TECHNONET レポート 2005.7

オルガテクノ2005「有機テクノロジー展」

                            2005年7月2日から4日 東京ビックサイトにて開催


<研究機関の展示から>
●宇宙航空研究開発機構 形状記憶ポリマーの宇宙機器用アクチュエータへの展開 
●理化学研究所 環境分子科学研究
<企業展示>
●チッソ 新規ポリマー ポリシルセスオキサン  ●日産化学 導電性ポリマーの有機溶媒分散液  
和光純薬 光カチオン開始剤,光酸発生剤  ●カネカ 高耐熱,高耐光性透明樹脂 FSXR Resin 
 ●凸版印刷 印刷法によるフルカラー有機ELディスプレイ
<オルガテクノ大賞2005>から
●SRIインターナショナル「電場応答性高分子人工筋肉」
●情報通信研究機構「非揮発性機能性分子の分子ビーム堆積と分光研究のためのスプレー・ジェット技術」


<全体の印象,感想>

「未来を拓く!有機・高分子」をテーマに,本年初開催となるイベントである.
「エレクトロニクス」「フォトニクス」「バイオテクノロジー」「新機能マテリアル」の4分野を中心に,従来のテクノロジーを根底から覆す可能性を秘めた有機・高分子技術の現状と可能性を広く世に問う,と壮大なテーマを掲げて出発した。
 テーマがいかに立派であっても,それに伴う内容があるかどうかが問題だが,参加企業が第1回ということもあって必ずしも多くなかったこと,また事前の広報活動の不足からか,参加者もあまり多くなかったことなどから,イベントとして十分な成果が上げられたかというと疑問なしとはいかない。

 有機材料,高分子材料をメインに掲げているが,同じような次世代のテクノロジーを中心に据えたイベントしてはナノテク展がある。ナノテクノロジーいう言葉は実に範囲が広い。ナノサイズの物質から,ナノサイズでの物質の加工,制御までを含み,しかも従来の有機・無機といった領域を横断する新しい広がりを感じさせる言葉として急速に広がりを見せている。技術としてナノテクノロジーが何を意味するかは必ずしも明らかでなくとも,ナノサイズという超微細領域を扱うことの可能性は,素人にもわかりやすい。また,有機,無機といった従来のジャンル分けにもこだわらないところが新しい可能性を感じさせるのかも知れない。

 その意味ではオルガテクノということばはいかにも地味である。テーマとして掲げている「エレクトロニクス」「フォトニクス」「バイオテクノロジー」「新機能マテリアル」どの分野でも有機・無機の区別はとりたてて意識しない領域である。もちろん,そこで中心となるのは有機材料側からの分子レベルでのアプローチであることは間違いのないところであり,その特徴を生かした形で展示,会議が発展していくことを期待したいが,まだそれを予感させるまでにはいたっていない。

 また,次世代材料,デバイス開発を強調することは,世の中のニーズとの関わりを強調するようりは,素材,材料としての可能性,その広がりを訴えることが中心になってしまいがちである。かつて,ニーズとシーズの出会いを強調した時代があった。そのこと自体は今でも有効ではあるが,「エレクトロニクス」「フォトニクス」「バイオテクノロジー」「新機能マテリアル」いずれの分野においても,ニーズはより具体的にしかもその機能をナノレベルで問題にするまでになっており,単純なシーズなどは,産業界の研究開発のレベルではなかなか見られなくなっている。その意味では材料開発は大きな転換点に来ている,といえるのかも知れない。

 研究開発においては,具体的な目標をきちんと掲げることが重要となっており,大学,国公立の研究機関が独立行政法人化するなかでは,大学もまたシーズからニーズを求めての研究が多くなっている。その意味では,産学官いずれの研究機関においても研究開発の方向は変わりつつあるのかもしれない。そういった中でオルガテクノ展は開催されたわけだが,ここでは各研究機関の注目研究を紹介するともに,展示のなかからいくつかのトピックスを紹介することとしたい.



