48 STUDIES Op48
14.つり橋(つりばし)




いつも笑顔を作り続ける……。
幸せだからじゃない……。
ただ…笑顔という壁を作って誰にも近づけさせない為だけに僕は笑い続ける。


「雨が降る前について良かったですね」
僕は笑顔で嘘をつく……。
本当は雨が降る前が一番嫌いだから。
いっその事、降り続ける雨の中でずぶぬれになりたい。
建物の中で雨を感じるよりも……その身で雨を受けたい。
何故かその方が苦しくないから……。
いや、本当は苦しみを受けたいからなのかもしれない。


今日は三蔵と同室だ……。
雨の日に三蔵と同室になりたくない。
でも雨の日に三蔵と同室になる事は多かった。
三蔵なりの気遣いだろう……。
三蔵が自分に好意を抱いている事は気がついていた。
それはさりげない行動に現れていて、普通なら気がつかず見落としてしまいそうなぐらいで……。
それでも僕は気がついた。
自分も三蔵に好意を抱いているから。
それが他の人に対する好意よりも特別なものだと自分で気づいていた。
でも僕は三蔵を求めない……。
もう誰も求めないと決めていたから……。


「三蔵、コーヒーここに置いておきますね」
僕は笑顔という仮面をかぶり続ける。
……自分の本心を隠して……。
それでも、雨の日は辛すぎるから……。
「僕、なんか疲れちゃったんで先に休ませて頂きますね」
眠れる訳もないのに、そう言って逃げる。

モノクルを外し、ベッドに横になる。
目を瞑ると雨の音が余計に大きく感じられる……。
思い出したくもない事が次々に思い出される。
何も考えたくないのに……。
「…八戒、まだ起きているんだろう?」
三蔵に声をかけられたが僕は答えなかった。
……僕にかまわないでほしい……。
「……八戒……」
起きているのに返事をしない僕に三蔵は苛立ちを覚えたのか、ゆっくりとベッドに寄る。
そして僕の上にかけられている布団をはぎ取る。
「何故無視をする…」
「…すいません…少し考え事をしていたもので…」
そう言って僕はまた笑顔で壁を作る。
そうしていないと、三蔵には何もかも見透かされそうで怖かったから……。
「お前はそうやって俺を拒絶するのか……」
「……え……」
急に両肩を押さえつけられる…。
そして三蔵に唇を奪われる…。
何が起こっているのか分からなかった。
「俺はお前が好きだ……。お前も気づいているのだろう…」
そう言い再び唇を奪われる。
先程よりも深く……。
三蔵の手が僕の肌の上を滑っていく…。
三蔵は僕を求めているの?
…でも…僕は誰も求めない…。
「…ん……」
僕は必死で声を抑える。
三蔵を求めたくないから……。
「……八戒……」
仰向けに横になっている僕の腰が持ち上げられる。
「や…あ……った……」
後ろに三蔵の熱を感じた瞬間、僕はそれに貫かれた。
……怖い……。
笑顔という壁が一枚無くなっただけでこんなにも不安になる……。
あの魔力を持ったような紫色の瞳に何もかも見透かされそうになるから……。
……見ないで下さい。
何も知られたくないから……。
何も知りたくないから……。
何も考えたくないのに……。
………………。
……ならば何も考えなければいい。
心を閉ざしてしまえばいいのだ。
そうすれば何も苦しくない……。
「…………」
ほら、もう何も感じない……。
どんなに揺さぶられても……もう何も感じないでしょ……。


「…悪かったな…」
三蔵は服を身につけるとそう言い部屋を出ていった。
苦しそうな顔をして……。
僕は何も言わずぞの姿を見送った。
…そんな三蔵を見て僕の心も少し痛んだ。
僕は誰も求めない……。
だから貴方も僕を求めないで下さい……。
でもね……

本当は貴方のこと…愛しているんですよ……

 

Op48に戻る