07.はだけた服


上から見下ろせば、ちらりと見える素肌に鼓動は速まる。


「…まずい」
「ん、どうかしたのか?手塚」
「いや、何でもない」
部活に参加する者は、部室で制服からジャージやユニフォームに着替える。
制服を脱けば上半身は裸になり、下半身は下着姿になる。
そんな当たり前の行動と姿なのに、ただ1人に対してだけは劣情を感じてしまう。
神聖とも言えるこの場所で愚かな想いを抱いてしまう自分に嫌悪感を覚えるが、愛すべき相手だからこそ感じてしまう感情は決して悪いものでは無い。
むしろ、自然な感情なのだと、そう自分に言い聞かせる。
今、部室の中にいるのは、手塚と大石とリョーマの3名のみ。
手塚と大石が練習について話し合いをしていたところで、図書委員の当番を終わらせたリョーマがやって来た。
大石はサボる事無く委員会の当番をしているリョーマに労いの言葉を掛けるが、手塚は頷くだけで言葉は発しないが、視線だけで合図を送る。
リョーマもそんな手塚に対し、大石にはわからないように微かに笑い掛けるだけ。
そうして、部活に参加する為に着替えを始めた。
シャツのボタンを外し肩からシャツを下ろしたところで、手塚は思わずリョーマから視線を外していた。
その姿を見ていると、どうしても2人きりの夜を思い出してしまうからだ。
2人の付き合いはお子様の恋愛とは違い、心と身体も1つにする大人の恋愛だ。
身体を重ねる夜は、両手では数え切れない。
もちろん、リョーマの服を脱がせるのは手塚の役割で、少しずつ時間を掛けて素肌を暴くのがお気に入りだった。
正面から脱がすのも良いが、背後から脱がすと、綺麗な背中のラインに釘付けになる。
首筋に掛かる黒髪を払い、項から肩甲骨に唇を滑らせて、その肌の感触を味わう。
肌の感触と体温を思い出し、身体中の熱が一箇所に集まりそうになったので、手塚はリョーマを見られない。
まだ練習は終わらない。
こんな感情のままでは練習に身が入らない。
「…俺達も練習に戻るぞ」
リョーマから離れなければこの感情を抑えられないと、大石との話が終わるとすぐに部室から出ようと扉へと歩いて行った。
「あ、ああ、そうだな。越前も早く来いよ」
大石はリョーマに話し掛けてから手塚の後を追って部室から出て行った。

「…何だったんだろ?」
1人になったリョーマは、手塚の奇妙な行動に頭を捻っていた。
こちらを見ていたと思ったら、急に視線を逸らし、居心地が悪そうに出て行ってしまった。
何かした記憶は全く無い。
「…わかんないな」
リョーマには手塚のように部活中に劣情を催さない。
部活中はテニスの事だけ、2人きりになれば手塚の事だけと、リョーマの方がその場の感情をコントロールできていた。
リョーマは手塚が着替えている姿を見ても、体格の素晴らしさと比べ自分の未熟さを思い知らされるだけ。
手塚は中学3年生とは思えない見事な肉体を持っている。
本来なら少年の域にいるはずの手塚は既に青年の域に達していた。
それは身体の事だけでなく、精神や思考も含めて。
自分の父親の姿があんな状態なので、手塚の男としての格好良さと、頼りがいのある姿に憧れる。
「ん〜、後で聞いてみればいいか」
どれだけ考えたとしても、結局は他人の気持ちなので、リョーマにはわかるはずも無かった。
さっさと着替えると最後に帽子をかぶってラケットを持った。
部室から出れば、リョーマはテニスの事だけを考える。


練習中も手塚はあまりリョーマを見ようとしなかった。
一旦気にしてしまうと、なかなか頭の中から消えてくれない。
その上、感情に任せてしまったら、部活どころではなくなってしまう。
「…溺れているな」
リョーマは練習に夢中になっていて、今は練習相手になっている菊丸と激しい打ち合いをしていた。
左右に振っても、リョーマはボールを的確に捉え、菊丸は得意のアクロバティックな動きで返す。
ボールばかりで全くこちらを気にしないリョーマに、手塚は苦笑いを浮かべる。
愛情のレベルは対等だと信じているが、こういう場面になると疑っているわけでは無いが、どうしても自分の方が好きでいるのではないかと不安になる。
「今日は帰りを共にするか」
モヤモヤとしているこの想いを、いつまでも心の中に残しておいてはいけない。
何事もストレスになる前に対処する事が肝心だ。
こう結論付けると、手塚も練習に身を入れた。

あれから部活も通常通りに終わり、手塚はリョーマを部室で待たせておいた。
手塚は顧問と話しをしてから部室に入ってくるので、どれだけ早くても部員のほとんどが帰ってからになる。
暇そうにしていたリョーマも手塚が入って来た事で表情が変わる。
安らぎにも似たような雰囲気の中、手塚は制服に着替えて部室の扉に鍵を掛けると、リョーマと共に帰り道を歩き始めた。
「…少し寄って行かないか?」
あと少しで別れるところまで来ると、手塚はリョーマに1つの提案を出す。
週末以外で誘われるなんて初めてであったが、リョーマはその提案を断らず、一つ返事で了承すると、自分の家に帰る道と異なる道を歩き出した。


「…どうかしたの?」
手塚の自宅に到着すると「出来上がっているからどうぞ」と、先に夕食を食べさせてもらった。美味しい食事に舌鼓を打ち、その後で手塚の部屋に入ると、リョーマは部屋のドアを閉めた手塚に背後から抱き締められていた。
「今日、お前の着替えを見ていたら…」
ここならば、感情を抑える必要は無い。
部室の中でリョーマの抱いてしまった劣情を打ち明けていた。
「…エッチな気分になっちゃった?」
まわされた手塚の腕に手を添える。
「まぁ、そんなところだな」
「それで部活中はいつも以上に見て来なかったんだ」
練習に集中していても、リョーマは手塚の動向に気が付いていた。
まさか自分に欲情していたなんて思ってもみなかった事で、それに関しては予想外であったが。
「何だ、気付いていたのか?」
微かに驚きを含んだ声を上げる。
「部室の時からちょっとおかしいと思ったからね。でも、俺の着替え見ててエッチな気分になっちゃうならいっつも大変だね」
真面目な手塚が自分にだけは不真面目な感情を向けてくる。
恋人としては喜ばしい事。
「…あ、だから今日は誘ったんだ?」
くす、と笑った後で、リョーマは週末でもないのに手塚が自分を誘った理由を導き出した。
「そうだ…」
身体がリョーマを渇望していて、少しでも良かったので同じ時間を過ごしたかった。
無論、身体だけでは無く、心もリョーマを求めていた。
「じゃ、明日に響かない程度でシヨ?」
「…了解した」
手塚はリョーマの身体を入れ替えて、正面から抱き締めると、シャツのボタンを外し出した。
最後までは外さずに、両手をシャツの中に入れて肩に触れながらシャツを下ろし始める。
現れた眩しいほどの肌に、手塚はそっと唇を寄せていた。
リョーマはゆっくり目を閉じて、手塚の愛情の全てを身体と心で受け入れていた。



はだけた服に感情を支配されても、受け入れてくれる人は傍にいる。

その幸せをじっくりと噛み締める。


1人では無く、愛する相手と共に…。




題名からエロいよなぁ…。
中身もちょっと大人仕様にしちゃいましたよ。ウフフ…