Un Miroir Casse 〜壊れた鏡〜 Op124
三蔵と八戒は共に想いを寄せ合っていた。
それはまだ西に向かって旅をしていた頃からだった。
その事は、悟浄の悟空も気づいていただろう…。
それでも二人は何も言わなかった。
また三蔵も八戒もその事について何も言わなかった。
それで何も問題ない、そう思っていたから…。
「え、悟空をですか?」
その日三蔵は突然、八戒と悟浄の家を訊ねた。
そしてしばらくの間悟空を預かって欲しい…そう言ったのだ。
「それは構いませんけど…」
突然の事に戸惑いながらも、八戒はそう答えた。
「すまんな。突然の用事でな…。
しばらくコイツの事を頼むぞ」
「わーい、八戒んちにお泊まりだ♪」
悟空は無邪気にそうはしゃぐ。
…そう見えていた、その時は。
悟空を預かるのはそう珍しい事ではない。
三蔵が長期にわたって寺を空ける時は大概悟空を預かっていた。
だから三蔵がそう言ってきた事をそんなに気にしてはいなかった。
「おかわりー。
八戒の飯美味いから大好き」
悟空は元気よくそう言いながらお茶碗を八戒に向かって差し出す。
「そう言って頂けると作りがいがあります。
沢山食べて下さいね」
八戒は受け取った茶碗に山盛りにご飯を注いで悟空に返す。
悟空はニコニコとそれを受け取り、そのご飯を胃の中に収めていく。
「お前見てると、もうコッチがゴチソウサマって感じだな…。
もう俺出かけてくるわ」
「悟浄、もういいんですか?
まだ全然食べてないじゃないですか」
ほとんど手のつけられていないまま箸の置かれた悟浄の食事を見て八戒はそう言う。
「もうサル見てるだけで胸焼けするわ」
「悟浄食わねーなら俺貰うー」
悟空は悟浄の皿を手元に引き寄せる。
そんな様子を見ながら八戒は苦笑した。
「今日は何時頃帰られるんですか?
夜食いりますか?」
「ん、まーいつも通りかな。
夜食はいいや」
イッテキマスと手を振る悟浄に八戒も笑顔で手を振った。
「悟浄っていつも何時ぐらいに帰ってくんの?」
食事を終えて、悟空は八戒の部屋で微睡みながらそう問う。
「そうですねー…。
だいたい二時か三時ですかね」
悟空の布団を引きながらそう答える八戒に悟空は、ふーんと小さく相づちを打った。
「ねえ、八戒」
「何ですか?」
いつもの調子で言う悟空に八戒も笑顔で返す。
「八戒って三蔵と付き合ってんの?」
「え……」
突然の事に八戒は戸惑う。
「別に隠さなくてもいいよ。
悟浄も気づいてたしさ」
軽くそう言う悟空に八戒は恥ずかしそうに笑う。
「やっぱり知ってたんですね…」
気づいていたのは分かっていたが、面と向かって言われるとやはり恥ずかしさが出てしまう。
「バレバレだって」
そんな八戒を見て悟空も笑った。
「じゃあさ…俺が三蔵の事好きだって事は気づいてた?」
今までとは変わって真顔で悟空がそう言う。
それと同時に八戒の体は悟空用の布団の上に押しつけられる。
「…悟空……?」
突然の事に八戒は戸惑いながら悟空を見上げた。
自分の体を押しつける悟空の力はかなり強く、簡単には押しのけられない。
「八戒…三蔵は俺に取って大切な人なんだ。
だからお願い…三蔵を俺に返してよ…」
真っ直ぐに見つめ真剣に言う悟空に八戒は言葉に困る。
悟空に取って三蔵は、自分を救い出してくれた人であり心の支えとなっているのだろう。
悟空の気持ちは分かる…。
でも自分にとっても同じなのだ…。
八戒にとっても、三蔵は大切な人なのだ。
たとえ悟空であっても…譲る事はできない。
「悟空…ごめんなさい。
…それはできません」
八戒はゆっくりと悟空に向かってそう言う。
「そう……」
その瞬間悟空の表情が変わる。
悟空とは思えないぐらい鋭く冷たい視線に…。
「せっかく今三蔵を返してくれたら許してやろうと思ったのにな」
「え……ぐっ…」
八戒が聞き返すよりも先に悟空の拳が八戒の腹部に当てられる。
その衝撃に八戒は意識を手放した。
「気が付いた?」
うっすらと浮上する意識の中、悟空の声が響く…。
その声の方に起きあがろうとして、八戒は自分の体が動かない事に気づいた。
慌てて自分の体を見る。
「…悟空…これは……?」
両手足を縛られ固定されている自分の姿に八戒は震える声でそう問う。
しかし悟空は八戒の問いには答えず笑いながら八戒を見下ろす。
「ねえ、どうやって三蔵を誑かしたの?」
