シンデレラ(仮)


むかしむかし、可愛いけどちょっと生意気な娘がいました。
でも、母親が病で亡くなってしまい、父親が二度目の結婚をしたことで、新しい母親と2人の姉ができました。
母親の名前は幸村精市といい、姉の名前は不二周助と菊丸英二。
どうやらこの3人には血の繋がりは無かったようで、真実を知った父親はビックリ仰天で、そのまま還らぬ人になりました。
新たな夫と父親が天に召されても、この人達はそろいも揃ってこの娘に一目惚れしてしまったようで、葬式の最中に「リョーマはこの俺(僕)が幸せにするから」と、そろいも揃って不適な笑みを浮かべていました。
新しい母親は自分の娘より溺愛しました。
「リョーマは本当に可愛いね。俺はお前みたいな娘を持てて幸せだよ」
「…周助と英二は?」
「あの2人は気が合ったから家族になっただけだよ」
「ふーん」
新しい姉’sも母親に負けず、リョーマを可愛がりました。
「リョーマ君、美味しいケーキがあるよ」
「おチビ。このゲーム、すっごい面白いぞ」
「ありがと、周助。一緒に食べよ」
「英二の選んだゲームって俺好み」
と、姉’sはリョーマにメロメロでした。
寝床はふかふかのベッド。
着るものはブランド物。
お風呂はいつでも入れるようにして、リョーマは毎日幸せに過ごしていました。
ある日の事、お城の王子様がお妃選びの舞踏会を開く事になり、この家にも招待状が届きました。
王子の名前は手塚国光。
性格は冷静沈着、頭脳明晰で、どんなスポーツもそつなくこなし、顔も良ければスタイルも良いという完璧人間。
「ふっ、手塚のくせに舞踏会だって」
招待状を見た不二は鼻で笑いました。
「美味しいものたくさんあるんだよな〜」
お妃選びなんて関係ないようで、舞踏会に出るだろう美味しい食事を気にするのは菊丸。
「…こうなると、リョーマを連れて行くのは危険だね」
招待状から目を離さない幸村は、この舞踏会にリョーマを連れて行くのは危険だと感じ、策を練りました。
そして、リョーマに舞踏会の事を伝えます。
「…俺も行ってみたい」
お留守番しているんだよ、と柔らかな笑みを浮かべた幸村に言われてしまい、リョーマは口を尖らせます。
お妃選びなんて俺には興味ないけど、美味しい物が食べられるなら行きたい。
この辺りは菊丸と同じ気持ちでしたが、王子にリョーマの姿を見せるわけには行きません。
なぜならば、この3人と王子である手塚は幼い頃から仲が良く、手塚がどういうタイプが好みなのか熟知しているからです。
そう、リョーマは手塚の好みにピッタリ。
100万人の娘を集めても、リョーマを選ぶに違いない。
「怒らないでくれよ。可愛い顔が台無しだよ」
「そうそう、おチビにはお土産いーっぱい持ってくるから」
「ごめんね、リョーマ君」
申し訳なさそうな顔で謝られてしまい、リョーマは仕方なく諦めて、母親と2人の姉を見送りました。
「…舞踏会か……舞踏会って何するんだろ?」
闘うのかな?それとも、実は葡萄だったりして?
