状態である。
ここで我慢して見てるだけだなんて、男として絶対に無理だ。
「…八戒…」
悟浄は後ろから八戒を抱きしめる。
「ちょっと…悟浄…」
抵抗しようとする八戒を壁に押しつけて唇を奪う。
悟浄はもう我慢の限界だった。
荒々しく八戒の口内を犯していく。
「………」
しばらくすると八戒も少しずつではあるが悟浄の舌に答え始める。
……珍しい…。
普段、共に同意の元で始めたとき以外、八戒が自分から応じることなど滅多にない。
今日なんかこんな状態でなのにこの積極性はどうしたんだろう…。
「…八戒……」
頭では疑問に思っているものの、八戒の行動に悟浄はしんぼーたまらん状態で性急に八戒を求めていく。
「八戒…も、いい…?」
悟浄は興奮を押し留めた声で八戒に問う。
それに対して八戒から帰ってきた物は…
…二本の割り箸…。
「…え…?八戒…これは…?」
「一本引いてくださいゥ」
満面の笑顔を見せる八戒…。
…もしかしなくても怒っている…?
それまで興奮していたその血がさーっと引くのがわかる…。
それこそ、今まで天を仰いでいた悟浄自身が一気に萎えるほどに…。
「さ、早く引いてくださいゥ」
確率は二分の一…。
悟浄は思いきって二本のうちの一本を引く。
そこに書かれていたのは…
───── 一番
「僕が王様ですねゥ」
…一体何を命令されるのだろう…。
もしかしたら一ヶ月禁欲生活!とかかもしれない…。
かなり怯えている悟浄に対して八戒の言った命令は意外すぎるものだった。
「……え…?」
悟浄は信じられずに間抜けな声を上げてしまう。
アホヅラをしている悟浄に八戒は優しく口付ける。
「…一番が王様に…貴方のモノを入れてください…」
何度聞いても悟浄は耳を疑ってしまう。
八戒は怒っていたのではないのか?
「だめなんですか?」
今まで見たこと無いほど艶っぽい視線で悟浄を見つめる。
そんな八戒の表情に、一度は萎えてしまった悟浄自身も先程と同じ…いやそれ以上というぐらいの回復を見せる。
「…だめなわけあるかよ。王様の命令だしな」
八戒を壁に押しあてると、お尻だけを突き出させ、後ろから一気に貫く。
「あ…悟浄…」
八戒の唇から漏れる甘い声に悟浄は我を忘れたかのように腰を動かした。
「はい、悟浄ゥ」
行為後の一服をしている悟浄の目の前に出されたのは…やはり二本の割り箸…。
そして一本引いてみれば、やはり書いてあるのは『一番』という文字…。
「じゃあ、一番は王様の代わりに掃除と食事の支度をしておいてくださいねゥ僕は少し休みますから」
にっこり笑ってそう言うと八戒は自室に戻っていく。
「…まいっか…」
悟浄は『一番』という割り箸を見つめながらそう呟いた。
とりあえず初目的は達成したのだから…。
悟浄が『次は何にしよう…』とよからぬコトを考えていたのは言うまでもない。
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