恒例行事



「ねぇ、手塚。セーラー服とスコート、どっちが良いと思う?」
「…一体、何の話だ」
不二から与えられた突然の二択問題に頭を抱えるのは手塚だった。

温暖化が進んでいる所為か、ようやく秋が深まりだした10月の半ば、この時期の学校は浮かれ気分になる生徒が多くなる。
丁度、中間テストも終わり、この後に待ち構えている恒例行事では学校中がお祭り騒ぎとなるのだった。
「要点だけを話すな。初めから説明しろ」
「仕方ないなぁ」
盛大な溜息を吐く不二に、手塚はこめかみが痛くなる。
事の発端は、生徒会の集まりで部活に遅れてやって来た手塚が、部室で一人黙々と着替えている最中に、いつもの穏やかな笑みを浮かべた不二が入って来た事から始まった。
練習中に部室に来る理由は、練習中の怪我かラケットの取替えくらいにしか思わない。
手塚は不二の存在を無視に近い形で着替えていたのだが、いきなり質問をされて仕方なく振り返ってみた。
「文化祭だよ。文化祭!もう来月じゃない」
「…それで、何故セーラー服かスコートなんだ」
「今年も飲食店を出すって決まったでしょ?」
「ああ、そんな報告書が出ていたな…」
文化祭の準備は後期の生徒会メンバーがメインとなって進めていくのだが、前期メンバーである手塚は、後期では初めての大仕事になる文化祭を円滑に進められる為に、毎日のようにヘルプに入っていた。
部活の方も3年生は基本的に引退するのだが、今まで毎日のように身体を動かしていたのが、一気に何もしなくなるのは良くないと、出来る限り練習には参加していた。
去年の文化祭は、生徒会の方が忙しくてテニス部が出したおやきの屋台には顔を出す程度だったが、今年は手塚も最初から手伝うつもりでいた。
詳しい話はこれから訊こうとしていた矢先の出来事だった。
「でね、やっぱり看板娘は必要でしょ?だから、セーラー服かスコートのどっちがいい」
「ちょっと待て、今年は女子と合同なのか?」
訊ねられても疑問が残るばかりで、今度は手塚が不二に訊ねていた。
「違うよ」
手塚の質問にはあっさりと否定した。
「…ならば、誰かに頼むのか?」
「誰にも頼まないけど」
またしてもさらりと答える。
「…では」
かなり嫌な予感が胸を過ぎるが、これが気のせいで終わるとも思えなかった。
「君には無理だと思って初めから候補に入れなかったんだよ」
「…候補?まさかだと思うが、女装でもするのか?」
「大正解!ちなみに看板娘には越前って決まってるから」
にっこりと、女子には天使かもしれないが、手塚にとっては悪魔の笑みを浮かべた。
「な、何だと」
驚くのも無理は無い。
リョーマからは一言も文化祭について聞いていなかった。
良く考えればリョーマから「文化祭で女装するから」なんて言うはずが無い。
好きで行うのならともかく、恐らくは不二や乾の企みに違いない。
「…越前が良く了解したな」
弱みに付け込んで了承を得たに決まっているが、不二がリョーマに女装を了解にまで至らせた方法を聞き出そうとする。
「奥の手を使ったからね」
「奥の手?何だ、それは」
悪い予感がグルグルと駆け巡る。
「越前がやらないと自動的に手塚が女装するけど、それでもいいって訊いたんだよ。そうしたらすぐにやるって言ってくれたんだ。愛されているね、手塚」
満面の笑顔で言ってくるものだから、手塚の額に青筋が浮かぶ。
「不二、貴様…」
この善人面した悪魔は、頑なに断るリョーマに対し、何をどうすれば首を縦に振るのかを知り尽くしていた。
好きな相手が困るのは誰でも避けたい事。
リョーマは手塚に不二達の毒牙が掛かる前に、自分を生贄に差し出したのだった。
不二としては、人身御供システムが上手く活用されてご満悦。
「そんなに怒らないでよ、いいじゃない。越前のセーラー服姿って絶対に可愛いよ。それとも手塚は見たくない?」
「………」
即座に『見たくない』と言えない自分が悲しい。
普段でも可愛らしさ大爆発のリョーマ。
セーラー服だろうが、スコートだろうが、何を着ても可愛いに決まっているし、女子生徒が羨むほどのスタイルだ。
絶対に似合う。
だが、そんな可愛い姿を不特定多数になど見せたくない。
“見たい”と“見たくない”では無く、“見たい”と“見せたくない”が手塚の中で葛藤する。
「セーラー服は英二のお姉さんに借りたんだけど、サイズ的に越前と堀尾達にしか合わないんだよね。でもさ、堀尾のセーラー服姿なんて見たくないでしょ」
想像するだけで気分が悪くなりそうだが、大概の男子生徒の女装は見たくない代物になる。
こんな所でリョーマと比較対照にされる堀尾達も哀れなものだが、見たくない物は見たくないのだ。
「…使用目的を話して借りたのか?」
「当たり前でしょう。英二ってばお姉さんに越前の写真を見せたら、すぐに貸してくれたって言ってたよ。ふふ、きっと僕の姉さんでも同じだろうけどね」
菊丸の姉がどんな体格なのかは知らないが、切っても切れない血の繋がりがある家族。
性格はそう変わらないようだ。
「ここで俺が何を言おうとも変わらないのなら、越前に直接訊いたらどうだ」
「一応は君の意見を取り入れようと思ってね」
リョーマにはとっくに訊いていると言いたげな口振りに、手塚は頭が痛くなる。
「……不二、用件が終わったのなら、さっさと練習に戻れ」
「わかっているよ」
くす、と嫌な笑いを浮かべた不二は、手塚に言われるまま部室を出て行った。


