Pavane   Op.12


─────  悲劇はいつも突然やってくる。
それまで築き上げた幸せが一瞬で消える。
幸福の後の悪夢。
醒めることのない夢。
カミサマ、これ以上僕の大切な人を奪わないで下さい。

家へと続く森の小道。
そこを早足で抜ける八戒。
「…立ち話したら随分遅くなってしまいましたね。早く夕飯の支度をしないと悟浄に怒られてしまいますね」
陽はすでに傾いており、夕日が森の木々を赤く染めていた。
小道を抜けると夕日によって赤く染められた小さい家。
八戒はその家の玄関のノブをゆっくりとまわす。
「遅くなってすいませ……」
八戒がきれいなエメラルドの瞳を大きく見開く。
倒れたイス。
落ちて砕けた花瓶。
テーブルの上に置いてあった果物も、床の上でその形を変えている。
所々に砕けたガラスの破片が散らばっている。
そして、差し込む夕日の赤が混じっている……血の赤。
「…悟浄……悟浄っ!」
その家の住人の名を呼ぶが返事はない。
「……悟浄、どこですか?」
居間を抜けて悟浄の部屋の扉を開ける。
足元に、カベにかけてあった時計が落ちていた。
八戒はその時計を拾い上げる。
その時計は、ガラス盤にヒビが入っており、もうすでに時を刻んではいなかった。
その時計が時を刻むのをやめた時刻……。
……1時23分………。
「……花喃………」
霧のかかっている悪夢。
今その霧が明ける………。

 

八戒はは無意識に百眼魔王の城へと向かっていた。
そこにはあるハズのない建物。
あの時と同じ城がそこに建っていた。
「……これは……」
この城は、この事件と繋がっていると思い、八戒は城の中へ入る。
吐き気のする程の血の臭いが城中に溢れていた。
しかし不思議な事に一つの死体も無かった。
無人の城。
でも血だけは海のように……。
耳にこびり付く雨音に窓の外を見れば、空は涙ではなく血を流す。
血の赤だけが視界を埋め尽くす。

 


あの時と同じ城の中。
しかし地下だけはまったく違っていた。
そこにあるのは地下牢ではなく……。
城中の血の臭いを全くさせない清浄な空間。
「………教会……?」
地下だというのにステンドグラスを通して室内を照らす光。
祭壇に置かれた真っ赤な棺。
八戒は祭壇に歩み寄ると棺の蓋に手を掛け開ける。
「……悟浄……」
血の気のない顔。
冷たい手。
唇に耳を近づけても呼吸は聞こえてこない。
首元に手を当てても脈は感じられない。
「悟浄…起きて下さいよ………。悟浄……」
八戒の左目から溢れた涙が頬を伝い床へと落ちる。
「悟浄!悟浄!悟浄!ごっ………」
八戒は冷たくなった悟浄の身体にすがるように泣き崩れる。

 


悲痛なレクイエムが教会内に鳴り響く。
後ろを振り返れば喪服の人々。
その影からゆっくり歩み寄る人物。
牧師の格好をしているその人物は……。
「……清一色……」
「ようこそ我が城へ……猪悟能」
八戒は自分の血が一瞬凍結した気がした。
そしてその血液は一気に沸点へとかけ上がる。
「……たが……あなたが悟浄を殺したのですか!?」
清一色の胸ぐらを掴む。
清一色は落ち着き払ったまま口を開く。
「彼はまだ死んではいませんよ」
八戒の動きが止まる。
「……だって…呼吸も…脈も……」
「仮死状態にあるだけですよ」
八戒の手が弛む。
清一色は八戒の手を掴むと唇を耳元に寄せる。
「わかりますね。彼を生き返らす事が出来るのは我だけなんですよ」
八戒は悟浄の棺を見つめる。
「さあ、アナタが選びなさい。彼の運命と……アナタの今後を」
八戒の手が震える。
「なんでしたら今ココで彼の葬儀を執り行いましょうか?」
八戒はぎゅっと目をつぶる。
「分かりました。……あなたに従います」

 

