アーモンド入りチョコレートのワルツ Op181




「では、買い物に行ってきますね」
 八戒はそう言って家を出た。
 この所続いていた寒空も少しおさまり、今日は青空から暖かな日差しが降り注ぐ。
「このところ、あまり買い物に出てなかったから、買う物沢山ですねえ…」
 八戒は指を折りながら買う物を確認し、小さく呟く。
 噂によれば、この暖かな日もあまり長くは続かず、またすぐに天気が崩れるらしい。
 そうなれば、森の中にあるあの家から街まで買い物に来るのも……億劫になってしまう。
 現に今までそうしていたから、こんなにも買う物が多くなってしまったのだ。
「うーん……」
 その量を考え、八戒は溜息を吐いた。
「まあ、でも仕方がないですね」
 決心するかのようにそう言い、いつもの店に向かおうとした時、街がいつもよりもにぎわっているのに気づく。
「……………?」
 今日は何かあっただろうか……。
 いや、そんな話は聞いていない。
 自分と同じように、冬の買い出し……?
 それにしては、何か若い女性が多いように思える。
「あ………」
 人が集っている店に立てられた幕を見て八戒は小さく声を上げる。
『聖バレンタイン』
 そういえば、もうそんな時期である。
 女性にとっては一大イベント……みんなが必死になるのも頷ける。
 その様子を見て八戒は小さく笑い、そこを通り過ぎようとした。
 その時八戒の頭にある言葉が思い出される。
『バレンタインってチョコ貰える日なんだろ?
 八戒、俺にチョコ頂戴!絶対、な』
「………………」
 悟空としてはバレンタインの詳しい意味を知らずに、ただ『チョコが貰える日』として言ったのだろうが……。
 あの時自分は……それに頷いてしまった気がする。
「……まずいですね……」
 他の事ならともかく、食べ物の事とあれば、悟空は忘れるハズはない。
 一度約束してしまったものを破る訳にもいかない。
 しかし……。
「………………」
 この若い女性が群がっているチョコレート売り場に、成人男性である自分が入っていくのはちょっと……。
 八戒は店から少し離れた所で躊躇しながら店の様子をうかがう。
「……どうしましょう」
 悟空に返事をした時にはあまり深くは考えていなかったが……これはなかなか……。
 普段、普通にチョコレートを買う分にはどうってことない物だというのに、こうなってしまっては……。

「あ……」
 そこまで考え、八戒に一つの考えが浮かんだ。




「さて、こんな物ですかね」
 八戒は、買い物のついでに買った『材料』を台所に並べ、そう言う。
 そう、既製品を買おうとするから苦戦を強いられるのだ。
 材料の板チョコの状態ならば、何の問題もない。
 幸い、自分の調理の腕には自信がある。
「さて、何を作りましょうねぇ」
 チョコクッキー?
 チョコケーキ?
 それともシンプルに、普通に型に入れたチョコ?
 チョコトリュフやチョコレートボンボンという手もある。
 悟空ならどれも好きだろう。
「んー……」
 と、なれば、悟空一人にだけあげるのも何か不公平な気もする。
 そうなればやはり、三蔵や悟浄にも……。
 バレンタインに男の自分から男にあげるのも…どうかと思うが、三人に平等にあげるのならば……。
 そんなに違和感はないかもしれない。
「そうですよね」
 ある意味いい機会になったのかもしれない。
 これで、堂々とあの人にあげることができる。


「……これで完成ですね」
 出来たチョコレートを綺麗にラッピングして、テーブルに並べる。
 三つのチョコレート。
 見た目は何もかわらない、同じチョコレート。
 でも一つだけは特別。
 あの人が好きだと言っていた『アーモンド』入りのチョコレート。
 そんな些細な事に、あの人は気づかないかもしれない。
 ……でもそれでもいい。
 自分の想いはチョコレートの中の、アーモンドに全て詰め込んだのだから。
 気づいて貰えなくても、きっと想いはどこかに伝わる。
 そう想うから。

 ……きっと伝わる。
 2月14日……今日はそんな特別な日だから




ひさびさにオン新作です。
ひさびさに企画にのってみました。
このタイトルが使いたかったから(笑)
サティです。

カプはお好きに想像してください。
複数書く余裕はないので…えへ

何か前フリだけ長いものになった気がする。
こんな短い話なのに……。
うーん。ま、いっか。



ノベルOp181〜200に戻る