夏だからこそ



季の中で最も人の気分を開放的にさせるのは夏。
ギラギラと眩しい日差しの下、着ている物は気温が上昇する度に薄くなっていく。
下着スレスレのキャミソールは女の子の胸元を強調させ、動く度に揺れる胸に男達の視線はチラリズム満載の若い女の子に集中していく。
これは成人男子なら極一般的な反応だ。
が、しかし、中には一切興味を抱かない男子もこの世の中には…いた。

「…うん、やっぱり見えるよね」
「お前は見るな」
何かを眺め満足そうな顔をする不二と、苛立った顔をしている手塚。
両極端の表情をしている二人の周囲を異様な空気が包んでいた。
「いいじゃない、減るものじゃないんだし」
「お前が見ると減るんだ」
あっけらかんとしている不二の物言いに手塚の表情は厳しくなる一方だった。
一体、何に対してなのか周囲にはさっぱりな手塚と不二の会話。

どことなく予想が出来るのだが、訊いてみて予想通りの結果が返ってくるのは嫌なのか、会話を耳にしているだけ誰も仲間に入ろうとしない。
『触らぬ神に祟りなし』
いや、今は『触らぬ手塚と不二に祟りなし』と言ったところか。


祟りとは違うが、きっと聞いて損した内容に違いないのだから。
そんな中、いつも通りと言うのか、こういう場面だからこそウキウキと楽しそうに入ってくる一人の男がいた。
「な〜に、見てるのかにゃ〜」
ひょい、と野次馬根性丸出しで二人の後方から顔を出したのは菊丸だった。
「何、英二も見たいの?」
険しい表情で無言になっている手塚に代わり、にこやかに不二が応対する。
「うん、俺も見る見る」
「ほら、あれだよ」
不二と手塚が何でもめているのかが気になった菊丸が見たものは…。
二人が見ている先にあるのは常の練習中の風景。
しかし二人の視界の中にい
るのは、ただ一人。
「…おチビ?」
「そうだよ、僕達はリョーマ君を見ているんだけどね。ほら、良く見ていて」
手塚とラブラブなお付き合い中のリョーマは、海堂相手に練習中だった。
ひたむきにボールを追いかけているリョーマの姿に変わったところは特に無い。
飛んできたボールを打ち返す為にコート内を走っているだけだ。
その姿は『キュート』の一言に尽きる。
ま、それくらいだ。
「…おチビがラブリーなのは、俺だってわかってるにゃ〜」
キューティーな姿に、菊丸からは無数のハートマークがリョーマに向かって飛ぶ。
不二の肩越しから見ていた菊丸には、二人がじっと見ているワケがわからず首を捻る。
こんな普段と変わらない練習風景の何に見惚れていたのだろうか?
菊丸は不二にもう一度問い掛ける。
「わからないかなぁ…おヘソ、だよ」
「……へ…?ヘソ?」
「うん、リョーマ君って良く動くから、ユニフォームが捲れやすいんだよね」
不二のリョーマを見つめる恍惚とした表情に、菊丸は物凄く複雑な表情をしてしまった。
手塚とリョーマが付き合っているのは青学男子テニス部内では有名だ。
リョーマとの出会いは遠征の関係で桃城に先を越されたが、不二も菊丸もリョーマを一目見た時からラブな気持ちで一杯になった。
不二や菊丸以外にも、リョーマを好きな部員は多い。
どこを取ってもキラキラした可愛らしさに夢中になる。
口の悪さや無愛想も、可愛らしさには敵わない。
いつ告白しようかと悩んでいたその矢先、リョーマは手塚と良い仲になっていた。
先輩と後輩の関係や、友人の関係を超えた仲。簡単に言えば、手塚に先を越された形となってしまった。
どういう経緯で二人が付き合い出したのかは不二も菊丸も知らないが、あえて二人に訊ねなかった。
手塚はリョーマと付き合い出してから、性格がガラリと変わった。
冷静沈着で真面目一貫のテニス部部長は、リョーマが絡むと冷静も沈着も真面目も消え失せた。
テニス部ならばコート内は聖域だ。
そのコート内でもイチャイチャイチャイチャ…。抱き付いてチュッ、なんて今では当たり前の光景。
人目もはばからずにイチャイチャしまくっている。
そんな二人のなりそめなんて、胸焼けがしそうなほど甘ったるい話になるのは間違いないのだから。
あぁ、悔しいったらありゃしない。
「…で、不二はおチビのヘソにメロメロになってたってワケ?」
「ふふ、大正解」
「それで手塚はご機嫌斜めってコトか〜」
そう言われて再びリョーマを見てみれば、動く度にユニフォームが捲れてチラチラとヘソが見える。
背中や腹なんて『これでもか』と、見せまくっている。
本人にはその気は無いだろうが、周囲にはサービスをしまくっていた。
周りにいる部員もリョーマをこっそり盗み見している状態に、手塚の眉間は更に狭くなる。
「あ、終わったみたいだにゃ」
「ちょっと待って英二。その後が最高なんだよね」
「ほへ?」
駆け寄ろうとした菊丸はピタリと足を止める。
更に不機嫌になった手塚と、最上級の笑顔を見せる不二。
さぁ、リョーマの身に何が起きるのか。
「……あ…」
リョーマは三人が見ている前で、流れる汗を拭く為にユニフォームの裾を掴んで、そのまま上げた。
身体を覆っているユニフォームを上げれば、結果として腹は全開。
チラチラ見えていたヘソなんて、今では『見て下さい』状態だ。
「…おチビってば大胆だにゃ。でも、いいもの見ちったにゃ〜」
つつー、と流れる汗が艶かしくて、菊丸はゴクンとつばを飲み込んだ。
「あの汗になってリョーマ君の身体を滑りたいね。あぁ、舐めてもいいかも。美味しそうだよね」
笑いながらリョーマの腹を観賞している。
「不二ってばエロい!」
「冗談だよ」
不二が言うと冗談には聞こえないから怖い。


