こんな日常もアリ?
試合が間近に迫っている為、レギュラーだけには特別メニューが与えられ、練習時間も1時間ほど延長していた。 負けたくない気持ちが強いからか、誰の口からも不平不満は出ず、より一層の高みへと自分を鍛え上げていた。 辺りが薄暗くなった頃、ようやく練習が終わり、ヘトヘトになりながらも部室へ戻っていた。 「俺、家の手伝いがあるから悪いけど先に帰らせてもらうな」 「お疲れ〜」 河村は家の手伝いがあるからと、学生服をバッグに入れて先に帰ってしまった。 部室の中にいるのは部誌を書いている手塚と、着替えを始めている不二に菊丸、桃城だけで、残りはコートの後片付けをしていた。 「じゃ〜ん、下着を新しいのに替えてみました〜」 「ボクサーパンツっすね。英二先輩」 ユニフォームの上はそのままで、下だけ脱いだ菊丸の取った行動は、穿いている下着を自慢する事だった。 ほとんどの部員が下着はトランクスを愛用しているようで、着替えの最中で目に入る下着はキャラクターもの、チェックにストライプといったトランクスが主で、中にはブリーフを愛用している者もいたが、極少数だった。 そしてこの菊丸もトランクス愛用者の1人だった。 「エヘヘ〜、この前の休みに買ってみたんだにゃ」 「へー、履き心地はどうっすか?」 色は限りなく黒に近いグレーで、某有名野球選手がCMしていた事で一躍ヒット商品になったこの下着。 アクロバティックプレイを得意とし、それを武器にしている菊丸にとっては、試合の度にアンダーサポーターを穿いていたので、これらは拍手ものの一品だった。 「でもさ〜、穿きなれていないからちょっと気になるんだ」 「何がって…ナニだよ」 「…あー、チ…もがっ」 ボソボソと周囲に聞こえないように小声で言ったのに、桃城が考えなしに大きな声でその部位を言おうとするものだから、菊丸は慌てて両手で桃城の口を塞いだ。 「何するんすか。別にきかれても困る話じゃないっすよ」 無理矢理その手を剥がすと、大きく深呼吸をしてから菊丸に文句を言うが、菊丸は口に人差し指をあてて、再び小声で喋る。 「しー、わかってるけどさ。こういうの嫌がるんだよ…手塚」 「あ、部長っすか」 そろりと2人して部室内で部誌を書いている手塚の様子を窺ってみれば、こちらを気にしている様子は無く、ホッと深い息を吐いていた。 「…良かったにゃ。聞こえてなかったみたい」 「ホントっすね」 何度か確かめてみたが、手塚の視線が部誌から移動する事は無かった。 聞こえていなかったのか、それとも聞こえなかった振りをしているだけかもしれないが、注意されないのなら会話を進めるだけだった。 「で、ナニの何が気になるんすか?」 「場所だよ、場所。トランクスの時ってぶらぶら状態だったんだけど、これだと一箇所に納まっちゃうからにゃ。トイレ行った後で、慌てて閉まっちゃうとそのままだから、気になって仕方が無いんだにゃ」 時間があればトイレに戻る事は可能だが、時間が無い時は暫くその状態で過ごさないといけない。 一度気になってしまえば授業どころではなくなってしまう。 「ふーん。で、英二先輩はどの位置が一番しっくりくるんすか?」 こそこそと耳打ちするように訊ねる。 「俺?俺は、真ん中よりちょっと右よりかにゃ。真ん中にするんだけど、何時の間にかちょっと右側になるんだよにゃ〜」」 「俺もっすよ。仲間っすね」 「みんなはどうなのかにゃ」 変なところで仲間意識が生まれた2人は、他人の状態も気になり始めていた。 けれど、この中で訊けるような人物は限りなく少ない。 とりあえず、訊いても大丈夫そうな相手に近寄り、そして訊いてみた。 「俺かい?また変わったアンケートだね」 訊ねたのは乾だった。 