手塚が着替え終わりコートに入ると、1年と2年の部員は次々と挨拶をする。
その中にリョーマの姿は無く、手塚はレギュラーが練習をしているAコートに視線を移動させた。
「…越前」
サーブ&ボレーの練習を終えたリョーマと目が合う。
「やぁ、手塚。生徒会は終わったのかい」
「ああ、今日も遅れてすまない」
乾からのアドバイスを受けていたリョーマが乾の前から離れる際、手塚はリョーマの横を通り過ぎながら、ぼそりと呟いた。
「…ういっス」
何を言われたのかはリョーマにしかわからないが、リョーマはコクリと頷いていた。
だが、手塚とはそれっきりで、休憩の為にそのままコートから出て行く。
「…不二から聞いたかい?」
そんなリョーマの様子を見て、乾は部活とは関係の無い話を振る。
不二は河村と練習をしていて、2人の会話は届かない。
「ああ、ついさっきな」
「今回の件については、俺は何も関与していないからな。不二と菊丸の暴走だぞ」
乾は文化祭でのリョーマの女装については、自分は何も手を出していないと、身の潔白を手塚に訴える。
確かに不二は菊丸の名前を出したが、乾の名前は一度たりとも出していない。
「そうか…」
乾がここまで言うのなら真実なのだろう。
わざわざ、疑う理由など無い。
「ところで、越前が女装を引き受けた訳は知っているのかい?」
「ああ、それも不二から聞いた」
「それにしては冷静だね」
「……冷静でいなければ、今すぐにでも不二や菊丸に何かしそうだからな」
その前に前生徒会会長として、テニス部の文化祭での飲食店を出すという事を停止させる方が早い。
だが、文化祭での収入はそのまま部費として使用できる為、ここで止めさせれば今後の活動に支障をきたしかねない。
テニス部はボールやネットなどの備品から、大掛かりなコートの整備など、何かと金が掛かる為、文化祭での収入は部費のかなりを占める。
「理性で抑えているってところかな」
「…まあな」
手塚が短気であれば、不二と菊丸はグラウンド100周では済まないし、リョーマの女装も何としてでも止めさせていただろうが、文化祭は生徒が中心になる行事。
手塚はテニス部の元部長、生徒会の元会長という事で、出された提案を「これは駄目だ」「あれも駄目だ」と上の立場から口を挟みたくなかった。
出来るだけ、生徒の自主性に任せたいのだ。
…が、任せた結果、愛する恋人を辛い状況に追い込ませてしまった。
不覚、手塚国光、一生の不覚。
横を通った時に、一瞬だけ見せた歪んだ表情に心が痛んだ。
代われるものなら代わりたいのが、女装は(不二達の思うツボなので)遠慮したい。
「まぁ、女装だけなら他の部でもやるみたいだけどね」
「…人目を引くには良いかもしれんが、不二の考えはそれだけでは無いのだろう?」
笑いを取る事も出来るし、何よりも人が来てくれなくては意味が無い。
「女装した越前を見たいだけだろうね」
「…やはりな」
看板娘が必要だと言っていたが、テニス部は青学の中でも目立つ部活。
女生徒の多くがテニス部の3年生を目当てに訪れるのだ。
それならば、店先に不二や菊丸でも立たせておけば、何もしなくても人は寄ってくる。
「越前にとっては初めてだからね」
「不二が越前に何を言ったのか想像が出来るな」
文化祭初体験のリョーマだから、嘘を話していても気付かれない。
後は桃城達に口止めをしておけば、計画は完璧だ。
「…越前は完全に被害者だからね。あまり責めないでやってくれよ」
「わかっている」
乾がこれほどまでにリョーマを保護するのには、不二達の企みを見抜けなかったからと、不二の提案を却下出来なかった事にあった。
乾との話が終わると同時に、新たな部長となった桃城から集合の掛け声が掛かった。