「誑かす…ってそんな…」
八戒は首を何度も横に振る。
悟空は小さく笑い八戒の上着に手をかける。
そして一気に引き裂いた。
「悟空!」
そう叫ぶ八戒を気にせず悟空は八戒の白い肌を指先でなぞる。
そして白い肌に浮かぶうっすらと赤い跡の上でその指を止める。
「コレ三蔵がやったの?」
「……………」
八戒は怯えた目で悟空を見る。
そんな八戒の目の前に悟空は煙草の箱を差し出す。
それは悟浄のハイライトだった。
悟空は煙草の箱から煙草を一本取り出しライターで火をつける。
「八戒の体に三蔵の付けた跡があるのやなんだ。
消していい?」
そう言い悟空は火のついた煙草を八戒の肌の赤い跡に押し当てる。
肌の焼けこげる嫌な匂いが部屋に広がった。
「あぁ…やぁぁぁぁぁぁぁ」
肌が焼ける痛みに八戒は絶叫に近い声を上げる。
その八戒を悟空は笑って見つめた。
「ねえ、三蔵と別れるって言ってよ」
冷たく自分を見下ろしながら笑う悟空に、八戒は怯えながらそれでも首を横に振る。
悟空は再び八戒の肌に指を戻すと別の跡をなぞる。
「ふーん、じゃあ次はこの跡にしよっか」
そう言って笑いながら煙草を取り出した。
「八戒って結構強情なんだね」
すべての跡を焼き尽くされても八戒は首を縦には振らなかった。
八戒の白い肌には無数の火傷の跡が残る…。
目からは痛みよって涙がこぼれていた。
「そろそろ悟浄が帰ってくる時間だ。
今日はここまでにしよっか。
続きはまた明日ね」
次の日の朝…悟空の態度はいつも通りだった。
昨日あった事が夢だと思えるぐらいに、純粋な笑顔で…。
八戒はそっとシャツの上から自分の肌に触れた。
昨夜の火傷の跡に触れるとズキズキとした痛みが走った。
昨夜の事は夢では無いのだ…。
今純粋な笑顔を見せている悟空が…心の中では自分に敵意を向けているのだと。
そう考えると恐ろしくなる。
「八戒どうしたの?
なんか顔色悪いじゃん」
元気のない八戒に悟浄が心配してそう声を掛ける。
「悟浄……」
でも悟浄にこの事を言えない…。
言った所で信じて貰えるのだろうか。
「いえ、大丈夫ですよ」
俯きそう言うのが精一杯だった。
「どーしたの?
八戒、風邪?」
「…………っ」
突然悟空が八戒の顔を覗き込む。
そして熱を測る様に手の平を八戒のおでこに当てる。
息をのんでそれをやり過ごす。
極度の緊張と恐怖に汗が流れた。
「ちょっと熱あるかな。
八戒、部屋で休んだ方がいいよ」
そう言い悟空は八戒の手を引き部屋に向かった。
「悟浄に言おうなんて考えてないよね」
部屋の扉を閉めた瞬間、悟空がそう言う。
「いえ…そんな……」
八戒は震えながらゆっくり口を開く。
悟空に見られる度に、恐怖が全身を襲う。
「なんなら悟浄にも協力してもらおっか。
多分悟浄は八戒の事好きだから、この話乗ってくれるかもしれないし」
そう言い悟空は笑う。
「ま、考えとこっかな。
じゃあ八戒ゆっくり休んでなよ。
今夜に備えてさ…」
そう言い悟空が出て行った部屋で、八戒は絶望に打ちひしがれた…。
「今日も悟浄出かけんの?」
夕食の場で悟空が悟浄にそう訊ねる。
「ああ。ちょっと稼がねえとな」
悟浄の言葉に八戒は唇を噛みしめる。
このままでは今夜も……。
「そっか、出かけるんだ」
悟空は八戒に向かって笑いかける。
表面的には普通の笑顔であったが、八戒はあざ笑われているのだと感じた。
昨日と同じ様に、いってきますと行って出かけようとする悟浄を八戒はそっと追いかけた。
「どうしたの?」
玄関で悟浄の服の端を掴み呼び止める。
「あの…今日は出かけないでいてくれませんか?」
八戒は躊躇いがちにそう悟浄に言う。
その様子は普通ではない…そう悟浄は感じた。
「いいけど…どうかしたのか?」
縋るように言う八戒に悟浄は理由は分からないが承諾する。
その答えに八戒はほっと息を吐く。
しかしその瞬間、後ろから悟空が八戒に抱きつく。
「なにしてんの、八戒。
ねえ、一緒に遊ぼうよ」
そう言い強引に八戒を連れて行く。
「悟浄、行ってらっしゃい」
振り向きざまに悟空は笑顔で悟浄に向かってそう言った。
「悟空…離して下さい…」
強い力で体を捕まれ八戒はそう声を上げる。
「悟浄に何言ってたの?」
「…な…何も……」
俯く八戒のあごを掴み無理矢理自分の方を向かせる。
「悟浄に抱いて欲しかったの?