なんて漢字変換を間違えながら、遠くに見えるお城を窓から恨めしそうに眺めていました。
「そんなに舞踏会に行きたいのか?あーん?」
「……誰?」
リョーマの前に黒いマントを纏った偉そうな態度の男が現れました。
「俺様か?俺様は跡部景吾だ」
「…えっと、不審者ってコトで突き出していい?」
「てめぇ…俺様は偉大なる魔術師だ。お前を舞踏会に行かせてやるぜ」
リョーマの言い様にヒクと口の端が引き攣りますが、跡部は何とか怒りを抑えます。
「自分で偉大って言ってるけど、あんたが俺を舞踏会に行かせて何か特があるの?」
「ふっ、面白い事になるからだ」
「それだけ?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
跡部は持っていた宝石がふんだんに使われたプラチナ製のつえを振り回すと、リョーマの周りにキラキラと輝く光の粒子が舞いました。
そして次の瞬間、リョーマの服は鮮やかな真紅のマイクロミニのプリティーなドレスに変わり、履いていた靴はヒールの高いガラスの靴に変わりました。
「…あんたって、変態?」
ちょっと屈めば下着が見えてしまいそう。
鏡に映る自分の姿にげんなりとしたリョーマでしたが、跡部は気にせずに次の工程に進んでいました。
「次は馬車だな。これでいいか」
テーブルに置いてあったパンを使い、跡部はリョーマをお城に運ぶ為の馬車と白馬と御者に変えて、全ての準備が完了しました。
「よし、残りはこれか」
最後にリョーマに渡したのは、顔を隠す為の仮面でした。
「…顔を隠すの?」
「妃選びのくせにこの舞踏会は仮面舞踏会だからな。おら、さっさと乗りやがれ」
跡部はリョーマを馬車に乗せると、白馬と御者に城まで行くように魔法を掛けました。
「言い忘れていたが、俺様の魔法は12時までだからな」
「そういう大事な事は早く言えよー」
走り去る馬車を見送った跡部は、満足そうに笑うと霧のようにその姿を消しました。
大勢の人物が踊り、楽しそうにお喋りをしている舞踏会の会場。
「王子様は今日も素敵ね」
「私を選んでくださらないかしら」
玉座に座るのはこの国の王子…に見えたが、実は影武者。
しかも、妃選びのくせに会場内は男も大勢いて、ただの舞踏会になりつつあった。
この会場にいる全てが顔を仮面で隠している為、王子である手塚は自らの目で確かめるべく、会場の中を歩いていたのだった。
「…つまらんな」
しかし、妃選びは本人の意思ではなかった為に、手塚はふらふらと会場内を歩いて時間を潰していただけだった。
そんな中、少し離れた場所でざわめきが起こり、手塚はその原因を突き止めようと近寄ると、そこには超ミニドレスの可愛い娘が、見た目に反してパクパクと料理を食べていた。
「何て可憐なんだ」
「リョーマ!」
誰もが王子にか弱さをアピールしている中で、大食い選手権のように次から次へと食べ続ける娘に見惚れていると、隣に立っていた人物が声を発した。
手塚はハッとしてその姿を見つめた。
「何でリョーマがここに…」
手塚の横にいたのは幸村で、珍しく非常に焦っていた。
顔を隠していても、そのスレンダーな身体と仕種でバレバレ。
そう、仮面のおかげで可愛らしい顔を見られてはいないが、会場内にいる男達の視線がリョーマに注がれている。
不埒な輩がリョーマに近付く前に何とかしないといけないと一歩前に進む。
「…お前、幸村か」
「そういうお前は、手塚」
幸村の方も手塚に気が付いたようで、2人は向き合った。
「なぜお前がここに?」
王子とリョーマに視線が注がれている中、2人は会話を続ける。
「愚問だね。お前が出したんじゃないか…招待状をね」
「…お前」
「俺は幸村だけど、世間的には越前なんだよ」
「…そういうわけか。では、不二と菊丸もいるのか」
「良くわかったね」
「…ふむ」
納得がいったのか、手塚は玉座に顔を向けてから幸村の元を離れようとした。
「リョーマのところへは行かせないよ」
「だが、お前は俺をこの場に留めてはいられない」
身近で歓声が沸き起こると、何時の間にか幸村の傍には影武者王子がやって来ていて、手を差し出した。
『私と踊ってください』と言われたと同じで、この国で生きて行くには断るわけには行かず、幸村は手塚を睨みながらもその手を取った。
幸村は不二と菊丸の姿を探したが、どうやら手塚の方が一歩上手だったようで、2人にも手塚の部下によって、踊る羽目になっていた。
障害が無くなった手塚はリョーマの元へと歩み出した。
