BIo Japanレポート
主要目次


1.はじめに

2.バイオ産業への期待
横浜市の取り組み
北海道の取り組み

3.展示から

AIバイオチップス
 
日本油脂 DDS事業
イミュノフロンティア
ナノキャリア
ビークル
住友ベークライト

附,ブルーローズ




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TECHNONET REPORT 2005,10



レポート

2005.9/7~9/9 パシフィコ横浜にて開催


1.はじめに Bio Japanでのバイオとは

バイオテクノロジー,バイオインダストリーをはじめ頭にバイオの付く言葉はあちらこちらで独り歩きしている。たとえばこの展示会Bio Japanのバイオはなんだろうか。
 しかし,こんなことに頭を悩ます必要はない。この展示会が取り上げているものから,バイオという言葉が意味するものを探っていけば,おのずと答は出てくるはずだ。
 たとえば,主催者の一つである雑誌社,日経BP社では関連する雑誌として日経バイオビジネスとニュースレター 日経バイオテクを発行している。この購読者層として想定しているあたりが,この展示会でいうバイオの領域であろう。
 そこで取り上げているのは以下のような領域である。
 ●医薬・医療分野----SNP,遺伝子治療,ゲノム創薬,テーラーメード医療,遺伝子診断
 ●化成品分野------生分解性プラスチック,バイオ化粧品,工業用酵素,酵素変換など
 ●環境・エネルギー分野-----バイオマス,CO2固定化,ダイオキシン分解構想,浄化技術
 ●食品・農林水産分野------保険機能食品,分子農薬,イネゲノム,微生物農業,クローン動物
 そして,共通テーマとしてDNAチップ,ゲノム解析,プロテオミクス,バイオインフォマティクス,バイオベンチャー,倫理などをあげている。これはこれで,バイオが既存の産業領域とどのような関係を取り結んでいるかがわかる,という意味では興味深い。
 私自身は,あくまでも仮の分類として次のようなことを考えている。

●植物バイオ 
遺伝子組み換えをベースに,新しいタイプの種子をつくろうという技術。すでに遺伝子組み換え大豆をはじめ,各種の植物が出回っている。これらを総称して,植物バイオと呼んでもいいのではないか。

●食品バイオ
 微生物を扱う産業として発酵の利用がある。日本の食品工業のなかで発酵工業は重要な位置を占めているが,発酵利用産業とバイオは密接に関係している。発酵の利用を工業的に制御することはまさにバイオテクノロジーである。しかし,この産業領域までここでいう<バイオ>に入れてしまうと,日本の食品工業の多くが<バイオ>産業ということになってしまい,<バイオ>という言葉に込めた産業界,特にこのような展示会をひとつのきっかけとして新しい産業分野を作りだそうという意図とは離れてしまうことになる。
 ここでは,発酵利用産業に新しい遺伝子工業を組み込んだ分野を<食品バイオ>と呼ぶことにする。

●医薬バイオ
 医薬の分野でのバイオテクノロジーの進歩は著しく,大手の製薬会社がバイオテクノロジーをベースに盛んに開発を行っている。現在、医薬品の35%がバイオテクノロジーで製造されているといわれており,この割合は、2012年までには70%にまで上昇すると推定されている。
なかでも,ヒトゲノムの解読が終わり,新しい段階としてゲノム創薬が話題に上っているのは良く知られている。ヒトゲノムの解析が,遺伝子治療という新しい分野を開こうとしており,医療のあり方を大きく変えつつある。
また,薬品を治療の必要な箇所へ必要な分量だけ届けるドラッグデリバリシステム(DDS)の開発も進んでおり,これもまた新しい医薬のありかたを示すものである。DDSは,高分子材料の機能をうまく生かした領域でもあり,研究開発も盛んである。

●医療バイオ
 バイオテクノロジーの進歩とともに,医療の現場も大きく変りつつある。
 一つが再生医療である。21世紀は再生医療の時代と言われているが,この再生医療におけるバイオマテリアルの役割は極めて大きいため,再生医療の現場では新しいバイオマテリアルの開発が期待されている。バイオマテリアルをどのように定義づけるのかはむずかしいところもあるが,工学の研究者が携わってきた医療用材料の開発,人工臓器などあらゆる材料が医療用バイオの分野は包摂する。その意味では,古くて新しい材料であるわけだが,遺伝子工学の発展とともに,従来の医療材料からさらに発展した領域がそこにはある。

