五輪霧中
(2018年4月号)

この「五輪霧中」という標題は何かで読んで、これは言い得て妙だと思い、暫く使わせて頂くこととする。
 17日間にわたる平昌冬季五輪は良くも()しくも政治が色濃く反映された五輪だった。
 混迷する東アジア情勢にどんな影響を与えるのか平和を願うバトンは東アジアで開催される東京に引き継がれる。
 今や世界各地で紛争が激化しテロの脅威にさらされ、また宗教への考え方や主義主張の違いから罪もない人々が毎日のように無差別に命を奪われている。 300万人を超す戦争犠牲者を出した20世紀の二度にわたる大戦に打ちのめされ、安定と共存を求めたはずの国際社会で再び国家のエゴが強まりつつある。
 米国のトランプ現象や英国の欧州連合離脱等の背後には、排他的な自国第一主義が見てとれる。 また政情不安の拡がるアフリカや中東諸国からの難民や国内避難民人口は、国境なき医師団の調べでは6,500万人を優に超えているという。

この原稿が活字になる1ヵ月後の4月中旬には、米国の鉄鋼制限等の報復として、世界で貿易戦争が始まり、世界情勢がどうなっているか予測不可能だが、 此の度の北朝鮮の眉唾物(まゆつばもの) の非核化や南シナ海における中国の行動や中台関係の悪化、常に漁夫の利を狙わんとするロシア等々、国際安全保障理事会による国際平和の理想は無に等しく、 現在の世界情勢は一触即発の感がある。
 平和の為に戦うという名目からは決して平和は訪れない。怨みは怨みによって果たされず、忍を程じてのみ怨みを解くことを得(法句経第五)。
 前に書いた記憶があるが、「願望」という言葉がある、私達が生きるということは、一つの願いをもって生きることであり、 その願いは人と人が殺し合うようなことだけは止めようという願いである。

文明は電灯のつくことでも、原子爆弾や核搭載型無人潜水艦を持つことではない。化学核兵器の技術的進歩はますます加速する。 自殺覚悟のテロリストが単独で小型核爆弾を持って劇場や教会で爆発させ、しかもその威力が広島や長崎より巨大だとしたら、 これは最早防衛不可能だ。そうなると、いずれ世界は破滅する、これは、お釈迦様のいう「末世」どころではない。
 文明とは、人を殺さぬことであり、戦争をしないということであり、相互に親しむことであり、相互に敬うことである。
 「世界平和」を御本尊とする世界唯一の宗教団体として誕生したはずのIOCは金儲け主義に徹している。 何故ならIOC委員は貴族的特権階級的個人的社交クラブの任意団体のため、法的規制は不可能でIOCはどのような国内法や国際法も規制できず、 その上現在のIOC委員115人のうちスポーツ関係者は僅か30人で委員の大半はヨルダンやデンマーク、イギリスなどの王子・王女(60.9%)が オリンピック・ムーブメント(行動活動)やIOC会長に対し責任を負わない人達で構成されているのだ。

今や1、100兆円の借金王国日本は消費税を先送りしなければならぬほど経済は疲弊し、更なる少子高齢化に向けて保険、 教育・福祉、介護、貧困格差に加えて契約を平気で破棄する自国オンリー主義の国際関係等予測不可能。
 このような情勢の下で利権の亡者達によって建設される総合競技場や選手村を始め各種競技施設等はその大半が負の遺産になることは疑問の余地がない。 現にリオのオリンピック諸施設のほとんどが負の遺産となっている。
 冬季オリンピックに札幌が名乗りを上げたが、最早ウィンタースポーツの本場、スイス・ドイッ・スウェーデン・ポーランド・ノルウェー等は 総て開催を辞退してしまった。

オリンピックは人々に感動を与え、莫大な富を失う世界的イベントとなっているのだ。
 いくら大衆向けのスポーツ種目を増やしても、IOCや米国等の巨大メディアが中間にいる限り大会でもたらされる些細な収入で 埋め合わせは不可能である。
 その上、今後の施設建築費用は資材の高騰、人手不足、期限付き工事等を口実に業者の言い値のまま、 しかも不渡りなしとあっては一部のゼネコンや政治家の思う壷、今度のリニアモーターカーがその良い例だ。
 今後どのくらい建設費用が増加するか想像できない。
 日銀レポート五輪の経済効果30兆円は、よく読むと希望的観測であって、取らぬ狸の皮算用もいいところ、 過去のオリンピックの利害関係企業のプロモーション(営業促進)向けに粉飾したものばかり。
 前回の東京オリンピックの開催のインフラ建設の財源として日本は世界銀行からの借入金返済に30年を要した苦い経験がある。

今回の東京オリンピックをどういう企画にするか、新国立競技場の費用問題が浮上した際には、責任者として決定したはずの人達は、 挙って「私は知らなかった」「自分は決定する立場になかった」と全員が言い逃れ、それを追求する方も同じ穴の絡、結局有耶無耶となってしまった。
 僅か17日間のスポーツイベントに何兆円掛かろうが、また大会後その施設が負の遺産になろうが誰も責任はとらない。後の祭りだ。
 今の日本で最優先すべきは東日本大震災や熊本地震の復興支援や地方創生である。
 全く先の見えない豊洲問題、首都圏直下型地震等の外、国際組織犯罪防止法は国連加盟187力国の大半が備わっているのに日本は無防備、 その為他国の犯罪を逃れて入国する外国人の流入の可能性が大である。
 又、最近ますます高度化するサイバー攻撃対策等正に五輪霧中の感が深い。

然るに国会の論議の中心は森友学園やリニアモーターカー談合問題ばかり(3月8日現在)。
 俚話(りわ)栄螺(さざえ)殼中(かくちゅう) に収縮して愉決安堵なりと思い、その安心の最中に忽ち殻外の喧嘩異常なるを聞き、窃かに頭を伸ばしてんや身は既にその殻と共に四方を窺えば、 ()計らんや身は既にその殻とともに魚市(うおいち)俎上(そじょう)に在りと言うことあり。国は人民の殻なり。その維持保護を忘却して可ならんや。
 それでは東京オリンピックをいかにすべきかについては次号以降に述べるつもりだが、東京オリンピックの閉会式では世界の難民の現状や、 曾ての戦争の悲惨さやアウシュビッツの惨劇を伝え、同じ人間同士がこの様な暴虐と蛮行を行い、非人道的な行為をすることが出来るということを 大スクリーンで是非流してオリンピックはこの様なことが二度と起きぬ為の「平和の祭典」であることを全世界の人々に知らしめて頂きたい。
 何故なら、現在第二次大戦を生で知っている人が激減しヴァーチャルと現実との境目が曖昧になっているからだ。

平成の最後の一年は何となく激動の年になりそうな予感がしてならない。
 せめて新しい年号が決定する迄、何とか平成の世がその読みの通り平静であってもらいたいし、 出来れば2020年の東京オリンピックの期間中だけでも世界中で戦いを中止するよう全世界の国々に嘆願すべきだ。
 そしてどうか復興五輪と銘打った関係上、被害を受けた現地の極一部の復興された映像や日本の御神楽・御神輿やお祭りの風景、 芸者、富士山、尻丸出しの男の太鼓叩きだけはスクリーンで流すのは止めてもらいたいと切に願っている。
                           以上