「…すまなかったな、リョーマ」
「……ううん」
練習中に手塚から言われたとおり、練習が終ったリョーマは先に部室を出て、とある場所で手塚を待っていた。
手塚はいの一番に謝罪したが、リョーマは一体何事かと手塚の行動に驚いた。
だが、すぐにその理由に思い立って、視線を足元に移動させていた。
「…だって、国光に嫌な思いをさせたくなかったんだもん」
自分がOKと言わなければ、手塚に女装させると言った不二。
そんな事が出来るわけないと強気に出ようとしたが、不二はテニスではbQの実力者と言われ、実際にはテニス部を裏で操っている人物と言われていた。
一度口にした事は必ず実行させる力を持っている。
ここで断ったら、手塚の女装は決定だ。
大好きな人が困る顔は見たくない。
そうすると、ここで首を横に振る事は出来ない。
リョーマは、渋々ながらに不二の提案に首を縦に振ったのだった。
「嫌なら当日は休んでもいいぞ」
「駄目だよ!そんな事したら…不二先輩が…」
どうやら逃げる事はできないように細工されているらしく、手塚の眉間にシワが寄った。
「それに、国光も見たいんでしょ?」
「…何?」
「不二先輩が『手塚も君の可愛い姿を見たがってたよ』って言ったから…」
「あいつめ…」
最後には勝手に人の名前を出して、リョーマを絶対に逃げられないようにしたのだ。
弱いところに付け込む不二のやり方に手塚の怒りは爆発寸前になっていた。
「でも、国光が喜んでくれるのなら…俺は部の為じゃなくて国光の為に女装する」
「リョーマ」
ほわん、と頬を赤くするリョーマに、手塚は周囲を確認してからそっと抱き締めていた。
結局、リョーマの女装はセーラー服と決定したらしいが、菊丸の姉は青学出身者では無い。
どんなセーラー服姿になるのかは、本人を含めて不二と菊丸以外は誰一人として知らなかった。