●分析とバイオ
 医療の分野での解析も重要なポイントとなる。特に,DNAチップなどの解析ツールは微細加工の技術とあいまって急速な進展を遂げている分野である。この分野へはベンチャー企業の参入も多い。


2.バイオ産業への期待

 バイオ産業への期待は,まずはその市場規模のおおきさにあるが,どの範囲までをバイオと呼ぶのかによって大きく異なってくるため,正確なことはいえない。表1は政府が発表しているバイオ関連産業の市場だが,食品など発酵工業も入っているため,ここでいうバイオとどのような重なりを持つかは必ずしも明らかではない。

表1 経済産業省の発表したバイオの産業規模

経済産業省「バイオ産業創造基礎調査」平成16年度版より。
http://www.meti.go.jp/policy/bio/main_01.html


 したがって重要なのは新しい産業であること,従来の産業の枠を超えた領域において様々の可能性の萌芽が見られるところにあるのだろう。
 新しい産業の創製には,新しい枠組みが必要であり,国,地方自治体ともに積極的な取り組みが見られるようになっている。特に生物資源と密接なかかわりを持つことから,それぞれが同じような取り組みをはじめても,地域によってその進展は大きく変わってくるはずである。地方自治体の産業創製においても地域に根ざした活動ができる意味は大きいと見られる。ここではその代表として,横浜市とと北海道を取り上げることにする。


<横浜市の取り組み>

「健康な市民生活への貢献」、「経済の活性化・雇用の創出」、「研究開発の推進」を目指す「ライフサイエンス都市横浜」を唄っており,ビジネスパートナーに出会うためのサポートを目指したブース展示を行っている。産学連携の成果をはじめ、共同研究事例、市内大学と企業が誇る最先端の技術や製品のプレゼンテーション、バイオベンチャーの創業・事業拡大に成功した魅力ある横浜市の支援策を紹介した。<BR>
〔共同出展者〕
(財)木原記念横浜生命科学振興財団、(財)横浜産業振興公社、横浜バイオ等新産業研究会、(公)横浜市立大学、横浜市内、神奈川県内の企業、大学


 なお,横浜市の取り組みに関しては,横浜市経済局バイオ産業推進課HPに詳しい。        
 http://www.city.yokohama.jp/me/keizai/life/bio2005.html




<北海道の取り組み>

 地域の展示でもう一つ目立ったのが,北海道である。農業,牧畜,漁業と日本のなかでも風土的にも独自のものを持っている北海道では,バイオ産業を今後の北海道産業の軸となるものと期待している。産学からの様々のバイオテクノロジーの進展が紹介された。<BR>
北海道の紹介コーナーでは次のように紹介している。
 本道のバイオ産業クラスターの売上高は、過去5年間で約2.6倍の規模に成長しています。また、バイオベンチャー企業数は、東京都に次いで全国2位となっており、「日経バイオビジネス」誌の全国バイオクラスター調査では、札幌市周辺のバイオクラスターが全国で2位の評価を得ています。
 道では、バイオ産業を戦略分野として位置づけ、国等の関係機関と連携しながら、研究開発への支援、産学官連携による研究成果の事業化の推進、ベンチャーの創出・育成、産業立地の促進などに取り組んでいます。
北海道のバイオへの取り組みは 下記を参照下さい。
北海道バイオ産業クラスター・フォーラム(北海道科学技術総合振興センター)     
   http://www.noastec.jp

 その範囲も広く,サケの白子からのDNAを産業用途に展開するなど,ユニークなものが多い。いくつかを当日配布されたカタログから紹介する。

●日生バイオ サケ白子DNAの有効利用<BR>


http://www.nisseibio.co.jp


●角弘 サケ軟骨由来の新素材 プロテオグリカン


3.展示から

こういった視点から,以下にはバイオに関する私か感じた注目技術を,展示とホームページからいくつか拾って紹介したい


AIバイオチップス 

同社は第一器業と東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻石原研究室が共同研究成果を社会還元するために設立した「東大発VB」。AIバイオチップの名のとおり,高集積でインテリジェントなバイオチップの開発,バイオ材料の開発を進めている。「Bio Japan 2005」では、「PCサーフェイステクノロジーの最前線」と題して、バイオチップ及びバイオセンサーに使用されるポリジメチルシロキサン(PDMS)と金薄膜(Au)への表面処理の最新情報とデータを発表するとともに、PCサーフェイステクノロジーを利用した不安定タンパク質の保存方法など,注目技術をいくつか紹介した。
 PCサーフェイステクノロジーは,細胞膜の構造体を人工的に構築するテクノロジーである。特にナノレベルで表面の機能を制御できるテクノロジーとして,バイオ関係者だけでなく大きな関心を集めていた。細胞膜の主成分であるリン脂質(PC基)を基材上に配列し,必要なバイオ分子を固定化することで,人工細胞膜ができる。
また,表面の機能化という意味では,細胞膜だけでなく,あらゆる基材の表面の機能化に寄与できる技術として大きな関心を集めていた。    
   AIバイオチップスのホームページ 
http://www.ai-bc.jp



