06.密会


こっそりと会うのって、何だかイケナイ事をしている気持ちになる。
物音にドキドキしちゃたり、周囲をキョロキョロしちゃたり。
でも、それが楽しかったりするんだよね。

会う時は誰にもバレない合図で、会う場所は誰にも秘密な所で。


「やっぱりここってちょっと緊張する…」
「そうか?」
「国光は慣れてるから何とも思わないんだよ」
2人がいる場所は、一般の生徒では卒業するまで一度も入らない可能性が高い部屋。
職員室よりも生徒の出入が少ないこの部屋の名称は『生徒会室』だった。
手塚が生徒会の会長を務めていることもあって、会議や仕事が無い時はこうしてリョーマとの逢瀬の為に使用していた。
この部屋に用がある生徒など生徒会の役員以外にいないので、屋上や部室よりも誰かが入って来る可能性が低い。
なんとも都合の良い部屋だ。
「それもそうだな。長いことここにいるからな」
リョーマの言うとおりだな、と付け加える。
「長いって今期だけじゃないの?」
「…ああ、会長では無いが、前から関わっている」
但し、好きで関わっているのではない。
リョーマと出会えると知っていれば、今期は何としてでも断っていた。
生徒会の仕事は部活動の時間も割かないとならない。
部活でも部長をしているので、生徒会の仕事はかなり負担になっていた。
なによりもリョーマとの時間が少なくなるのはマイナスだ。
「ふーん…」
教室には絶対に見られないソファーがあるのが生徒会室の特徴。
手塚が公務の為に使用している机と椅子も、どこかの会社の重役のように豪華な物。
またそれが手塚に似合っているから、茶化すことすらできない。
「…よし、終わったぞ」
「お疲れ様」
残っていた書類を片付けた手塚は、リョーマが座っているソファーに移動した。
革張りの座り心地の良いソファーは学園長の部屋にあった物らしいが、あまりにも座り心地が良いので、少し固めの物と変えられた。
簡単に言えば不要になった物がこちらに流れてきただけだ。
「雨って止まないのかな」
「…今夜は無理だろうな」
昼から降り出した雨のせいで体育館内での練習に変更する部活が多く、テニス部は場所取りを諦めて練習を中止した。
部員達は久しぶりの休みとあって、もう帰ってしまっただろう。
リョーマはこの折角の時間を手塚と過ごすべく、少しの間も離れたくないと生徒会室まで着いてきていた。
終わればさっさと家に戻ればいいのだが、家に戻るのが勿体無いので、帰宅する生徒の数が少なくなるまでここで時間を潰す気でいた。
2人で帰るには、人目の少ない時間にしないと変に思われる。
部活の先輩と後輩の仲でもこういうのは別らしい。
「…と、その前に」
2人の時間を有意義の使う前に、手塚は生徒会室の扉に鍵を掛けた。
貴重な時間は教師であろうとも邪魔はされたくない。
「…国光」
リョーマは両腕を広げて手塚を呼べば、甘い香り出す蜜に誘われた蝶のように手塚はリョーマを抱き締めていた。
「ここでいろんな仕事しているのに、こんなコトしちゃっていいのかな」
抱き締められてうっとりとした表情をするが、どうしても気になっていた。
学校内は教室だろうが部室だろうが、体育館でも禁欲的な空間なのに、何故か情欲を湧きたてられる場所。
「たまにはいいさ」
今更止めようと言われても、もう止められない。
「国光がそう言うのならいいか」
にっこりと微笑めば、手塚は誘われるようにその唇にキスをしていた。
程よい弾力に夢中になるのはいつもだった。


「そろそろ帰るか…」
抱擁とキスを何度も交わしていたが、雨が強くなってきたのでここでの逢瀬は終わらせた。
「…ん、どっちの家に?」
「お前はどちらがいいんだ」
何度もキスをされて赤く色付いている唇がやけに扇情的で、手塚もこのままリョーマを帰す気になれなかった。
もちろん、リョーマも1人で帰宅するなんて毛頭無い。
「そんなの国光の家に決まってるよ。それで彩菜さんのご飯食べるんだ」
美味しいご飯が食べられるのは手塚の家の方。
和食好きなリョーマだから、ほとんどが和で統一されている手塚の食卓はリョーマにとってはご馳走だった。
「では、美味い食事の後で、お前を美味しく頂こうか」
「それじゃ、ただのエロ親父だよ…」
うえっ、と嫌な顔をするリョーマに軽く笑うが、手塚は冗談のつもりでは無い。
一度口にした事は絶対に実行する。
「では、帰ろう」
「うん」
密会の場所は生徒会室から手塚の自宅へ変更となった。

リョーマも折り畳みの傘を持っていたが、折角なので忘れた事にして手塚の傘の下にリョーマは入った。
「…さっきよりも弱くなって良かったね」
「だが、まだ降るからな。家に到着するまでこのくらいで済めばいいのだが、リョーマ、もう少しこちらに寄れ」
「え、でも…」
自分の傘を差せばいいのに、勝手に入っているのだから濡れても文句は無い。
「それでは身体の半分が濡れるだろうが」
傘を持っていない手をリョーマの腰にまわし、ぐいと引寄せる。
「…ありがと」
「冷えたら後でじっくり温めてやるからな」
「…うん」
今度はエロ親父とは言わない。
自分も求めているのだから、素直に答えていた。


どちらかの家に行けば、校内では無理な接触も可能となる。

密会はまだまだ続く。





部室もだけど生徒会室とか屋上って密会の場所ですよね。
それより何より、この短さに謝罪します…。