文化祭当日

「…うわ〜、カワイイにゃ〜」
「うん、とても似合うよ」
今年のテニス部の屋台は屋外では無く、教室内での出展となった。
テニス部の部員全員では多すぎるので、前レギュラーがメインとなって設営などをしていた。
教室の3分の1ほどを調理や準備スペースとして大きな布で隠され、接待に入るメンバーはここで着替えをしていた。
着替えと言っても、接待係りは学生服を脱いで黒色のカフェエプロンを着けるだけ。
その中で女装するリョーマだけは不二と菊丸に連れられ、一番奥でこっそりと着替えされられた。
そうして出来上がったリョーマといえば…。
「…似合うって言われても…」
鏡が無いので、自分がどんな姿になっているのがわからない。
だけど、白と黒を基調したセーラー服に、黒のハイソックスとローファーを履いているのだけは確認できた。
「スカート、短くないっスか」
スカート丈は膝上10センチ。
実は下着までも着替えさせられていた。
2人がかりで下着を脱がそうとするので、リョーマは諦めて自分から不二が用意した下着を穿いた。
こんな事を思いつく不二の事だから女性用かと思いきや、普通に男性用のビキニタイプの下着でちょっと安心したのだが、その後に渡されたのはフリルの付いたピンク色のアンダースコートだった。
ちょっとでも動けば、スカートは風に乗ってヒラリと舞い、アンダースコートが見えてしまいそう。
思い切り動けない状態にちょっと嫌な顔をする。
「そんな事ないよ。越前って脚が細いから、キレイに見えるよ」
「うんうん、姉ちゃんもこれくらいの丈が一番イイって言ってた」
それは女としての意見であって、男としてはどうにも落ち着かない。
毎日、こんな物を着てる女子って勇気あるな、とリョーマはしみじみしていた。
「おい、そろそろ時間になるぞ」
不二と菊丸が満足している中、いつまでも出てこない3人を呼びに手塚が入って来た。
「あ、丁度良かった。ほら、可愛いでしょ」
リョーマの背後から肩を掴んで、手塚の前に差し出す。
「…ども」
「え、越前…」
リョーマは恥ずかしそうに手塚から目線を逸らすが、逆に手塚はセーラー服姿のリョーマから目を離せられないでいた。
サイズはまるでリョーマに誂えたようにピッタリで、胸元で結ばれた黄色いリボンはふわりと揺れていて、上から下に視線を移せば、スカートとハイソックスの間に見える素肌にどうしても目線が止まってしまう。
「どう?可愛いでしょ」
固まったままでいる手塚に不二は、ニコニコしながら訊ねていた。
「えへへ〜、これも姉ちゃんに借りたんだぞ」
接待の邪魔になるからと、小さな花の飾りがついた髪留めが、顔の両サイドに着けられていた。
そのお陰でリョーマの顔がいつも以上に良く見えるようになり、しかも、どうやら軽く化粧を施してあるようで、リョーマの唇は艶めいたピンク色になっていた。
「さぁ、越前は入口でお客の呼び込みしてね」
手塚の答えなど期待していなかったのか、不二はさっさと手塚の前からリョーマを移動させる。
「俺も手伝うからにゃ〜」
恋人である手塚に誰よりも先にお披露目させておいた後、不二と菊丸はリョーマの背中を押して準備スペースから出て行った。
その後、ちょっとした歓声が上がったが、手塚はあまりの可愛らしさに目を奪われていて、一足出遅れていたのだった。


看板娘としてのリョーマは想像以上に活躍し、多めに用意していた食材は昼のピークを過ぎた頃には全て無くなってしまい、テニス部は大盛況のうちに店をたたんでいた。
客として入って来た生徒は、入口に『撮影は禁止。もし、携帯やデジカメを見つけた場合は10倍の料金を頂きます』との張り紙を見るが、どうにかしてリョーマのセーラー服姿を収めようと、こっそりと携帯を取り出しては不二や乾達に見つかっていた。
その都度、乾汁の入ったドリンクや激辛のクレープなどを食べる羽目になり、口を押さえてバタバタと廊下を走っていく姿には誰もが慄き、命がけで撮ろうとする強者はいなくなっていた。
「はぁ、疲れた〜」
「…ふむ、売り上げは去年の倍以上だな。さすが効果覿面だな」
会計をしていた乾はキーボードを叩くように計算機を叩き、数時間の売り上げを算出していた。
「やっぱり、看板娘がいると違うね」
「…まぁ、そうだな」
にっこりと笑い掛けられた大石は、何と言って良いのか返答に困った挙句、ぎこちない笑みを作って応えていた。

