春の歌 OP41

 

「今日の部屋は二人部屋が二つです」
大体どこの宿もツインが多いわけなので大概はこうなるものである。
「じゃあ俺、八戒とがイイ」
と八戒にまとわりつくのは悟空。
「何度も言わせんな。お前と八戒が同室になったら八戒が寝不足になるだろ」
だから俺と……と言ってくるのは悟浄。
みんな八戒と同室になりたがる。
「なー八戒、俺とでいいだろ?」
「うるせえ、八戒は俺と同室になるんだよ」
と、悟浄と悟空は八戒を取り合ってケンカを始める。
その様子は、保母さんを取り合う園児……。
もしくは母親を取り合う子供である。
八戒は困った顔で、ふう……とため息をつく。
自分としては誰と同室でも構わないのだが……。
このまま騒ぎ続ければ、三蔵がキレて発砲……。
そうなれば自分が宿の人に謝りに行かねばならない……。
こういう事も続くと、だんだん気が重くなってしまう。
だからといって、この騒ぎを止めるのは不可能に近い。
「……困りましたね……」
そのうちブラックリストに載って、どの宿でも泊まれなくなってしまうのではないだろうか……。
八戒は心配になってくる……。
八戒は心の中で三蔵発砲までの時間をカウントダウンする。

5…4…3…2…1…

ガシャン
その時聞こえた音は予想外のものだった。
銃声ではない……。
ゆっくりと音のした方を見る。
そこにはあからさまに機嫌の悪そうな顔で新聞を読んでいる……三蔵……。
先ほどの大きな音はコーヒーカップをソーサーに戻した音なのだろう……。
一目で分かる……。
三蔵は機嫌が悪い……。

「俺達、今日は同室でいいよ。な、悟空」
「あ……ああ、悟浄」
二人は引きつった笑いで手を取ると鍵を掴む。
「じゃ、お先」
バタバタと部屋に走っていく。
「…………」

逃げましたね……。

悟浄と悟空は八戒を置いて逃げた……。
きっと八戒なら三蔵をなんとかしてくれるだろう……と。
怒った三蔵を八戒に押しつける……。
いわゆる『困った時の八戒頼み』というヤツである。
八戒としてはいいメーワクである。
この超不機嫌な三蔵と二人っきりで残されて……どうしたらいいのだろう……。
さっきよりも深いため息をついてしまう。
「僕たちも部屋に行きましょうか……」
とりあえず、いつまでもロビーに居ても仕方がないので部屋へと移動する。
部屋まで移動する間、八戒はどうやって三蔵の機嫌を直そうか考え込む。
気が重い……。
こんな事なら発砲されて謝りに行く方がマシである……。

 

「……わっ……」
部屋に入った途端に、八戒は三蔵に抱き寄せられる。
その三蔵の顔に先ほどまでの機嫌の悪さわない。
「……機嫌…悪いんじゃなかったんですか…?」
おそるおそる尋ねる。
「ああすれば、お前と同室になれると思ってな」
三蔵はニヤリと笑う。
「……なるほど……」
余りの事に、驚きの後に笑ってしまう。
「……三蔵法師サマは随分と策略家なんですね」
「まあな……」
二人の顔が近づき唇が重なり合う。
「きっとあの二人、今頃おびえてますよ」
「たまにはイイだろ。しばらく反省させておけ」
「そうですね」
部屋に小さな笑いが響いた。

ちなみに悟浄と悟空の部屋では……
予想通り、怒った三蔵に怯えて責任を押しつけ合っている二人の姿があった……。


 



1111Hitの娑伽羅サマのリク「8受系、全員のギャグまたは日常のお笑い(ひそかに38)」でした。
なんか短くてすいません〜。
ギャグって苦手で……。
こんなのでよろしかったでしょうか?

P・S この話はフィレンツェ→ローマのバスの中で書きました。


 

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