SONATA番外編
      
──Toccata e Fuga d moll  Op1−8

 


「ここは……?」
 八戒は真っ暗な部屋に立っていた。
 周囲を見回すが完全に闇に包まれていて何も見えない。
 ここはどこなのだろう…。
 自分はどうしてこんなところにいるのだろう。
 記憶がはっきりとしない…。
 ここがどこだかわからないけれど…ここにはいたくない。
 何故か寒気がする。
 何とも言えない不安のようなものが……。

「おかえり」

 その声に八戒の体が強張る。
 雲が切れ、月の光が部屋に射し込む。
 その月の光で声の主の姿が浮かび上がった。
「………ニイ健一」
 何時からそこにいたのだろう。
 八戒からそれほど離れていない場所に椅子を置き座っていた。
「違うよ。『御主人様』でしょ」
 ニイは座っていた椅子から立ち上がると八戒に近付く。
 一体、この男は何を言っているのだろう。
 この男が近付くたびに体中の怪我逆立つような感覚を覚える。
 少しずつ間を取り身構える。
「……痛い」
 一瞬の隙をつき、八戒の手を掴むと後ろ手に捻りあげる。
 一瞬のことで何がおこったかもわからない。
 背中に捻り上げられた腕が悲鳴を上げる。
「何を…」
 ニイは空いている片手で八戒の顎を掴むと無理矢理上を向かせる。
 残酷な笑みを浮かべた?と視線が合わせられる。
 その表情に八戒は殺意を覚える。
 ニイの顔を強く睨み上げる。
「離してください!」
「…反抗的な目だね。首輪が外れたくらいで自由になったつもり?」
「……どういうことです」
「君はボクのペットなんだよ、永遠にね…」
 八戒の額に冷たい汗が浮かぶ。
 殺意が恐怖へとその姿を変えていく。
 何故かはわからなかったが、この男が怖かった。
 全身が恐怖を感じこの男を拒絶する。
「あれ?忘れちゃったの?せっかく毎日可愛がってあげたのに」
 非道いなぁ、とニイはクスクス笑った。
「ほら、身体は覚えているでしょ」
 ニイの手が八戒の腰のあたりを撫で上げる。
 ゾクッとした寒気に近い感覚が体内を走る。
 この感覚には…覚えがある。
「や…やめて下さい」
 ニイの捕らえられていたときの記憶が滝のように流れ出す。
 身体がガタガタと震えた。
「ほら、新しい首輪をあげるよ」
 ニイが白衣のポケットから鎖付の真新しい首輪を取り出す。
 カチッという音がして八戒の首に首輪が嵌められる。
「今度は逃げ出さないように鎖もつけておこうね」
 首輪につけた鎖がジャラッと音を立てる。
 鎖の重みが伝わってくる。
 その重みが、自分を縛り付けるようだった。
「や…やめて、離して…」
 八戒は?の手を振り解くと逃げ出す。
 その瞬間、鎖が引かれ床に引き倒された。
 首に強い力が掛かり、八戒が激しく咳き込む。
「ほら、もう逃げられないだろう?」
 ニイは笑みを浮かべ八戒を見下ろす。
「い…いや……」
 八戒を上から抑えてつけると手を後ろに回させ手錠をかける。
「やっぱり、もう一度躾直さなきゃダメだね」

 

 


「やめて…赦してください…」
 八戒はニイの上に乗せられ、下から貫かれている。
 手を後ろで纏められているので抵抗できない。
 ニイが下から何度も八戒を突き上げる。
「…あ…やぁっ…」
「ほら、身体はボクのことよく覚えているでしょう?」
 八戒の首元に顔を埋め舐め上げる。
「棒だって君の身体、よく覚えているよ。
 そう、首のこのあたりが弱かったんだよね」
 首筋の八戒の弱い部分を吸い上げると八戒の息が上がるのがわかる。
「あとは…」
 八戒の首筋から唇を下へ移動させる。
 そして、ピンと勃っている胸の飾りを舌で軽く舐める。
「乳首は舐められるよりもかまれた方が好きなんだよね」
「や…」
 乳首に軽く歯を立てると八戒の身体がビクッと揺れた。
「君の身体は隅から隅まで知っているんだよ」
 八戒の中心に手を回し、下から上へと扱き上げると同時に強く突き上げる。
「や…も、赦して…」
 八戒の目から涙が零れる。
「焦らされるのは苦手かな」
 八戒のモノの根元には紐が巻き付けられており、八戒がイくことが出来ないようにしてある。
 長い間そうされているようだった。
 もう限界なのか?が動く度に八戒が苦しそうに声を上げる。
「イかせて欲しい?」
 ニイの言葉に八戒が首を何度も縦に振る。
「じゃあ、なんて言ったらいいか…わかるよね?」
「……」
 戸惑っている八戒のモノを根元から強く扱き、言葉を促す。
 八戒は涙を流しながらゆっくりと口を開く。
「……イかせて下さい…御主人様…」
 その言葉にニイは満足そうに笑う。
「君はボクのペットなんだよ、永遠にね…」

 

 

 

「…かい…八戒……」
 目を開けると心配そうな悟浄の姿。
 ここは…自分の部屋…?
「…ごじょう……?」
「大丈夫か?かなり魘されてたみたいだけど…」
 ……魘されていた?
 あれは夢だったのか。
 首元に手を持って行くが、そこに首輪はない…。
 あぁ…あれは夢だったのだ。
 ただの悪夢だ。
「…大丈夫です。ちょっと嫌な夢を見てしまって…」
 八戒が安心したように息を吐き、そう言う。
 何故あんな夢を見たのだろう。
 もう、こんなに幸せで不安なことなど何もないのに。
 …あまりにもリアルすぎる夢だった。
 耳元で囁かれたニイの声がまだ頭の中で響いている…。
「あれ?八戒…手首どうしたんだ?」
 悟浄に言われて、八戒は自分の手首を見る。
 そこには何かで擦れたような痕…。
 手錠で擦れた痕───                                                                                    
 どうして…あれは夢なのに……。
『君はボクのペットなんだよ、永遠にね……』
 ニイの言葉が頭の中で響く。
「八戒?」
 八戒が悟浄に縋るように抱きつく。
 その様子に悟浄は慌てて八戒の背中に腕をまわす。
 八戒の身体がガタガタと震えているのがわかる。
「おい…八戒…大丈夫か?」
 悟浄の腕に抱きしめられても八戒の身体の震えは止まらなかった。


 ─── あれは夢?                                                                                       
     ……それとも…現実?

 

 

END

 

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