朝の歌 Op101
「では学校に行ってきますね」
八戒はそう言って扉を閉める。
しかし、八戒はエレベーターホールとは反対の方向へ向かって歩き出す。
同じマンションに住む幼なじみの悟浄を起こしに行くためだ。
幼なじみで同級生の悟浄は現在遅刻記録を大幅に更新中である。
級長として、幼なじみとして、これ以上ほかっておく訳にはいかない。
何よりも、風紀委員長に文句を言われるのは何故か八戒なのだ…。
「悟浄、起きていますか?」
インターホンを押しそう尋ねるが返答はない。
さらにドアノブに手を掛けてみるが鍵がかかっていて回らない。
八戒は小さくため息を吐く。
「困りましたね…」
そう言いながら郵便受けの底に手を伸ばす。
ソコにはテープで留められた合い鍵…。
「今時こんな古風な所に隠さないでって言ってるんですけどね」
と呟きながらその鍵で扉を開ける。
扉にはチェーンが掛けられておらず、すんなりと開く。
「危ないからチェーンもしておいて下さいって言ってるんですけどね…」
悟浄が自分の言うことを全く聞いていない事にため息を吐く。
しかしそのおかげで入ることが出来たのだから怪我の功名である。
八戒は小さな声で『おじゃまします』と言い奥へ進む。
悟浄の自室の扉を開けると、まだ完全に眠りこけている悟浄の姿…。
「悟浄…。もー、起きてください!」
そう叫びながら悟浄の躰を揺するが悟浄は目を覚まさない。
「悟浄、遅刻しますよ。
そして何でパンツ一丁で寝てるんですか!」
躰を揺さぶり続けると悟浄の腕がピクリと動く。
ようやく起きたか…と気を抜いたその隙にいきなり腕を掴まれ布団の中へと引きづり込まれる。
「……!?悟浄…ちょっと…」
あわてて藻掻くが予想以上の力に悟浄の腕の中から抜け出す事が出来ない。
「悟浄!起きてください」
耳元で叫ぶ八戒の声に悟浄はゆっくりと目を開く。
悟浄が目を覚ました事にほっとする。
これでここから抜け出せる…と。
でもそれも束の間だった。
「ん……?八戒…。
ああ…夢か……」
悟浄はまだ寝ぼけた様子でそう言う。
八戒が反論するよりも早く八戒の躰を押さえ込みその首筋に顔を埋める。
「悟浄離して…やめて下さい」
「…八戒…好きだ…愛してる…」
「は…?」
悟浄の言葉に八戒の頭の中が真っ白になる。
悟浄は何を言っているのだろう。
どうして『夢と勘違い』でこんな状態になるのだろう。
というか、どんな夢を見ているというのだろう。
いろいろな考えが頭の中をぐるぐると回り始める。
「…八戒……」
まだパニックになっている八戒は悟浄からの口づけに我に返る。
なんとか口づけから逃れようとするが、上から押さえられた状態では先ほど以上に動くことが出来ない。
その間にも悟浄の口づけはどんどんと濃厚なモノになっていく。
「ん…んん……」
八戒は苦しさで顔を横に振るが、悟浄は八戒の顔を固定し舌を差し込み口内を犯していく。
「やだ…ごじょ…」
必死に悟浄の胸を押すとようやく悟浄の唇が離れる。
しかし直ぐにその唇は八戒の胸元へと落とされる。
ネクタイが緩められブラウスのボタンが外される。
「ご…悟浄…やめて…」
悟浄は八戒の言葉には耳を傾けず唇を少しずつ下へと移動させて行く。
そして悟浄の手が八戒のズボンのベルトにかけられる。
「や…あっ……」
八戒が抵抗を示すよりも早く悟浄は八戒の体を持ち上げズボンと下着を取り去り、八戒の体を裏返す。
そして腰を高く持ち上げ八戒の秘められた蕾に舌を這わせる。
普段自分でも触れることのない場所に暖かく湿った感触が広がる。
「八戒…力抜いてろよ……」
その言葉と共に舌が離れる。
「え……なに………?」
しかし直ぐに舌よりも大きく熱いモノが八戒のそこに押し当てられる。
「愛してる……八戒……」
悟浄はそう言い力強くその身を推し進めた。
「いた…や…やだ………あぁぁ……」
再び悟浄が目を覚ましたのは昼過ぎであった。
それ自体は珍しい事ではない。
「………八戒………?」
しかし自分の隣で眠っている…全裸の八戒。
これは一体どうした事だろう。
悟浄は必死に記憶の糸をたぐり寄せる。
「マジか……?」
まさか…夢だと思っていた事が現実であったなんて。
八戒に何と言ったら良いのだろう。
まさか『いやー、いつも見てる夢だと思ってヤっちゃいました』などと言うワケにもいかないし…。
「ん……」
そんな事を考え答えが見つかるよりも先に八戒が目を覚ます。
「八戒…」
「……悟浄?………ッ!」
八戒はゆっくりと起きあがり、ハッとしてシーツをたぐり寄せ自分の体を隠しながら悟浄から距離をとる。
「八戒」
「近寄らないでください!」
八戒は悟浄を睨み付ける。
完全に悟浄を拒絶している…。
あんな事があった後だから当たり前だろう。
「八戒…ゴメン………。
でも俺……本当に八戒の事が好きだ。愛してる。
ずっと前から…。ずっと気持ちを隠し続けていた」
悟浄は真っ直ぐに八戒の目を見てそう言う。
もう隠して置くことは出来ない。
そう思って悟浄は八戒にすべてを打ち明けた。
それに対して八戒は何も言わなかった。
「八戒…俺の事、嫌いか?」
「…………」
その質問に対しても、八戒は悟浄から視線を背けただけで何も言わない。
悟浄は小さくため息を吐く。
「分かった。悪かった…。もうお前の近くには寄らないから……」
そう言い立ち上がると服を持ち部屋から出ようとする。
「……待ってください……」
悟浄が部屋からでる寸前に八戒が小さな声で悟浄を呼び止める。
「八戒?」
「……嫌いなんかじゃ…ありません」
八戒は小さくそう言。
悟浄はそっと八戒に近づく。
八戒は少し体を固くするが、それでも悟浄から逃げなかった。
「…八戒……」
「…僕も…貴方の事が好きです……」
八戒の背中に腕をまわし優しく抱きしめる。
「ゴメンな、いきなりあんな事して…。
もう無理にあんな事しないから」
「約束してくださいね……」
八戒はそう言い、そっと悟浄の背中に腕をまわす。
「あぁ…約束する」
八戒の耳元でそう囁くと…指きりの変わりにそっと口づけを交わした。
そしてそこから二人の物語が始まる…………