日本油脂 DDS事業部

ポリエチレングリコール,リン脂質ポリマーなど,日本油脂は,ドラッグデリバリーシステム(DDS)用材料を積極的に展開してきた。
 ここでは,その用途展開として細胞膜修飾剤(BAM)をとりあげる。
細胞膜修飾剤(BAM : Biocompatible Anchor for cell Membrane)をは細胞膜へのアンカーとして脂質オレイル基と、水溶性を高めるためのポリエチレングリコール(PEG)からなり、生理活性物質や材料表面に結合させるためPEG鎖末端に各種の反応性基を導入した構造を有している。BAMを用いることにより、細胞や組織にダメージを与えることなく、細胞や組織の表面を蛋白質や薬剤などの生理活性物質で修飾することや、細胞や組織を生きたまま各種材料表面に固定化することが可能となる。従来のコンセプトを超えた機能を持っており、医薬品だけでなく,化粧品分野で広い用途が期待される。 
 

 日本油脂のホームページ  http://www.nof.co.jp/business/dds/index.html



●イミュノフロンティア

ミュノフロンティアは三重大学医学部発の創薬バイオベンチャーで、がん・免疫分野での創薬、とりわけがんワクチンの開発を中心に事業展開している。がん抗原たんぱくを疎水化多糖類にくるんだナノ粒子がメインで、これを皮下に接種するだけで、多様なHLAタイプに対応でき、キラーT細胞・ヘルパーT細胞ともに活性化して特異抗体の産生も促進する、高機能・多価性がんワクチンとなる。三重大学を中心とするがんトランスレーショナルリサーチの成果に基づいて、2008年迄にグローバルな治験に着手し、2011年の承認申請を目指している。そのため、製薬企業との提携による共同開発が必須であると考えています。<BR>
イミュノフロンティアの癌たんぱくワクチン技術は、疎水化多糖類(CHP, Cholesteryl Hydrophobized Pullulan)の中に腫瘍抗原を包み込んだナノ粒子をワクチンとして投与するユニークなナノバイオ技術(WO98/09650, US6656481)に基づいている。腫瘍抗原の部分ペプチドではなく、たんぱく全体をそのままワクチンとしているために、多価性でありキラーT細胞だけでなくヘルパーT細胞も活性化するとともに、組織適合性抗原の多様性にも幅広く対応できる。                   http://www.immunofrontier.com

●ナノキャリア

ナノキャリアでは、東京女子医科大学教授の岡野光夫氏、東京大学大学院教授の片岡一則氏、神奈川科学技術アカデミー横山昌幸氏らが世界に先駆けて提唱した、ミセル化ナノ粒子と呼ばれる超微細な粒子製造技術を応用し、抗がん剤等の運搬体として用いるための研究並びに開発を進めている。このミセル化ナノ粒子は、親水性ポリマー(ポリエチレングリコール)と疎水性ポリマー(ポリアミノ酸誘導体)を分子レベルで結合させた両親媒性の性質を有するブロックコポリマー。これを水に分散させると、自発的に会合し、コア(内核)とシェル(外殻)を持った二層構造の粒子を形成することができる。
世界の最先端を行くナノテクノロジーと、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム=薬物送達システム)技術を融合させたものであり,ウィルスよりも更に小さいナノ粒子(20~100nm)の中に抗がん剤などの薬物を封入し、体内でより効果的に薬効を発揮させるための取り組みをしている。「抗がん剤といえば副作用があるもの」と半ば常識化している現状を打破する新しい医薬品の開発が目標という。    
 http://www.nanocarrier.co.jp