リョーマは周囲の視線なんて物ともせずに、目の前にある美味しい食事を食べていました。
家でも毎日のように美味しい食事を食べていましたが、流石にお城の食事とあって、どれもこれも頬が落ちてしまいそうなほどに美味しいものばかりでした。
ついでに話し掛けられたからといって、相手にしようとは全く思っていません。
リョーマは自分が気になる相手にしか心を開かず、幸村達にも始めのうちはとても警戒していて、会話中も常に動向を窺っていたくらいでした。
だが、慣れないヒールの靴が原因で足が痛くなってきました。
「…痛いなぁ」
そっと靴を脱いでみれば、両足に靴擦れが出来ていて赤く腫れていました。
「どうしよ…」
脱いでしまいたい衝動に駆られるリョーマでしたが、さすがにこういう場所では問題があるだろうと思い、これで帰ろうかと持っていた皿とフォークをテーブルに置きました。
「足が痛いのか?」
「えっ?」
急に話し掛けられ、リョーマはその声がする方へと顔を動かしました。
そこに立っていたのは長身の男。
仮面で顔ははっきりとわからなかったけど、どことなく気になる感じがして、リョーマにしては珍しく無下に扱いませんでした。
「先程から足を気にしていたのでな」
「うん、こういうの慣れて無いから痛くて」
「少し歩くが大丈夫か?」
「…少しくらいなら平気だけど、どこ連れて行くつもり?」
「外に出る」
男はリョーマの肩を抱いて、誰もいない庭に出て行きました。
噴水まで連れて行くと、手塚はリョーマを噴水の淵に座らせて膝を付き、両足からガラスの靴を脱がせます。
靴を脱いだ事で楽になりました。
「随分、赤くなっているな」
リョーマはこの男が何をするのかを上から見ています。
手塚は上着のポケットに入っていたシルクのハンカチを取り出して器用に破ると、リョーマの足に巻きつけて靴を履かせました。
「これで少しはマシなはずだ」
「…あ、ありがと…えと」
地面に足を下ろせば、直接当たらないから先程よりも痛みがありません。
「俺は手塚だ、手塚国光だ」
「ありがと、手塚さん…ん?手塚って…もしかして」
他人を気にしないリョーマでも、この名前には聞き覚えがありました。
「職業はこの国の王子だ」
「王子様?俺、王子様にこんなコトしてもらって」
こんな風に気を遣ってもらっていいのかと少し焦ります。
「…名前は?」
そんなリョーマに手塚は知っていながら名前を訊ねます。
「あ、俺、越前リョーマ」
「リョーマ、俺の妃になってくれ」
いきなりの求婚にリョーマはポカーンと口を開けてしまいました。
「えーと、何で俺?それに会ったばかりだし」
会ってから数分後の求婚ときたら、誰もが不思議に思います。
「一目惚れと言っておこう」
「顔すらまともに見ていないのに?」
この2人の顔にはまだ仮面が付いたままなので、お互いの顔ははっきりわかっていません。
そこで手塚は、自分の仮面を外して素顔を晒しました。
「…っ」
リョーマは息を飲み込みました。
男でありながら継母となった幸村や、男でありながら姉となった不二と菊丸も、整った顔立ちをしていますが、手塚の素顔は3人を遙かに越えていました。
「リョーマも外してくれ」
手塚に言われるがまま、リョーマは仮面を外しました。
「…想像以上だ」
リョーマの素顔に手塚は幸村がリョーマを猫かわいがりする理由が良くわかりました。
可愛がりたいと思わせる何かがあるのです。
「リョーマ…」
手塚は胸に溢れるこの想いを声に乗せて名前を口にします。
名前を呼ばれたリョーマは頬を赤くして、少しだけ視線を外しました。
「リョーマ?」
「あの、その…何か、俺も一目惚れってやつみたい」
声を掛けられた時、好きな声だと思っていました。
しかし、手塚の顔はリョーマの好みの顔だったのです。
優しくされたのもあるかもしれませんが、リョーマは手塚の顔をまともに見られなくなるほど気になりだしました。
「では、相思相愛だな」
お互いに一目惚れだと知った手塚は、嬉しそうにリョーマの頬に手を添えました。
赤くなった頬は温かく、手塚は数回優しく撫でます。
そして、見つめ合う2人の顔がゆっくりと近付くその時です。
「ちょっと待った!」
場の雰囲気を完全にぶち壊すような怒声が飛びました。
「幸村…不二と菊丸も来たのか」
誰なのかがわかっていた手塚は、頬に添えていた手でリョーマの肩を抱き、自らの胸に収めるように引き寄せます。
「リョーマから離れて欲しいね」
その声は幸村でした。
明らかに怒りを孕んだ声と、怒りを浮かべている表情で颯爽と2人に近付きます。