「…もう十分だな…」菊丸と不二がリョーマの腹に釘付けになっているその横で手塚は溜息交じりに呟いた。
コート内もどこか異様な空気が満ちていて、手塚はその空気を振り払いながらリョーマの元へと歩き出した。
「リョーマ…」
部長たるもの部員と馴れ合いになってはいけないと、誰に対しても名字で呼んでいた手塚が、リョーマだけは名前で呼ぶ。
「部長」
対してリョーマは学校内で手塚の名前は呼ばない。
上級生であり、生徒会長でもある手塚を名前で呼ぶなんて、周りが許さない。
盲目的な愛情をリョーマに向けている手塚としては一向に構わないのだが、リョーマは下手に敵を作りたくないのか、校内では慣れた呼び方しかしない。
「少しいいか?」
「ういっス」
手塚は大石に断りを入れると、リョーマを連れてコートから出て行ってしまった。
「あ〜あ、さらわれちゃった」
「リョーマ君がいないとつまらないね」
コートの中からリョーマがいなくなると、部員達の顔から覇気が無くなっていた。


「…リョーマ、座れ」

部室に入った手塚は、まずリョーマをベンチに座らせ、当たり前のように自分も隣に座る。
「何かあった?」

かぶっていた帽子をとって、リョーマは下から見上げるように手塚を見つめる。
リョーマも手塚を好きでいるから、どういう理由であれ、二人きりになれて嬉しい。
手塚の前でしか見せない歳相当の笑顔を作り出す。
「…ジャージを着ないか?」
「は?」
主語もなく始まった不可解な台詞に、リョーマは口をポカンと開けてしまった。
「お前は無防備すぎる」
「…言ってる意味がわかんないよ」
起承転結をしっかりしてくれないと、何が言いたいのか理解できない。
「そうだな…」
「…あ…」
手塚は少々苛立っていた自分を落ち着かせるように、リョーマの身体を抱き締めた。
すっぽりと胸の中に納まってしまったリョーマの身体からは夕べのシャンプーと太陽の香り。
そして汗の匂い。
「どうもユニフォームは動くと肌がかなり露出するのでな」
「ま、仕方ないよね」
練習中の風景を見ていれば、レギュラーのユニフォームがヤケにヒラヒラしているのはわかる。
一体どんな生地で作られているか、通気性なんてものは無いくらいになびいている。
「お前の肌を他の奴らに見せるのは極力避けたいのだが」
不二や菊丸がリョーマで劣情を催すのを、どうにかして止めたい。
自分の知らないところでリョーマをおかずにされるのも嫌だが、自分の目が届くところではもっと嫌なのだ。
「だからジャージを着ろって?」
手塚の言いたい事はわかった。
練習中の自分に絡みつく視線の正体が、そういう意味合いのものだったのもわかった。
「そうだ。俺以外に見せる必要性は無いだろう」
「ジャージなんか着てたら、暑くて倒れそうだよ」
ギラギラした太陽の下で長袖なんか来ていたら、それこそサウナにでも入っているようなもの。
体温の調節が出来なくて、倒れてしまうかも。
「それも練習のうちだ」
「…部長は慣れているかもしれないけど、俺には無理だよ。それにジャージ着て練習すれば余計に暑くなるんだから、絶対に脱いじゃうよ」
今も手塚はジャージを着ている。
元々が汗を掻きにくい体質なのか、部活で手塚が汗をダラダラなんて滅多にない。
リョーマが手塚の汗を感じる時は二人きりの夜が多い。
「しかし…」
「別に見せても減るもんじゃないし。だって、ほらこんな風に出来るのは部長だけだよ」
何やら聞き覚えのある台詞に手塚は大きく息を吐いた。
たとえ肌を見せたとしても、誰も触る事など出来ないのだから諦めるしかない。
こうして抱き締めるのも、キスをするのも、それ以上も、手塚だけの権利であり特権なのだ。
「……夏だしな。仕方がない、譲歩するか」
ぎゅう、と抱き締める力を強めると、リョーマは少し身じろいだ。
「昼間っから熱いよ」
情熱的に抱き締める手塚に、リョーマはくすくすと笑う。
「…夜ならいいのか?」
背中にまわしていた腕を肩に変え、リョーマの顔を正面から見つめる。
「夜ならね…」
熱く見つめられると堪らない。
手塚の熱っぽい視線にリョーマはうっとりとしていた。

