SONATA  第三楽章  Op1−5

 

あの雨の夜からもう一ヶ月ほど経った。
あれから?も別に何も仕掛けては来なかった。
特に変わったこともなく平和な日々が続いている。
まぁ、旅の途中なのだから平和だと言っても限りがあるんだけど。
あの頃に比べたら多少大変なことがあっても、どってことないって思えるようになった。
幸せな毎日だと言えるぐらいに。

「悟浄、何ぼんやりしているんですか?
お茶入りましたよ、飲みませんか?」
八戒がテーブルにお茶を並べながらそう言う。
「おう」
悟浄は短く返事をすると三人のいるテーブルへ移動した。
あれから八戒は少しずつだが回復していった。
「八戒、何かお茶菓子無いのー?」
「クッキーとお饅頭、どっちが良いですか?」
八戒がクッキーの缶とお饅頭の箱を悟空に見せる。
二つのお菓子を見比べて悟空が目を輝かせる。
「両方ー」
悟空は右手をクッキーの缶、左手をお饅頭の箱に伸ばす。
「どっちかにしろ!」
その瞬間、容赦なく三蔵のハリセンが飛んでくる。
そんな二人のやりとりを見ながら八戒はクスクスと笑う。
八戒は今ではもうすっかり元通りといえるほどになった。
今見せている笑顔も、八戒が純粋に笑っているものだ。
「じゃあ、どっちも半分ずつしましょうね」
そう言って、八戒はお皿の上にクッキーを半分、お饅頭を半分並べる。
「これでいいですか?」
「うん」
悟空はにこにこと『いただきます』と言って皿のお菓子に手を伸ばす。
本当に平和だなぁ、と悟浄はしみじみとお茶をすする。
「悟浄、お茶のおかわりいりますか?」
八戒がにっこり笑ってティポットを見せる。
本当に長閑だ。
まだ重要な使命の途中だというのにこれで良いのかねー。
悟浄はそう思いながらもやっと取り戻した幸せを少しぐらい満喫したって罰は当たらないだろうと一人で納得し、カップを八戒に差し出す。
「あぁ、頼む」
八戒の持つティポットからカップにお茶が注がれる。
八戒のお気に入りだというアップルティの香りが悟浄の元に届く。
「はい、悟浄」
「サンキュ」
悟浄は短く礼を言いカップを受け取る。
コーヒー派の悟浄だったが、八戒の入れる紅茶は好きだった。
普段は紅茶など殆ど飲まない。
でも、八戒の入れる紅茶は別だ。
コーヒーに比べてふんわりと柔らかな味わいが口の中に広がる。
まるで八戒のようだ、なんてクサイことを考えて一人で頬を紅くする。
「悟浄、顔紅いですよ。どうかしました?」
「なんでもねぇよ」
照れ隠しか、カップの紅茶を一気にあおる。
「そうですか……。
 良い紅茶なんですから、もう少し味わってくださいね」
「ワリィ…」


「今日の部屋割りは昨日と一緒で良いですか?」
何故こんなにのんびりしているかというと…。
今日は本来なら朝出発で街を出て峠を越える予定だったのだ。
だが、昨夜の雷で一本の大木が唯一の峠道を塞いでしまったのだ。
今日中には大木を退かせられるはずなので、出発を一日遅らせ、こうして久々の休日をのんびりと過ごしているのだ。
まぁ、そのおかげでこうして休めるのだから、それはそれで悪くはない。
「別に同じでいいだろう。
 荷物を移すのも面倒くさいしな」
「じゃあ、今日も同じですね」
昨夜の部屋割りは、三蔵と悟空、悟浄と八戒である。
あの事件の後、八戒は他人と同室でも寝られるようになった。
と言っても、初めの頃はなかなか寝付けなかったりもした。
それでも部屋を出たりせずにベッドで横になるようにした。
少しずつでも、と八戒は努力していたし、周りもそれを見守っていた。
今では他人と同室でも平気だ。
それでもやっぱり、悟浄と同室が一番落ち着くという。
だから今日の部屋割りを聞いて八戒は少しホッとしていた。
悟浄はそんな八戒の様子を見てにんまりしていた。
最近八戒は二人っきりの時に悟浄に少し甘えてくるようになった。
悟浄としてはそれがすごく嬉しい。
八戒のことをいっぱい愛してやりたかった。
あんなことがあったから、それ以上のステップアップは当分望めそうにはないけど、抱きしめて、たくさんキスを与えてやりたかった。
今までの分までも。