「何で?」
「ん?どうかしたのか」
「何で、精市達を知ってるの?」
リョーマは手塚が幸村達の名前を口にした事を疑問に感じました。
この国の王子である手塚を幸村達が知っているのは納得できますが、一介の庶民である幸村達を手塚が知っているのは納得できません。
「知っているも何も、そこにいる手塚と僕達は同じ学校だったんだよ」
「そうそう、同級生ってヤツだにゃ。って、その前にその手をおチビから離せよー」
今度は不二と菊丸が話しに加わりました。
「…同級生?」
どうにも信じられなくて思わず手塚を見上げれば、手塚は静かに頷きました。
「俺達は魔法を学ぶ学校に通っていたんだ」
「魔法?もしかして…その中に跡部景吾って人もいるの?」
「跡部を知っているのか」
「うん、偉大なる魔術師って自分で言っていた。俺を舞踏会に行かせてやるって魔法を掛けられたんだ」
このドレスもこのガラスの靴も、全てが跡部の魔法だと教えたところ、ここにいる4人はあっさりと納得してしまいました。
「なるほど、跡部らしいな」
「あの暇人め…僕のリョーマ君を」
「ま、おチビのラブリーな姿を拝めたのはラッキーだったけどにゃ」
三者三様の思いがあるようですが、いつまでもリョーマの肩を抱いている手塚には殺意を覚えます。
リョーマを手にするのは自分だ!と出会った瞬間から心に決めていた3人です。
このままリョーマを手塚に渡してならないと、ドレスに隠していた杖を手に取ります。
そして、何か呪文を唱えました。
見る見るうちにドレスは消え去り、動きやすい服装に変わりました。
「…ま、魔法だ」
ギョッとします。
一緒に暮し始めてからの年月は数えるほどですが、これまで普通に暮していて、彼らが魔法使いだと思わせる仕種は全く無かったのです。
常に優しくて、赤の他人の自分に愛情を注いでくれていました。
その人達が怒りを露わにして目の前にいます。
「あいつらめ、本気か…」
何を仕掛けてくるのかわかりません。
ですが、こちらにはリョーマがいる以上、大きな攻撃を仕掛けてくるとは思いません。
何をされようが決して離しはしないと、強く抱きかかえます。
「あの、王子様?」
「国光と呼んでくれ」
「…国光も魔法使いなの?」
「ああ、そうだ」
「魔法使い…あっ」
リョーマの耳に12時の5分前を告げる鐘の音が聞こえました。
『言い忘れていたが、俺様の魔法は12時までだからな』
そして、大事な事を思い出しました。
「俺に掛けられた魔法…12時で解けるんだった」
思い出してもこの一触即発な状態で動けるはずも無く、リョーマは1人で焦ります。
こっそり抜け出したくても、一歩でも動けば何かが起こりそうです。
キョロキョロと視線だけを動かして、どうしようか焦りまくるリョーマでしたが、非情にも12時を告げる鐘の音が響きました。
リンゴーン、リンゴーン
「わっ」
鐘の音と共に、リョーマの身体が光りました。
そして、身体からは無数の光の粒が溢れだします。
「リョーマ!」
一体、何が起きているのかわかりませんが、手塚は決してリョーマから手を離しません。
目を細めて治まるのを待ちます。
「リョーマ」
「おチビ」
「リョーマ君」
幸村達3人も、あまりの眩しさに名前を呼ぶだけで見守るしかありません。
跡部の掛けた魔法が解け始め、リョーマの服装は家にいた時の服…ではありませんでした。
「えっ?何で?」
光が消えた後に残ったリョーマの姿は、何も身に着けておらず、上から下まで全て曝け出していました。
男同士なのだからはずかしがる必要は無いのですが、ここにいる全員がリョーマに惚れているので、視線は釘付けになっていました。
まるで視線で犯されているような気持ちになり、恥ずかしそうに手塚の背後に回り込みました。
「…なんで、裸なんだよ。偉大なる魔術師なら完璧にしろよな」
更にメロメロになってしまった4人には気付かず、プリプリと怒りを爆発させていると、どこからとも無く笑い声が聞こえました。
「この声は…」
声は上空から聞こえてきます。
リョーマを除く4人は一斉に上空を見上げました。
庭にある1番高い樹の天辺に笑い声の持ち主である人物がこちらを見下ろしていました。
「…跡部」
「よぉ、久しぶりだな、手塚。それに…なんだ、お前らは女装してるのか?」
手塚が跡部の名前を口にするのと同時に、跡部の姿は手塚と幸村達の間に立ちました。
驚いたのはリョーマだけで、残りは特に反応しません。
「お前がリョーマをここに連れて来たのか」
「行きたいって言うからな。俺様が手伝ってやっただけだ」