約束などしなくても二人の間で今夜の予定が決まってしまった。


「…早かったね」
不二は戻って来た二人、特にリョーマの様子を窺う。
「…当たり前だろう」
「てっきり戻って来ないと思ったんだけどな」
おかしいな、と腕を組んで首を傾げる。
「あれ〜?おチビってば大丈夫なの〜」
テクテクと近付いて来たのは菊丸で、こちらも不二と同意見。
部室に連れ込んだら一時間は戻って来ないと思っていた。
「…身体は何ともない?」
「何ともって、別に何もしてないッスよ」
「うえ〜、手塚ってばせっかくの据え膳を?」
「部活中に出来るか!」
ハグやチュウはOKでも、エッチはNG。
そんな事は当たり前だ。
「…そりゃそうだけど、手塚とおチビだったらアリかにゃ〜ってな」
「部長はそんな事は無いっスよ」
ガッカリと肩を下ろす手塚に、リョーマはとりあえずのフォローを入れておいた。
この後の部活では、手塚は不二と菊丸を徹底的にマークしていた。


「ほら、飲むだろう」
「あ、サンキュ」
部活が終わると二人は手塚の家に直行した。
まずは軽く汗を流す為にシャワーを借りて、スッキリした後で母親の彩菜からは最高のもてなしを受けた。
食事が終わり部屋に戻れば、恋人からは大好きなファンタをもらい、リョーマはとてもご機嫌だった。
「ぷはっ、やっぱり彩菜さんのご飯って美味しいよね」
ベッドに腰掛け、程よく冷えた缶のプルタブを開けると、ゴクゴクと半分ほどを一気に飲み干した。
「母もお前が来てくれると喜ぶからな」
手塚はミネラルウォーターのキャップを外し、三口ほど飲むとキャップを戻して机の上に置いた。
それからエアコンのリモコンを持つと、設定温度を少しだけ下げた。
「…そろそろ、いいか?」
空になったファンタの缶をリョーマの手から奪い、ミネラルウォーターと並べて机の上に置いた。
見下ろされているリョーマは、獰猛な雄の光をその瞳に感じ、視線を外せなくなった。
「リョーマ」
「…いいよ、俺も我慢できないし」
見つめられるだけで身体の中心に熱が溜まる。
その熱く硬い手塚の欲望の証で体内をかき回されるのを思い出すだけで、身体中が熱くなる。
「…今日も気持ち良くさせてやるからな」
ベッドに優しく押し倒されたリョーマは、近付いてくる唇に瞳を閉じた。