「ちょっと気になってね〜」 「一般的に右利きは右側に曲がりやすんだよ」 「へ〜、何で?」 「簡単な事だよ。マスターベーションの時に利き手の右で扱くからだよ。勃起時の皮膚の引っ張られ状態が必然と右側に曲がる傾向になるようだよ」 「さすが乾って…それって!オナ…やばっ」 博識を披露するのは良かったが、如何せん内容が内容なだけに、視線だけを向けてみた手塚は、とうとう部誌から顔を上げて3人をおもいっきり睨んでいるのが見えた。 冷や汗が背中を伝う。 「…お前達」 そろそろ堪忍袋の尾が切れたのか、手塚は持っていたシャーペンを置いて部誌を閉じた。 「そんなに怒らなくてもいいでしょ?それとも左利きだから皆と違ってて気になるのかな」 今まで会話に入ってこなかった不二がさらりと入って来たが、またそれが手塚の怒りに触れたようで、手塚は眉間に皺を寄せて立ち上がっていた。 「不二…」 「本当の事だった?ふふ、そんなに怒らないでよ。それとも薬が切れちゃったのかな?」 冗談なのか、本気なのか、絡みだした不二は手塚を煽るだけ煽る。 次第に部室の中が重苦しい雰囲気になっていき、話題の発端を作った菊丸と桃城は「ひー」と恐れ慄き、両側から乾にしがみ付いていた。 「不二、最近のお前は良く俺に絡むが、何か言いたい事があるのならはっきりと言ったらどうだ」 腕を組み、冷たい視線を向ける。 「別に言いたい事なんてないよ。強いて言えば、ムカツクって感じかな」 ニコニコと微笑みを絶やさないのに、冷たい空気が不二の周囲に立ち込め、ついに青筋を立ててしまった手塚の周囲は息苦しい空気が立ち込めていた。 不二が手塚にこうしたちょっかいを出すようになったのは、手塚がリョーマと付き合うようになってからだった。 リョーマに対して手塚と同じ想いを抱いていたのを知ったのは、気持ちを伝えた時だった。 だが、リョーマは少し前から手塚と付き合っているからと言い、不二は想像もしていなかった相手がリョーマの恋人になっていたのを知り、テニスや勉強で一度も勝てない相手に恋でも負けてしまったのだ。 それからというもの、不二は何かと手塚に絡むようになった。 「どうにかして、この場から逃げなきゃ…」 「でも、どうやって」 「とりあえず、ここから出るのが先決だにゃ」 早くこの場から逃げなければと、菊丸と桃城が動こうとしたその瞬間。 「みんな、お疲れ」 「…何、やってるんすか?」 コートの後片付けをしていた大石と海堂、そしてリョーマが入って来た。 「おおいし〜」 天の助けとばかりに大石に抱きつく。 桃城も肩の力を抜いて、大きく息を吐いた。 「…何か、あの2人。殺気立ってるんスけど、何かあったんスか?」 まるで竜虎の戦いのように言葉もなく睨み合っている2人。 何があったのか知らない者達にしてみれば異様な光景で首を捻るしか無い。 「ちょっとにゃ〜」 「ま、大した事じゃないんだけどな」 リョーマ達が入って来たのに気付き、手塚と不二は睨み合いを止めて、それぞれの場所に戻る。 リョーマと帰る為に、部誌を片付けなくてはならない手塚は、シャーペンを握った。 リョーマに嫌われない為に、不二は途中になっていた着替えを終わらせる。 こうして2人は何でも無いとリョーマにアピールしていた。 何が何だかわからないリョーマ達だったが、この状態からして菊丸と桃城が何かしらの原因である事はわかっていたので、後で「どうしてこうなる前に止めなかったのか」と、乾を含めて大石からキツイお灸が据えられた。 「俺はデータを基にした情報を話しただけなんだけどね」 乾にとっては、ただの怒られ損だった。 |
すっごい短いくせに、下ネタでごめんなさい。
しかも全然塚リョってないし。