視線だけで射殺しそうな幸村を相手に、跡部は不敵な笑みを浮かべるだけで、全く気にも留めていません。
「跡部、お前の魔法は中途半端だな」
幸村達が一方的に出している敵意をものともしない跡部に対し、手塚は唐突に話し掛けます。
「あ〜ん?どういう意味だ、手塚」
「お前は衣類をドレスに変えたのだろう。なぜ、魔法が解けた途端に衣類が無くなるのだ」
「ふん、元に戻すだけなんてつまらないだろう?俺様は先を見越して魔法を掛けただけだ。むしろ感謝して欲しいくらいだぜ」
惚れた奴の裸が見られて良かっただろうと言われ、手塚は眉間に皺を寄せました。
肩を抱いていたので、リョーマの裸体は一瞬しか見えませんでした。
手塚にしてみれば、あんなものはただのハプニングにすぎません。
「…どうでもいいけど、何か着る物出してくれない?」
手塚の背後で小さくなっていたリョーマでしたが、真夜中にいつまでも裸のままなので身体が冷えてきました。
「そりゃ、すまなかったな」
跡部は持っていた杖を振ります。
キラキラとした光がリョーマの身体を包みます。
ようやく裸から解放されたリョーマは、手塚の背後から出てきました。
「ふぅ…寒かった」
「気が付かなくてすまなかったな」
ひょこっと出てきたリョーマの姿は、どこにでもある服装になっていました。
ミニのドレス姿も可愛らしかったのですが、こうした普段着の姿もとても愛らしいと、手塚の頬は緩みます。
「大丈夫。えっと、俺…王子様と結婚するから」
幸村達3人には悪いと思いましたが、話し合いでこの状況を回避するのは無理だと判断した結果、リョーマは一目惚れした手塚の妃になる事をこの場で決めてしまいました。
「本当にいいのか?」
「…うん。いつかは家を出ようと思ってから」
幸村達には本当に世話になりましたが、血の繋がっていない家族です。
いつまでも甘えているばかりではいけません。
「では、改めて言おう。リョーマ、俺の妃になってくれ」
「はい」
見つめあい両手を繋ぎます。
手塚とリョーマの間でピンク色のハートが飛び散る中、反対の幸村達は拳を握ってわなわなと震えていました。
それを面白そうに見ているのは跡部です。
「駄目だよ!俺は許さない」
「僕も許さないよ」
「俺だって反対だにゃ!」
メラメラと嫉妬の炎に燃える3人ですが、1人冷静な跡部は大きな溜息を吐いていました。
「そろそろ諦めたらどうだ。そこのチビは手塚を選んだ。お前等は選ばれなかった。それで終わりだろう」
跡部の言うとおり、リョーマは自らの意思で手塚を選びました。
幸村達が何を言おうが、それは変わらぬ決意なのです。
しかし、納得しきれない幸村はリョーマを見ます。
恋敵である手塚と仲睦まじく手を繋ぎ、今まで見た事の無い眼差しを手塚に向けています。
それは『恋』をしている眼差しです。
「リョーマ…」
可愛くて、可愛くて、出来るだけ家の中から出さないようにしていました。
家の中では常につまらなさそうな表情しか見せなかったリョーマから感じるのは、生きている事への幸福感でした。
「俺達の負けかな」
ゆっくりと頭を振り、白旗を掲げるように両手を軽く上げます。
「そうかもね」
「あ〜、おチビ〜」
パカッと割れたハートマークを地面に落とします。
同じ屋根の下で暮すようになってまだ何年も過ぎていませんが、じっくりと育てていたリョーマという恋の花は国の光に攫われました。
諦めるしかありませんが、どうにも諦め切れません。
「…一度でも泣かせたら奪いに行くからな」
「そう、勝ったと思わないでよ」
「おチビ、俺はいつでもOKだからにゃ」
最後まで手塚に対して敵意むき出しの3人でしたが、手塚は繋いでいるリョーマの手をしっかりと握ります。
「泣かすような真似はしない。俺はリョーマを幸せにする」
「王子様」
「リョーマ、俺の事は国光でいい」
「…国光、俺も国光を幸せにするから」

こうして手塚とリョーマはいつまでも幸せに暮しました。

めでたし、めでたし。



「…って、国光も魔法使いなんだよね」
「ああ、そうだ」
「王様も魔法使いってコト?」
「そうだ、この国の王は魔法学校を主席で卒業した者に引き継がれているのだ」
「じゃ、今の王様と国光は親子じゃないの?」
「赤の他人だ。家族は別にいる」
こうして今まで無関心だったこの国の事を学んでいくリョーマでした。




日記で連載(?)していたシンデレラもどきをまとめてみました。
改めて読むと変な話だなーとしか思えないけど、こういうのは面白い!