武士道精神の復活(名誉の掟)
(2015年11月号)

戦後70年、その70年の間に、世界地図から名前の消えた国が、ソビエト社会主義連邦やチェコスロバキア等、183を数えるという。
 赤字大国日本も、今や「日本病」となってしまった政治家や元政治家そして官僚達の「無責任病患者」に任せておくと、 気が付いたら日本という国が無くなっていた等ということにもなりかねない。
 先月号で私は5年後の東京オリンピックの弊害について書き、更にオリンピックの真の目的である「平和の祭典」から大きく逸脱した大会に (うつつ)をぬかしている場合ではないとも書いた。

そして今回は現在の日本の危機的状態について、ガックリくるようなデータを列挙し、その対策について書こうと思う。
1.日本の15歳以下の若年人口の比率(2013年)は13%で国際連盟加盟国193力国中最下位。
1.国の財政赤字は4、000億ドル(2013年)と米国に次いで世界第2位。
1.国内総生産あたりの長期債務残高の比率は250%で世界第1位、国家財政の破綻が懸念されているギリシヤは173%、 イタリアの132%を大幅に上回っており、今や危機的状況にあるというのに無責任病患者の政治家達は相変わらずの大盤振舞。
1.2010年まで31年連続で貿易黒字を維持してきた「貿易立国日本」も東日本大震災によって原子力発電所の停止を余儀なくされ、 円安によって高値となった火力発電所用の重油や天然ガスの輸入が急増し、2013年には一気に14兆円の貿易赤字に転落。
1.国家目標の観光立国も最近の円安に助けられて若干改善されたものの国際観光収入は(2011年)世界34位 国内総生産あたりの比率も0.25%で主要60力国中第59位。
1.英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「THE」によると、世界大学ランキングで東京大は昨年の23位から43位と なりアジア首位の座を明け渡し、京都大も大きく順位を下げ、東京工業大、大阪大、東北大は上位200校から姿を消した。

大学問題は別にして国際関係を阻害している要因として、日本はシンガポール、ロシアに次いで世界で5番目に費用のかかる国となっている。
1.集合住宅一室の賃料は世界第10位。
1.オフィスの単位面積当たりの賃料は世界第3位。
1.産業用電力の単価は世界第5位。
1.携帯電話の料金は世界第10位。
 以上、日本は今や生活するにしても、仕事をするにしても決して好条件の国ではないにも関わらず、安倍首相は3本の矢に次いで 今後日本を世界で最もビジネスのしやすい国にすると(のたまう)が、 その方策については何ら言及せず、言うは易く、行うは難しの感を否めない。

世界56ヵ国の競争力の強さを比較して発表しているスイスの経営開発研究所によると、1992年には日本は米国を抑えて堂々の世界第1位であったのに、 昨年は第17位にまで順位を下げ、その凋落ぶりは目を覆うばかり。
 その上、極端化する最近の気象はエルニーニョ現象による地球温暖化とマッデン・ジュリアン振動(MJO)がお互いに影響し合って、 大地震、大水害、大旱魃等、海と大気の大変動を引き起こし、小さな火山の島国・日本列島に襲いかかろうとしている。
 どうしてこのような危機的状況の国に成り下がったのか、東京大学の月尾名誉教授の最新刊「日本が世界地図から消滅しないための戦略」 によると、1970年頃から1990年にかけて社会を数百年単位で転換させる変化が起こった。それは経済中心が工業製品等を生産する産業から 情報やサービスを創造し流通させる産業へと移行した為で、残念ながら我が国はその変化への準備を怠り、適応に出遅れた為で、 その出遅れを回復する鍵は、かつて諸外国から劣等国として見下され、耐えがたき屈辱的扱いを潔しとせず、 明治維新を立派に成し遂げた原動力となった武士道の名誉を重んずる精神以外にないという。

新渡戸稲造の世界的名著「武士道」によれば、かつてヘンリー・ノーマン(英国の旅行家)は極東事情を研究し、さらに観察した後、 日本が他の東洋の専制諸国と異なる唯一の点は、「人類が考え出したことの中で、最も厳しく、最も高尚で、かつ厳密な『名誉の掟』が、 国民の間に支配的な影響力を及ぼしたことにある」と断言している。
 武士階級の栄光として登場した「武士道」は、やがて国民全体の憧れとなり、その精神となり、武士道精神を表す 「大和魂(日本人の魂)」は、ついにこの島国の民族精神を象徴する言葉となった事実を思い出してもらいたい。
 “敷島(しきしま)の大和心を 人()はば  朝日に匂ふ(にほ)山桜花”(本居官長)
 この朝日に匂う山桜の如き心を待った武士のイメージは、(1)決断力のある果敢な性格の持ち主、(2)責任感の強い正義漢、 (3)筋道を通す信念の人、(4)卑怯な振舞は断じて行わず、(5)恥を知り名誉を命より大切に思い、 (6)武士に二言なしと約束は死んでも守る者、等である。

日本が世界地図から消滅しないためには、先ず何よりも、この現代の日本人がまったく忘れ去っている「名誉の掟」を 今一度取り戻すことだと月尾名誉教授は締め括っている。
 然し、悲しいかな今の政治家や日本の将来を担うべき若者達に、この武士道の名誉を何よりも重んずる精神を植え付けるのは 至難の業のように思えてならない。
                           以 上