「さあ猪悟能……アナタの部屋に案内しましょう」
清一色は八戒の手を引き、血塗れの廊下を歩く。
「……この血………」
清一色はゆっくりと口を開く。
「この血はアナタの為に用意したんですよ。……アナタは赤がないと生きていけないでしょう」
清一色は赤をワザと強調して言う。
「…その為に……人を殺したんですか?」
八戒の顔が青ざめる。
「ええ、近くの村の人をね。あ、そうそう死体は……」
1つの部屋の扉を開けると八戒の背中ををしその部屋に入れる。
「アナタがさみしくないように部屋に入れておきましたよ」
さほど広くもない部屋に何体もの死体。
そのどれもが苦痛のまま死んだことを表している。
大きく目を見開き、苦痛を訴える顔。
何かにすがろうと延ばされたであろう腕。
その死体が……数年前、自分が殺した村の人の屍と重なって見える。
唇を噛みしめる。
「……悟浄はいつ生き返らせてくれるんですか?」
震える唇で必死に言葉を紡ぎ出す。
「……アノ男ですか……。生き返らせたら何かと五月蠅そうですしね……。我がアナタに飽きたときにでも生き返らせてあげますよ」
「…そんな………」
「そんなにアノ男に会いたいのならこの部屋に入れてあげましょうか?」
もちろん死体にしてから、と付け加え笑う。
「それじゃあ、ゆっくりとくつろいで下さいね。」
扉が閉められ、外からカギがかけられた。


それから一体どれだけの時間が経ったのだろうか。
八戒はむせ返るような血の臭いの中で膝を抱えて座っていた。
その瞳は虚空を見つめている。
コツコツという音が廊下に響き渡り、やがて部屋の前で止まる。
金属音と共にカギのかけられた扉が開かれる。
「気分はどうですか?猪悟能」
八戒は音にも声にも反応せず、ただ虚空を見続ける。
「おや、相手をして上げなかったからスネちゃいましたか?それなら遊んであげましょう」
八戒の腕を掴み、引き倒す。
「や…やめ……」
八戒が目を見開き、悲鳴を上げる。
「……まだ心はコワレきっていないようですね……。我が壊してあげますよ」
清一色は八戒の上にのりかかると、上着を引き裂く。
そして、八戒の肌に唇を這わせると、所有の証刻む。
ズボンのベルトを鋭い爪で切る。
脅える八戒の顔を見ながら、ゆっくりとズボンを脱がす。
「どうです?死体の目に見られながら犯られるのは」
八戒の身体をうつ伏せにひっくり返し、そのアゴを床につける。
死体達の視線と八戒の視線が重なり合う。
そのまま腰だけを上げさせ、八戒のモノを手で高めていく。
「おや、もしかして見られた方が燃える人ですか?」
「………ッ」
清一色が慣らしもせず自らの昂ったモノを八戒の中に入れる。
激しい苦痛に八戒の目から涙が零れる。
「我はアナタに愛して欲しいわけじゃないんですよ。……アナタに苦痛、崩壊、そして永遠の絶望を与えたいんですよ」

力無く横たわる八戒の横で清一色は身の回りを整える。
「我は用事があるのでこれで…。でもアナタが寂しくないようにしておいてあげますね」
清一色は着物の袂から数個の雀牌を取り出す。
それを周りの死体に埋め込む。
「…なにを……」
半分腐りかけた死体達が八戒へと近付く。
「や…やめてください」
死体の手が八戒の身体をまさぐる。
その様子を見ながら清一色は部屋を出る。
「いやあぁぁぁぁ…………」
扉越しに八戒の悲鳴が聞こえる。
「終わりのない悪夢をアナタに……」


血にまみれた八戒がカギをかけ忘れた部屋を出る。
その表情は虚ろで瞳から光は消えていた。
八戒は夢遊病者のように廊下を進む。
行き着いた先は……悟浄の眠る教会。
棺の横に膝をつくと横の蓋を開ける。
そこには数日前と全く変わらない悟浄の姿。
眠っているような姿だが、やはり呼吸も脈もない。
…ただの生ける屍……。
「悟浄……ごめんなさい………」
生きても死んでもいない…。
いきることも死ぬことも出来ない…。
「ごめんなさい…それでも僕は………」
───── あなたを失いたく無かった………

 


END


 


5000HITの香サマリク「八戒さんが三蔵、悟浄、悟空を守るために(誰か一人でもいいです)拷問系のヒドイ目にあっちゃう」でした。
(レベルはむ赤)
どうやってもハッピーエンドには出来ませんでした…。
やばい……やばすぎ……なので返品可。


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