帰り道




「おチビ、たまには俺と2人だけで帰ろ」

「リョーマ君。僕と一緒に帰らない?」

「え…何で?」


それは今から数分前の出来事だった。
リョーマはコート整備を終えて1人先に部室に戻り、着替える為に扉を開けた。
扉が開いた瞬間、待ってましたとばかりに、菊丸と不二の両名はリョーマの前に立ち塞がっていた。

「……ここ邪魔なんで、中に入るか外に出るかして下さい」

この2人に唯一の出入口を塞がれて、リョーマの後からやって来た1年生達と、室内にいた2年生と3年生達は、どうする事も出来ずにその場で立ち往生していた。
リョーマ自身もさっさと着替えたいのに、これでは何も出来ない。

「あぁ、ゴメン」

「じゃ、おチビはこっち」

流れに沿うようにリョーマも集団の輪に入ろうとしたが、菊丸に腕を掴まれて、あえなく御用となった。
そのまま部室の奥に連れて行かれ、冒頭の会話へと繋がるのだ。


「だから、今日は一緒に帰ろ?」

ニコニコと不二に負けんばかりのスマイルを作り、菊丸はリョーマの右手を取った。

「だからって英二を選ぶ必要は無いんだよ」

女子ならイチコロな微笑みを作り、不二は左手を取った。

「…えーと、2人のうちどちらかを選ばないとダメっスか?」

両手をそれぞれに拘束されて、リョーマは困惑気味に質問を投げ掛けた。

「「もちろん」」

見事なハーモニーを奏でた2人は、嫌なものでも見るような目付きをしてお互いを見ていた。
同じクラスだから普段はとても仲良しさんなのに、なぜかリョーマが絡むと犬猿の仲に発展してしまう。
まるで小さな子供が玩具の取り合いでもしているみたいに、どちらか1人がリョーマにちょっかいを出すと、もう1人も触発されてやって来るのだった。

「あの〜、英二先輩も不二先輩も、越前が困っているみたいなんで…」

バチバチと火花が散っている2人をどうにか宥めようと、部室内に残っている者達の視線がいろいろと探りあいを始め、最終的に桃城がその役目に任命された。
数人から背中を押されて、桃城は仕方なく3人の側に寄った。

「桃は関係ないから、さっさと帰る!」

まずは不二の電撃が脳天に突き刺さった。

「そうだにゃ、桃はおチビと一緒に帰る事が多いんだから、引っ込んでろよな」

それから菊丸の落石が頭の上に落ちた。

「は、はい」

2人の怒涛の迫力に負けた桃城にはこれ以上なす術も無く、心の中でリョーマに「すまねぇな」と謝ると、荒井達とすごすごと帰って行ってしまった。
他に適役はいないのかと、探しても、副部長の大石は今日の部活は不参加で、乾や河村達は、とっくに帰っていたのだ。
これで今の部室の中には、不二と菊丸の最強(凶?)タッグに勝てる者は誰もいなかった。


「…困ったな…早く戻ってきてよ…」

ここにはいない誰かに、リョーマは助けを求めていた。

「な、俺と帰ろ?」

「僕と帰ろう?」

菊丸と不二がリョーマに最終決断を迫るように、じりじりと近付く。

「…あの、俺は…」

「そこで何をしている?」

どちらも断ろうと決めたリョーマの言葉を遮るように、誰かの声が飛んできた。
声のする方に視線を向ければ、扉を開けた手塚がこちらを険しい顔で見ていた。

「…手塚」

「ちぇっ、嫌なヤツに見付かったにゃ」

リョーマのピンチを救うように現れたのは、まだジャージ姿の手塚だった。
部活の内容やらを部誌を書き、それを顧問の元へと届けるのは部長の役目である。
少し話をして戻って来てみれば、部室には異様な空気が流れていた。
嫌な予感と共に部員達の視線が一点に集中していたので、誰かに事の説明を求める前に全てがわかってしまった。

「当たり前だろう。お前達は越前に何をしているのだ?」

壁際に追い込まれているリョーマの姿は、逃げ場を無くした小動物のようだった。
どう見ても状況的に悪い感じがしていた。

「僕と一緒に帰ろうと思ってね」

「違う、違う!おチビは俺と帰るのに、不二が横から入ってくるんだ、ひっどいだろ〜」

「何言っているの?それは英二の方でしょ」

「…お前達、それだけの元気があるのなら今すぐグラウンド20周走って来い!」

ぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた2人に手塚は喝を入れると、未だにリョーマの手を掴んでいる2人の手を払い、自分の方へ引き寄せる。

「あっ、おチビ!」

「リョーマ君!」

「…あの、どっちを選んでも後が怖いんで、今日は部長と帰りますから」

解放されたリョーマは、手塚を盾に先ほど言おうとしていた言葉を2人に告げた。
初めからどちらかと2人だけで一緒に帰るつもりは無かった。
そう、初めから…。

「わかったらお前達は帰れ。それとも走るか?」

リョーマの身体を後ろに隠すように、手塚はリョーマの前に立った。

「ちぇっ、わかったよ」

「今度は一緒に帰ろうね。リョーマ君」

手塚が出てきてしまっては分が悪いと、2人は諦めて部室から出て行った。




「…そろそろ俺達の関係を話した方がいいのではないのか?」

結局リョーマは不二や菊丸ではなく、手塚と帰り道を共にする。
それは不二達に対してリョーマが断った口実を遂行しているのではなく、極自然なものなのだ。
2人の交際はトップシークレットで、今のところ誰も気が付いていない。。

「でも、そんな事したら、余計に寄ってきそうだよ。だって不二先輩と菊丸先輩だよ?」

天使の羽と悪魔の尾を持つ不二と、悪気が無い分困ったちゃんな菊丸の2人。
うふふと楽しそうに笑う不二と、にゃははと笑う菊丸の顔が頭の仲でグルグルと回る。

「それもそうだが…」

「大丈夫、俺は国光オンリーだから」

思いっきり眉間にしわを寄せた手塚にリョーマはキッパリと宣言した。

「あぁ、俺もリョーマだけだ」

ほんのり頬を染めながら傍によって来たリョーマの手を、手塚は優しく握った。



不二と菊丸には教えない、手塚とリョーマの関係。


そして2人にとっての帰り道は、秘密のデートコース。




これって塚リョで通じるのか?
そんな不安を抱いたままUPしてみました。
ほのぼのモード全開です。