<研究機関の展示から>


独立行政法人 宇宙航空研究開発機構  形状記憶ポリマーの宇宙機器用アクチュエータへの展開

高分子材料のガラス転移現象を利用した形状記憶ポリマーに対し,繊維強化によって強度,剛性,形状回復力,形状回復精度等の向上を実現した。加熱のみによる形状回復が可能,動作が可能であり,シンプルかつ高信頼性の宇宙機用アクチュエータへの適用を目指した開発を行っている。

また,最近,炭素繊維複合材料の高耐熱化を実現するマトリックス樹脂の開発に関して次のような発表を行っている。(宇宙航空研究開発機構 プレスリリースより
 航空宇宙分野で用いられる耐熱複合材料は,炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる薄い可とう性のあるシート状の素材を積層し,目的とする形に成形・加熱硬化して作られる。樹脂材料としては耐熱ポリイミド樹脂が使われていたが,これまでの耐熱ポリイミド複合材料は,成形過程で樹脂が化学変化を起こすため,水が発生,それを除去するために複雑な工程を必要としていた。これは,材料中に残った水分が空隙となって強度が低下することを防ぐためである。この度,強度低下の原因となる,成形中の水の発生を抜本的に無くした画期的なイミド系樹脂を用いたイミドプリプレグを,既にJAXAで開発したTriA-PI(注1)の分子設計を変更することにより世界で初めて開発した。
 このプリプレグを用いることで,300℃を超える高い耐熱性と優れた力学特性を併せ持つ,高耐熱・高強度な複合材料をより簡便に,高品質で成形することが可能となった。今回の成果は,絶対の軽量化が求められる宇宙往還機や極超音速旅客機,長期耐久性が要求される次世代超音速航空機等の開発に大きく寄与するものとして注目される。
http://www.jaxa.jp/



   
      ポリイミド/炭素繊維複合材料と断面の顕微鏡写真


独立行政法人 理化学研究所 環境分子科学研究

 理化学研究所は,ナノと材料に関わる様々の領域にわたって研究開発を進めており,その様々の成果,研究の広がりなどをポスターを中心に紹介した。中でも関心が高かったのが環境分子科学研究(第2期)のポスターセッションで,気球環境保全と基礎科学研究のかかわりを簡潔に紹介していた。


 21世紀において自然と共生できる社会を実現するためには,含塩素芳香族化合物やプラスチックなどの環境汚染分子を分解して環境低付加分子に変換する革新的な環境修復・改善技術や環境分子の生態影響評価技術を開発するとともに,炭酸ガスやバイオマスなどの環境資源分子を有用物質や材料に変換する新しい科学技術(グリーンテクノロジー)を創成する必要がある。環境分子科学研究では,化学,生物学,物理学,工学の異なる研究分野で活躍している研究者の共同作業によって,環境分子の合成科学,材料科学,反応科学,光科学,情報科学,分解科学に関する6課題研究を強力に推進し,地球環境を守るための新しい研究領域の開拓を進めている。以下にはこの中から,いくつかを図版で紹介する。


   

     

  


                  http://www.riken.jp/lab-www/ecomolecular/index.html



<企業展示から>

有機テクノロジー展というだけに,やはり材料関係の展示が関心を呼んだ。そのなかから取材者の関心を持ったものをいくつか紹介する。

●チッソ 新規ポリマー ポリシルセスオキサン

チッソはエレクトロニクス材料,新機能材料などを紹介。エレクトロニクス分野では液晶・液晶周辺材料および有機EL化合物など最新の材料を,新機能マテリアル分野では幅広い用途に用いられる精密に構造制御されたポリシルセスキオキサンを,バイオ分野では診断薬,細胞分離およびスクリーニング試薬等に活用可能な温度応答性磁性ナノ微粒子,イクオリン等をポスターを中心に展示した。

 以下にはポリシルセスキオキサンを紹介することとしたい。このポリマーは,チッソが世界で初めて選択的に合成したケイ素化合物で,2つの環状シロキサンが上下に連結したユニークな構造をしている。