八戒は淫乱だな〜」
「違っ…」
悟空は慌てる八戒を押さえつけて着ている物をすべて脱がす。
「悟浄とヤッた事はあるの?
無いんなら可哀相だよね。
抱かせてやれば?男なら誰でもいいんだろ?」
その言葉に八戒は急に強い目で悟空を睨み付ける。
「僕が愛してるのは三蔵だけです。
三蔵以外には心も体も許す気なんてありません」
ハッキリと言う八戒を悟空は床へと叩き付ける。
「調子にのんなよ。
ホントに三蔵に愛されてるなんて思ってんのか?
三蔵は八戒に同情してるだけなんだよ!」
床に転がった八戒の体を蹴りつける。
そして俯せに押さえつけると八戒の尻を高く持ち上げる。
「早く三蔵と別れるっていえよ」
「…言いません……」
否定の言葉を言う八戒に悟空は無言で手に持った如意棒を八戒の秘所に押し当てる。
そして解してもいないソコに先端を押し込む。
その苦痛に八戒は悲鳴を上げる。
「…やめて…抜いてください…」
瞳から涙を流しそう叫ぶ八戒に悟空は更に如意棒を深く突き刺す。
「このまま如意棒伸ばしたらどうなるかな〜」
「や…許してください……お願い……」
残酷な微笑みで言う悟空に八戒は泣きながら呟く。
悟空は八戒の中に入れた如意棒を少しずつ伸ばしていく。
かなりの太さのそれが中に押し入ってくる恐怖に八戒の手が震える。
「三蔵と別れるっていえよ」
如意棒を奥に押し込みながら悟空はそう言う。
それでも八戒は必死に首を横に振った。
苦しさに涙を流しながらも決してそれを受け入れようとしない八戒に悟空は苛立ち始める。
「なんで言わねえんだよ!
……なあ、八戒。このままこの如意棒伸ばしたらどうなるかなあ。
八戒を突き殺しちゃうかなあ」
悟空は笑いながらそう言う。
「冗談で言ってんじゃねーよ。
八戒が死んだら…三蔵は俺の物になるし。
このまま殺しちゃおっか」
八戒の耳元でそう囁く。
それでも八戒は首を横に振り続ける。
「ああ、分かったよ。
じゃあお望み通り殺してやるよ」
「何をしている」
まさに突き殺そうとした瞬間、扉が開く。
「さ…三蔵……」
そこに姿を見せたのは…三蔵だった。
三蔵はゆっくりと八戒に近づく。
そして力無く倒れる八戒を抱き寄せる。
「…三蔵……」
自分を抱き寄せる三蔵の姿に緊張の糸が切れたのか、八戒はそのまま気を失った。
「どういう事だ?」
三蔵は悟空に向かって冷たくそう言う。
悟空は悔しさに手を握りしめる。
「こんな事をして俺が手に入るとでも思ったのか?」
「……俺、絶対諦めないから」
悟空はそう叫び部屋を飛び出した…。
数日後、八戒は三蔵に呼ばれ寺へと向かった。
「八戒、体はもういいのか?」
「はい…」
優しい言葉を掛ける三蔵に八戒はそっと身を寄せる。
辛い事だったけれど…こうして三蔵の元に居ることが出来るのだから。
だから良かった…と。
「済まなかったな、サルが勝手な事をして」
「いえ、いいんです…僕も悪かったんですから」
悟空の気持ちに気づくことが出来なかったのだから…と言おうとした時、三蔵が部屋の奥の扉を開けた。
「………!」
その中の光景に八戒は息を飲む。
「サルにはきちんとお仕置きをしてやった」
それはお仕置きと言うよりも拷問に近い様子…。
言葉を失い、八戒は震える足で後ろに下がった。
「ああ、他の男に体を許したんだ、お前にもお仕置きしてやらなきゃなあ」
冷たい言葉と共に、三蔵の手の中で鞭が乾いた音を立てた…。
「え…、三蔵…嘘ですよね?」
そんな八戒の声が鞭の音に消されていった……。
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