「悟浄、隣座っても良いですか?」
夕食後、部屋に戻ってきた八戒がそう言う。
悟浄は煙草に火をつけながら、おう、と返事をする。
八戒は小さく笑うと、悟浄の座っているベッドに腰をかける。
八戒は二人っきりになると少し甘えてくる。
もしかしたら、対人恐怖症を治すための練習だったのかもしれない。
悟浄は別にそれでも構わなかった。
八戒が甘えてくることが嬉しかったから。
「…悟浄」
八戒はそっと悟浄にもたれかかる。
悟浄は八戒の身体を受け止める。
お互いの体温が薄いシャツ越しに伝わる。
「どーした?今日は一段と甘えてくるじゃん」
八戒の唇に軽く触れるだけのキスを落とす。
もう…と八戒は恥ずかしそうに笑った。
「なんだか幸せすぎて怖いです。
 こんなに幸せで良いんでしょうか」
「ん、いいんじゃねぇの?
 こんな短い間にあんな大事が何回もあってさ、不幸もいーかげん使いきっちまうぜ」
お互いあまりにも不幸な人生を歩みすぎた。
親に愛されなかったり、肉親を目の前で失ったり…。
いつだって幸せの後には不幸が来る…。
だから幸せだと不安になる。
この幸せの次にはどんな不幸が来るのだろうと。
「そろそろ幸せになったって罰は当たんねーぜ」
「そうですね」
少し安心したように微笑む八戒に不意打ちでキスをする。
八戒は突然のことに慌ててしまう。
紅くなった顔を隠すように悟浄の方に顔を埋める。
「びっくりしただろう」
「当たり前ですよ…」
まだ悟浄の方に顔を埋めたまま、八戒が呟く。
「幸せなんて突然来るもんなんだよ」
悟浄は八戒の髪をそっと撫でる。
「悟浄」
「僕のこと、幸せにしてくれますか?」
そう言った八戒の表情は今まで見た中で一番綺麗で、あまりに綺麗さに心臓が止まってしまうかと思った。
「アタリマエだろ。
 俺が幸せにしなくて誰が八戒を幸せにするんだよ」
八戒の唇に人差し指をあててそう言う。
「ありがとうございます。
 絶対に幸せにしてくださいね」
約束ですよ、といい八戒は指切りの変わりに自分から悟浄に口付ける。
誓いの口付けを…。
「…も〜、そんな可愛いコトしてると食べちゃうぜ?」
悟浄が冗談めいた苦笑で言う。
もちろん、本気で言っているわけではない。
しかし八戒からは意外な返事が返ってくる。
「………さい…」
「え…?」