借りた教室を元に戻す為に、持って来た資材を片付け始める。
飾り付けやカーテンなどを取り去り、机と椅子を元の位置に戻せば、今までの賑わいが嘘のように感じられた。
「…俺、着替えてもいいっスか?」
が、リョーマだけはセーラー服のままとあって手伝う事も出来ずにポツンとしていたので、さっさとこの服装から解放されたいと、近くにいた菊丸に訊ねる。
「駄目!もうちょっと楽しませてよ」
「…楽しむって何を?」
「そりゃ、一緒に写真撮ったり、手を繋いで歩いたり…」
「はぁ?何で俺がそんなコトをしなきゃいけないんスか」
全ては手塚の為だけに我慢していたが、既に店じまいをしているのにも関わらず、着替えさせてくれない事にリョーマは普段よりも低い声を出していた。
見せ物のようにジロジロと見られたり、あまつさえ、接待中に不埒な輩から受けたセクハラ紛いの行動(その都度、手塚や不二達によって制裁を加えられていたが)に、下降気味になっていたリョーマの機嫌は更に下降していた。
本当なら女装なんてしたくなかったし、興味本位の不特定多数に見られるのも嫌だった。
「…越前」
「手塚先輩…」
今にも菊丸に怒声を浴びせそうなリョーマの傍に、さり気無く手塚が近寄った。
「わっ、何?」
その直後に、リョーマの肩にはサイズがまるで違う学生服が掛けられた。
「越前は着替えさせる。行くぞ」
ここにいてはいつまでも着替えられないと悟った手塚は、自分の学生服をリョーマの掛けてやり、これ以上はセーラー服姿が見られないようにしてから、置かれていたリョーマの制服や下着類を手にとっていた。
「不二〜」
「…仕方が無いね」
仕事が終わった時点で、自分達が作り上げた計画は終了したのも同じ。
いつまでもリョーマを自分達の良いように扱えない。
「ところで手塚は越前をどこに連れて行くつもり?」
「誰も来ない場所だ」
行き先は誰にも告げずに手塚はリョーマを連れて教室から出て行った。


「ここなら、誰も来ないぞ」
「…本当?」
手塚に案内された場所は一般生徒ならば、卒業するまでに一度も足を踏み入れる事の無い生徒会室だった。
模擬店が終わってしまったので、テニス部が使用していた教室の周囲には人気が少なく、それほど人目に晒す事無くリョーマを連れ出せられた。
「ああ、生徒会メンバーも文化祭で手が一杯だからな。わざわざ、時間を空けてこの部屋に来る役員はいない」
持っていたリョーマの制服と下着類を応接用のソファーに置いた。
「そっか。これ、ありがと」
リョーマは安心して手塚の学生服を脱いで渡した。
もちろん、学生服の中はセーラー服のまま。
「…やっと、脱げる」
「もう少しだけ脱がないでいてくれないか」
「え?」
胸のリボンを解こうとしたリョーマの手の上に、手塚は自分の手を重ねた。
「…いや、その」
着替えはリョーマを教室から連れ出す為の名目に過ぎない。
ようやくゆっくりとその姿を眺められる場所に連れて来たが、すぐに着替えようとするので思わず本心を口走ってしまい手塚は焦る。
「ね、国光はどう思った?」
「どう、とは?」
「俺のセーラー服姿」
「…似合っていると言ったら怒るか?お前の顔はどちらかと言えば中性的だからな。俺には愛らしいとしか言えない」
重ねていた手は、ほんのりと桃色に染まっている頬に添える。
「国光が喜んでくれるのなら、もう少しだけこのままでいてあげる」
何時も以上にカワイイ笑顔を見せたリョーマは、爪先立ちになって手塚の頬にキスをしていた。
「あまり煽らないでくれ。ただでさえ刺激が強いのだからな」
見慣れないセーラー服に加え、薄い化粧を施されていて、何もしていないのに身体中からは不思議な色気が漂っている。
何こんなキスだけで手塚の男としての本性が目覚めそうになっていた。
「少しくらいならいいよ?」
その一言に手塚の理性はガラガラと崩れ落ちた。


誰も来ない生徒会室で繰り広げられる行為を知る者は、誰一人としていない。
ただ、勘の良い不二達だけは手塚の行動を読んでいたのか、しっかりとバレていたのだが。


それも、文化祭の良い思い出。




以前、日記に書いた文化祭ネタにリクを頂き、ストーリーにして見ました。