この素材をベースにたとえば,イミド結合を導入してポリマー化することで,高透明性と耐熱性を兼ね備えた新しい材料が可能になる。

                 イミド化PSQの構造

チッソ叶略事業開発室 電子情報材料開発チーム   TEL 03-3534-9153 山田,斉藤



●日産化学 導電性ポリマーの有機溶媒分散液

 導電性ポリマーは,日本発の代表的な機能材料である。ここにきて次世代エネルギー開発の基礎材料として,新しい用途展開が期待されるようになっている。

   ポリアニリン

 日産化学は,ドイツ・オルメコン社との共同開発により,導電性ポリマー「ポリアニリン」の有機溶媒分散液「ORMECONR」を紹介した。有機溶媒に分散させたことにより,プラスチック機材などへのRoll to Roll 塗布が可能になり,帯電防止だけでなく様々の用途展開が期待できる,という。また,ナノプリント用導電性インクなど,新しい用途への展開も可能であり,次世代デバイスを実現するキー材料として関心を集めた。その物性をカタログより紹介する。




日産化学工業渇サ学品事業部 新事業企画部   E-mail matumura@nissanchem.co.jp


●和光純薬 光カチオン開始剤,光酸発生剤


 同社では,固定化触媒など省資源,環境を意識したグリーンケミストリー技術を用いた受託製造を展開している。また,エレクトロニクス,機能性コーティング分野では様々な光カチオン開始剤,光酸発生剤,更に電子工業用薬品として最新のCu-CMP用後洗浄液や各種のウェハー用洗浄液などがある。

ここではエポキシ樹脂のUV硬化用材料として期待されている光カチオン開始剤,LSI用レジストの光酸発生剤などを紹介する。同社では,これらの他に,要望に応じて各種光酸発生剤,光カチオン重合開始剤の受託製造を行っている。





http://www.wako-chem.co.jp/kaseihin/index.htm

●カネカ 高耐熱,高耐光性透明樹脂 FSXR Resin

耐熱性と,透明性を併せ持ったポリマー材料への期待は,光通信,エレクトロニクス材料の分野では,これまでも期待されてきたが,ここにきて光とエレクトロニクスとの融合が本格化しており,これまで以上に強く求められるようになってきた。
 カネカでは,有機・無機の分子レベルでの複合化技術により,その達成を狙っている。
          


液状の熱硬化性樹脂で,低粘度であるため無用剤での操作が可能。透明性は可視光領域ではPMMA並み。耐熱性,耐光性に優れ,さらにイオン性不純物が少ないという特徴がある。


     
FSX樹脂(左)と光学用エポキシ樹脂(右)の耐熱性試験(200℃,20時間)後の比較。

その他の物性は次のとおり。



潟Jネカ 研究開発本部 新規事業開発グループ TEL 06-6226-5749  E-mail; Manabu_Tsumura@kn.kaneka.co.jp


●凸版印刷 印刷法によるフルカラー有機ELディスプレイ

エレクトロニクス分野での有機材料でもっとも注目を集めているが,液晶,プラズマ,有機ELなどのフラットパネルディスプレイであるが,これらに関しては,ものづくり,製品開発に関しては規模の大きな展示会が開催されている。しかし,この分野は,進化が著しくまだまだ材料開発が重要なポイントとなっている。この意味では,ORGATECHNOへの期待も大きい分野だと思われるのだが,そうした期待に応えるだけの出展が少なかったことが残念である。

 この分野で,最も注目を集めたのが,凸版印刷の発表した印刷法によるフルカラー有機EL ディスプレイである。会場の発表と,ニュース資料から,その概要を紹介する。

 凸版印刷では,英Cambridge Display Technology (CDT)と共同で,印刷法による有機ELパネルの開発に似取り組んでおり,本展示会でその概略を紹介することにしたい。