リョーマの身体で手塚が触れていない場所が無いほど、行為の最中は執拗に攻める。
手塚はリョーマの身体を知り尽くしていた。
長く熱い口付けで既に蕩けているリョーマは、手塚のなすがまま。
「…あ、くに、み…つ……はっ…」
両脚を掴み大きく開かせた中心に顔を埋めている手塚は、緩く勃ち上がりかけているものを愛しむように舐っている。
濡れた音を立てながら、追い上げている手塚の舌の動きにリョーマは悩ましげに眉を寄せた。
「…あ、ダメ…も、イく…」
強い快感に耐え切れず、リョーマは背中をしならせる。
最後に強く先端だけを吸われたリョーマが呆気なく達すると、口内に放たれた体液を残さず飲み干し、手塚は顔を上げた。
「リョーマ」
白濁液が残る口元を拭い、手塚は潤んだ瞳を覗き込む。
「…今度は俺がするね」
起き上がったリョーマはお返しに手塚の中心に顔を埋めた。
充分な硬さを持っているそれは、リョーマの唇が触れただけで硬さと質量を増した。
自分にしてくれた同じ手段を使い、熱の塊をペロペロと嘗め回す。
「……く…はぁ、リョーマ…」
感じ入っている手塚の様子に、リョーマは嬉しそうに深く咥え込んだ。
室内は冷えているのに、二人の周囲だけは熱気に包まれていた。
「…あ……や…」
手塚はうつ伏せにさせたリョーマの腰を高く上げ、柔らかい双丘を両手で広げる。
いやらしい程に白い柔肌は、手塚の視線を楽しませる。
ひっそりと息衝いている後孔を、これから訪れる衝撃を受け入れさせる為、解きに掛かった。
自ら濡れる事のない窄まりを自らの唾液で丁寧に濡らし、指を差し入れる。
何度か同じ事を繰り返すと、数本の指を飲み込むようになった。
「…あん、んぅ…も、いいか、ら…」
手塚の長い指でも届かないところが疼き始める。
そこを満たす為には、手塚の持つ剛直で突いてもらうしかない。
「もう挿れてもいいのか?」
言いながらもそこを見ながら指を抜き差ししている。
「ん、早くちょうだい…」
「あぁ、すぐに満たしてやるからな」
ぬるん、と指を抜き、手塚はリョーマの腰を掴む。
期待に収縮を見せる後孔に先端を宛がい、ゆっくり挿入を始めた。
「…あ、あぁ…」
一気に突き入れたいのを我慢して手塚は、時間を掛けて全てを埋めた。
「…全部、入ったぞ」
「ん、国光のすっごく熱いよ…」
「お前の中も熱い」
ドクン、とリョーマの中で脈打つ手塚のものが、更に硬くなった。

「…ふぁ…ああっ…ん…」
「……リョーマっ…」
体勢を変えて深く突く。
一度目はうつ伏せのままで、リョーマは手塚の迸る熱を受けた。
二度目は横向きに抱えられ、片足を持ち上げられた不安定な体勢で突き上げられた。
三度目は手塚の上に乗った状態で、リョーマが動いていた。
そして今は仰向けで手塚はリョーマの細い両脚を肩に乗せて、少し浮いた腰に強く叩き付けている。
リョーマも手塚も、お互いが流す汗やリョーマの放った体液で濡れまくっていた。
「…ああん、また…出ちゃう…」
「いいぞ、出しても」
体内の性感帯への刺激により何度でも勃ち上がるものを手塚は緩く握り、軽く扱く。
「…うっ、んん…」
カリと爪で先端を引っ掻けば、一瞬だけ強張った身体は、耐える事無く体液を吹き上げた。
白く濁った体液はリョーマの顔にまで届く。
「…くっ、いくぞ…」
ぐっ、と奥歯を噛み締めながら手塚はリョーマの腰をしっかり掴むと激しく腰を動かし続ける。
張り詰めた先端からは、数度目でも濃厚な体液が溢れ出していた。
「……ふう」
「…あ…」
ようやく衰えの兆しを感じた手塚のものがリョーマの体内から出て行く。