「…抱いて下さい」


「いいのか?」
ベッドにそっと横たわっている八戒の髪を撫でながら、悟浄が確認をする。
八戒は目を閉じ、小さく頷く。
そっと壊れ物に触れるように優しく唇を合わせる。
悟浄の舌が八戒の唇を割り、八戒の口内へと入り込む。
八戒の舌を絡め取り、八戒の熱を上げ、意識を拡散させる。
そしてキスを交わしたまま、八戒の上着のボタンを一つずつ外していく。
釦を全て外し終えてから唇を離す。
八戒の顔はすっかり紅く染まっていた。
目を潤ませ、荒く息をつく。
その呼吸が整う前に唇を首筋に落とし、再び熱を上げさせる。
そして唇を胸元へと移動させる。
痕を残さない程度に軽く吸い上げる。
「……ん…」
八戒のしっかり閉じられた唇から微かに声が漏れる。
八戒は恥ずかしそうに唇を更に強く閉じる。
「…八戒、ガマンしなくて良いから。
 声…聴かせてよ」
「え…でも…あ……」
僅かに色付く胸の突起を舐め上げると、八戒の唇から再び声が漏れる。
「大丈夫。俺しか聴いてないんだから」
片方を口に含み、片方を指で優しくさする。
「や…そん…な……ん…あぁ…」
一度声を出してしまうと、止められないように次々と声が漏れてしまう。
「八戒、可愛いよ」
悟浄が八戒のズボンの釦に手をかけると、八戒の身体がビクッと揺れる。
「怖い?」
八戒は首を横に振るが、その身体はガタガタと震えている。
「やめるか?」
悟浄が八戒に無理をさせないように、そっと優しい声で訊ねる。
それでも八戒は首を横に振る。
「…だ…大丈夫ですから…」
そして目をぎゅっと瞑る。
悟浄は八戒の瞼にそっと唇を寄せる。
八戒が少しでも安心するように、片手で髪を撫でながらズボンと下着を一緒に脱がせる。
「八戒…大丈夫だから……」
まるで子供をあやすように、何度も耳元で囁く。
掌で八戒の太股を下から上へと優しく撫でる。
恥ずかしそうにする八戒の瞳にうっすらと涙が溜まっていく。
悟浄は八戒にそっと口付ける。
触れるだけの軽いキスから徐々に深くあわせていく。
手をしたに伸ばし、八戒の中心に触れる。
ゆっくりと少しずつ八戒自身を高めていく。
合わせた唇の端から、どちらの物ともいえない滴が伝って落ちる。
「あ…や、ごじょ…」
唇を離すと、八戒の唇から堪らなく甘い声が零れる。
「やぁ…あん…も…んん ───」
悟浄が少し強めに扱くと、八戒は身を震わせ悟浄の手の中に放つ。
八戒が熱に浮かされた虚ろな目で悟浄を見上げる。
「八戒…」
悟浄は八戒の頬を伝う涙を舌先で拭い取る。
そして、先程八戒自身が放ったモノを八戒の後ろの、まだ固く閉じている蕾に塗り込める。
八戒はその感触と次に来るだろう衝撃に身を固くする。
「八戒、もう少し力抜けって」
悟浄が八戒の中にゆっくりと指を差し込む。
「…ん……」
ゆっくりと…時間をかけて八戒の中を解していく。
そして、指を一本から二本へと増やす。
だんだんと八戒の顔に再び赤みがかかってくる。
「八戒…いい?」
八戒は小さく頷き目を閉じる。
「ゆっくり息を吐いて…」
言われるままに八戒が息を吐く。
悟浄はゆっくりとその身を進める。
「は…あん…」
完全に八戒の中に収めると、少し八戒の息が落ち着くのを待つ。
「…いくぜ」
悟浄はゆっくりと体を前後に動かし、徐々にその動きを早める。
「…あ…ん…ごじょ…」
「ん…何?」
「…あ…いし、て…ます……」
「あぁ、俺も愛してる…よ」


「ねぇ、悟浄」
横になったまま八戒が悟浄の手を握る。
ただ手を繋いでいるだけなのに、まるで悟浄と繋がっているように思える。
「…ん?」
「いろいろと大変なことがありましたね」
間違った形で始まってしまった愛。
でも、今日それを全てやり直せた…。
「そーだな」
もう一度しっかり手を繋ぎ直す。
そこにいることを確認するように。
「これからも大変なこと、いっぱいあるでしょうね」
「まぁな」
繋いだ手に少し力が入る。
決して離れないように。
「それでも…ずっと一緒にいてくれますか?」
悟浄は八戒を抱き寄せる。
「アタリマエだろ」
誓うように優しく口付けを交わす……。

─── 手を繋いで歩こう
どんなに苦しいことがあっても…
二人でなら大丈夫だから…
もう一度、幸せに向かって歩いていこう。

 

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