ビークル

ビークルは遺伝子、薬剤をピンポイント、高効率で細胞・組織内に導入する技術の実用化に取り組んでいる。ビークルの設立メンバーは、岡山大学大学院自然科学研究科(工学部生物機能工学科)、大阪大学産業科学研究所、神戸大学工学部応用化学科、慶応義塾大学医学部外科学教室の研究者。
 これまでの研究で、遺伝子、薬剤、タンパク質など生理活性物質を細胞・組織内にピンポイントで効率よく導入するために、生体認識分子を提示する中空バイオナノ粒子を大量につくり、それをベクター(物質運搬体)として用いて細胞へ導入する方法を開発している。
 ビークルのホームページ http://www.beacle.com/


●住友ベークライト 誰でもDNAアレイ

住友ベークライトは、高価な専用装置設備と特殊な試薬を使用することなく、何時でも何処でも誰でも簡単に遺伝子解析できるDNAアレイ実験キット「誰でもDNAアレイTM」を開発,その紹介を行っている。
 現状では、DNAアレイを用いた実験は、DNAマイクロアレイを作製するためのスポッター装置や共焦点レーザースキャナなどの専用の測定装置が必要であり、これらの装置はいずれも高価が故に、一研究室が気軽に実験に取り組める状況ではなく,更に、使用する標識物質(Cy3,Cy5)などの試薬類も高価であるために、従来型のDNAアレイは、遺伝子解析ツールとして汎用化しているとは言いがたかった。
 「誰でもDNAアレイTM」は、住友ベークライトが開発した生体反応に適した環境が付与されたプラスチック製次世代DNAアレイ用基板(S-Bio® PrimeSurface®)の基盤技術より開発され、無修飾オリゴDNAも固定化できる表面加工が施されており、固定化オリゴDNAのアミノ修飾費用(5,000円/プローブ)が削減できる。DNAの固定化は、ガイドグリッドが設けられた基板上でマイクロピペッターによる手作業(1μL程度滴下)で容易にできる。さらに、安価で安定な可視化色素の使用が可能となり、OAスキャナやデジタルカメラなどでDNAアレイ上のスポット濃度測定及びデータ保存が容易に可能という。
「誰でもDNAアレイTM」の適用範囲は、基礎生物学から遺伝子工学分野で汎用されるドットブロットハイブリダイゼーション法注などを応用した遺伝子解析用基本実験ツールとして使用できます。さらには、その操作性の簡便さから、大学や高校・中学の教材への展開が期待できることも注目される。


注)【ドットブロットハイブリダイゼーション】
ドットハイブリダイゼーション法は、従来、1本鎖化したDNA(PCR増幅産物)やRNAを直接ニトロセルロースメンブランフィルターなどにスポットして固定化したものに対する検出法。この方法によると、固定された検体中のDNAやRNAと、化学標識された合成DNAプローブとが、相互的にハイブリダイゼーションする事で、相補的な配列が検体中に存在するかどうかを検定するために行われる方法である。本手法は、多数の試料について迅速に判定することができる。   
 
http://www.sumibe.co.jp/sumilon/s-bio/index.html

<附.ブルーローズ  青い薔薇の秘密>

 遺伝子組み換えでどのようなことができるのかを目で見える形で示したのが,サントリーの開発した青いバラである。
花の色は、主に赤のシアニジン、オレンジ色のペラルゴニジン、青色のデルフィニジンという成分のうち、どの成分が合成されるかで概ね決ままる。バラには赤・オレンジ・ピンクなど様々な色があるが、これらの色は、シアニジンとペラルゴニジンに由来します。(黄色のバラはこれらとはまったく異なる化合物であるカロテノイドに由来)。一般的に赤いバラにはシアニジンが、オレンジ色のバラにはペラルゴニジンが主に含まれていr。デルフィニジンは、「リンドウ」や「キキョウ」など青色や紫色の花に含まれることが多いことから、青色色素とも呼ばれています。バラやカーネーションに「青い色」が存在しないのは、この青色色素・デルフィニジンが花弁に存在しないことが理由である。
どの色素が合成されるかは、その花で発現する遺伝子によって決まるが、バラにデルフィニジンがないのは、これを合成するために必要な青色遺伝子、フラボノイド3',5'水酸化酵素遺伝子と呼ばれているものが、バラには存在しないためだと考えられている。従って交配を繰り返しても青いバラはできないと言われてきた。
 サントリーでは、遺伝子組換え技術を用いて、この青色遺伝子をバラに導入することによって、花弁で青色色素をほぼ100%蓄積させることに成功し「青いバラ」が誕生したわけである。
会場では,一輪ずつバラを配布,多くの人が青いバラに実際にふれることができた。



青いバラに関するHP   http://www.suntory.co.jp/company/research/blue-rose/

取材,編集 八代啓一
                        


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