この印刷法は、特に膜厚の均一性が確保できることが特長で、非常に薄い発光層を、ピンホール無く、均一な厚さで形成することができる。また、マスクを使わずに高精度なパターニングが可能、基板サイズの大型化が容易という特徴を持っている。また基板がガラスだけでなくフィルムにも適用が容易で、将来的に期待されている、巻き取り製造プロセス (Roll to Roll)も可能となる。
 今後、有機EL材料の長寿命化・高性能化の開発とプロセスの最適化を行ない、2007年に第四世代サイズ(730mm×920mm)対応の量産試作と共に、国内外の協業先の検討を行なっていくとしている。
展示した試作品は,対角5in,画素数 320 ×240 (QVGA)

   
   印刷法によるRGB塗り分けフルカラー有機ELディスプレイ試作機パネル

   凸版印刷 ニュースリリース 2005,6より http://www.toppan.co.jp/aboutus/release/


<オルガテクノ大賞2005>


展示に先立って,展示会主催者が行った表彰である。ノーベル賞受賞者による選考ということだが,この展示会がどのような広がり期待しているのかが伺えて興味深い。受賞者とその概略の一部を紹介する。

・オルガテクノ大賞
  ソニー株式会社 「マイクロキャビティ型白発光+CF方式12.5インチ有機ELディスプレイ」

・審査員特別賞  SRIインターナショナル「電場応答性高分子人工筋肉」

新機能実現可能な電応高分子型人工筋肉(EPAM)
SRI インターナショナルでは,91 年の後半から,電場応答高分子を用いた新しいタイプの人工筋肉を開発している。90 年後半にいくつかのブレークスルーを実現し,電場応答高分子型人工筋肉(Electroactive Polymer Artificial Muscle: EPAM)の可能性はかなり広がった。EPAMは,ゴム状の薄い高分子膜を伸び縮み可能な電極で挟んだシンプルな構成で,電極間に電位差を与えると,静電力によって高分子が厚さ方向に収縮し,面方向に伸張する。アクリルを用いたEPAM では380%以上の歪みと約8MPa の圧力が得られる。使用する高分子によるが,音響用としては50kHz まで,非音響分野では1kHz 以上の高速駆動が可能である。

               
EPAMのもう一つの特質すべき点は,高い効率を有していることで,生体の機能を真似たEPAM は軽量で静かな動作が可能であり,モーターを用いたシステムでは真似ができない「柔らかく自然な感触」実現できる。SRI では,脚型ロボット,遊泳型ロボット,飛翔型ロボット等の原理確認用デバイスを製作した。しかし,EPAMは,筋肉型アクチュエータだけでなく,新しい機能創生が期待されており,例えば近い将来,形にとらわれないEPAM スピーカーや高周波機器において新しい機能を有したデバイスが生み出されると期待される。

・ポスターセッション賞

(独)情報通信研究機構 関西先端研究センター 山田俊樹

「非揮発性機能性分子の分子ビーム堆積と分光研究のためのスプレー・ジェット技術」



機能性分子の分子ビームを高真空中において生成し,分子を基板上に堆積させる技術を開発すること,また分子の特性を評価するシステムを開発することは,様々な分子素子の開発や新規な特性評価システムの構築における基盤技術になると期待される。この時,熱により揮発可能な機能性分子だけでなく,加熱により壊れてしまう分子,反応性のある分子,分子量が大きい分子など揮発させることが困難な機能性分子の分子ビームを生成し,高真空中に導入し,基板上に堆積させることも必要になると考えられる。大部分の分子は溶媒に溶かすことが可能であるため,その溶液から分子ビームを生成し高真空中に導入する方法(スプレー・ジェット法)を開発してきた。また,同時に基板上に堆積させた分子や分子ビーム中での分子の特性を評価する手法を開発してきた。http://www-karc.nict.go.jp/d336/index.html

その他の部門の受賞者は次のとおり。
新技術部門賞   株式会社 日本総合研究所「高機能材料設計プラットフォーム J-OCTA」
材料・素材部門賞 チッソ株式会社/神戸大学「熱応答性磁性ナノ粒子 商標名:Therma-Max」
デバイス部門賞  凸版印刷株式会社「ボールSAWデバイス」
製造・設計部門賞 シスメックス株式会社「フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」」


まだ興味深いテーマがいくつかあるが,これらについては別の機会にレポートしたい。       (文 八代啓一)

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