「ちょっと激し過ぎだよ」
腰から下が麻痺してしまったように、自由が利かなくなった。
「…そうか?俺はまだ平気だが」
風呂場に連れて行くには早い時間なので、手塚はタオルを敷いてリョーマの後孔に指を挿れた。
ぐるりと回して抜けば、トロリとした白濁液が垂れてくる。
「…や…」
「早く出した方がいいだろう?少しだけ我慢してくれ」
指を二本挿れ、ぐいと開けば、たっぷり注がれた手塚の体液が零れる。
「…でも、恥ずかしい…」
「俺しか見ていない」
そう言い聞かせて、リョーマの後孔から己の体液を掻き出した。
「でも、今日はどうしたの?」
しばらく経ってから、手塚はリョーマを抱えて風呂場へ連れて行った。
自由の利かない身体を隅々までキレイに洗ってもらったリョーマは、新しいシーツを敷いたベッドの上で手塚に抱き締められていた。
「…何がだ?」
「だって、いつもよりすごかったから…」
体内で感じる手塚は、いつもよりも熱くて硬くて堪らなかった。
それにこんなになるまで、行為に没頭していたのは初めてだった。
いつもなら途中で手塚の方からストップが掛かるのに、全く止まらなかった。
「…夏だからな…」
「夏だから?」
怪訝そうに聞きなおす。
「服は薄くなり、肌の露出は増える」
「…それって部活の話じゃないの?」
今の話は数時間前に部室で言われた内容と全く同じ。
「夏の話だ」
「じゃ、夏の間は、いっつもこうなるの?」
「そうかもな」
「…俺、体力が持たないよ」
あれほどしたと言うのに、ケロリとしている手塚の体力に背筋がゾクリとした。
「ならば、乾に体力向上をメインとしたメニューを作ってもらうか」
「ちょ、ちょっと、何でエッチの為に、そこまでやらないといけないの」
「行為の為だけでは無いだろう。お前は身体が細いのだから体力は重要だぞ」
「……だからって…」
何を言っても無駄のような気がして、リョーマは言葉を失った。

リョーマには話していないが、手塚は部活中の腹チラにいつもムラムラしている。
チラチラ見える素肌は、まるで誘っているかのような錯覚に陥る。
あの柔らかい肌に噛み付いて、舐めまわしたい欲望を必死に我慢しているのだ。
今日は不二のおかげでその欲望が見事に表に出てしまった。
まぁ、別に問題は無い。
二人は恋人同士なのだから。
「俺はメンタル面を鍛えなくてはならないな…」
「…何か言った?」
「いや、独り言だ」
ベッドの中でリョーマを抱き締めている手塚は、艶やかな黒髪を撫で上げた。

リョーマはこの日を境に、あまり露出が増えるような服装を止めた。


「おチビってばジャージなんか着ちゃって、暑くないのかにゃ?」
練習中のちょっとだけの休憩時間に、菊丸は同じグループで練習していたリョーマに近寄る。
「…別に平気っス」
しっかりとジャージを着込んで練習に励んでいた。
「でも、暑いだろ?」
「暑いっスよ。でもこれくらい耐えなきゃダメなんスよ」
燦々と降り注ぐ太陽の日差しの下の長袖は傍目から見てもかなりキツイ。
「我慢大会じゃないんだから…」
「自分との戦いっスよ」
「あっそ…」
あの日からリョーマのチラリズムが無くなってしまって、とてもつまらない。
せっかくの潤いが無くなってしまい、他の部員達もショックを隠しきれていない。
暗く淀んだ空気がコート内に流れていた。

「ちょっと、手塚」
「不二か、何だ」
穏やかな笑顔はどこへやら、不二は怒りを含んだ表情を手塚に向けていた。
「君、リョーマ君に何か吹き込んだんでしょ」
「…何の事だ」
腕組みをしたまま立っている手塚は、ピク、と片方の眉を上げた。
「しらばっくれないでほしいな。リョーマ君がジャージを着るようになったのは、あの日からだよ」
「俺はリョーマに着て欲しいと話したが、断られたので諦めたぞ」
「本当に?」
「あぁ、ならばリョーマに確かめてみろ」
そして不二も菊丸同様に、リョーマに服装の変化を訊いてみたが、答えは同じものだった。
どうやら手塚の策略では無かった事は判明した。

しかし、どうしていきなりジャージを着るようになったのかは、不明なままだった。
夏だからこそ、ちょっとくらいの目の保養があってもいいのに。
リョーマにとって、肌の露出は自分にとって重要な問題。
楽しい生活を送る為には、程よい運動が必要だが、あの日のような激しい行為が続いたら、身体がついてこない。
夏だからこそ、羽目を外してもいいわけじゃない。
そう自分に言い聞かせて、リョーマは今日も練習中にジャージを着るのであった。


夏だからこそ、色々と大変なのだ。




8月と9月のイベントのみで販売しましたコピー本の再録です。
夏だからとエロティック風味にしてしまいました。
冬なのにこんな話でゴメンなさい。