健康寿命
(2014年09月号)

今から38年前、不思議な縁で私は或る空調機器メーカーの社長の厚意により会社を設立し、そのメーカーの代理店となった。
 その関係で現在の日本設備工業新聞社発行の業界新聞に主にポンプに関する記事を書かせて頂くこともあり、自然と新聞社の人達とも親しくなった。
 そんな或る日、当時の新聞社の社長から新企画として月刊誌を出版するので、何か肩の凝らない記事を書いてみてはどうかという話になった。
 まったく自信はなかったが、とにかく私の拙文を読み流してほしいという意味で「馬耳東風」という題で書くことにしたが爾来二十数年、まさに 光陰矢のごとしの感を否めない。
 然し、毎月決まって何か一つのテーマを決めて書いた文章が不特定多数の人に読まれると思うと下手なことは書けず、一応頭を使うのでこんな良い ボケ防止はないと気付き、長年何も言わずに掲載して頂いている新聞社の方々に心から感謝している。

ところで今月号は、9月9日が酒に菊の花を浮かべて飲んで健康長寿を祝う「重陽の節句」であり、15日は「敬老の日」でもあるので、ボケ防止 や敬老、ひいては「健康寿命」について書こうと思う。一般的に「敬老の日」には若い者がお年寄りを敬う日ということになっているが、年を とった人がその老いを尊び、そして自分からも「よろこぶ日」でもある。
 「老い」というと、どうしても「老いさらばえ」というイメージが浮かんでくるが、「老い」には「秀でたもの」という意味もあり「長老」という熟 語は年齢に関係なく主に中年以上の人に使われるものだ。

人生経験者が自分からの老いを大事にすることによって物を見る目に幅が出来、深まりを会得する術を身につけようと努力し、少しでも心豊 かな充実した日々を送るよう常に心掛けることは決して無駄なことではない。
 然し、それにはどうしても健康でその上頭が常に正常に働く必要がある。
 要するに長寿を真に喜ぶ為には、身体と頭が健康であることが絶対条件だ
 当然のことだが年金や医療費が年々膨らむのは高齢化が進むからで社会保障改革が急がれるのは今後益々「平均寿命」が伸びるからだ。
 然し、健康上の理由で日常生活が制限されることのない「健康寿命」が伸びれば事態は変わる。
 高齢者の生活の質を高め、費用の増大を抑えることができる健康寿命の改善こそ全力で取り組むべきなのだ。
 日本人の平均寿命は男性80.21、女性86.61(平成25年厚生労働省調べ)に対し、健康寿命は男性70.42、女性73.62(平成22年)で健康寿命は世界で 最も長く、その上まだ年々延びる傾向にあるが、平均寿命はそれ以上に延びていくらしい。
 つまり平均寿命と健康寿命の差が年々拡大傾向にあるということは、介護や医療が必要な期間が延びていくということで、何としてもこの両寿命 の差を縮める必要があり、それには現役世代から生活習慣を改善する必要がある。
 健康寿命の最も長いのは男性が愛知県、女性は静岡県だという。それは個人的特性や気候の影響もあると思うが自治体の健康指導や生活習慣の改 善によって健康寿命の延びる余地はいくらでもあると思う。

然し、何といっても健康寿命を延ばすには個人個人が努力するのが一番で、そのことについて今から十数年前、広島のあるお寺の本堂の壁に、 面白い事を書いた額が幾つか掛かっていたのを思い出したのでご披露しよう。
○ボケない5ヵ条
 1.仲間がいて 気持ちの若い人
 2.人の世話をよくして 感謝のできる人
 3.ものをよく読み よく書く人
 4.よく笑い感動を忘れない人
 5.趣味の楽しみをもち 旅行の好きな人
○ええ年寄りになりなはれ
 ぼけたらあかん長生きしなはれ 泣きごとに人の陰口 ぐち言わず他人のことはほめなはれいつでもアホで居りなはれ 若い者には花もたせ  一歩さがっておることだ いずれお世話になる身なら いつも感謝を忘れずにどんな時でも へえおおきに お金の欲は捨てなはれ 生きるうち にはばらまいて 山ほど徳を積みなはれ 昔のことは忘れなはれ 自慢ばなしに わしらの時はなんて鼻もちならぬ 忌言葉(いみことば) わが子に孫に世間さま どなたからでも慕われる  ええ年寄りになりなはれ ボケたらあかん そのために 何か一つの趣味を持って せいぜい長生きしなはれや
○ボケない小唄
 1.風邪をひかずに 転ばずに
   笑い忘れず 良く喋り
   頭と足腰 使う人
   やる気ある人 ボケません
 2.スポーツ カラオケ 囲碁俳句
   趣味のある人 味もある
   異性に関心 持ちながら
   色気ある人 ボケません
 3.年をとっても 白髪でも
   頭禿げても まだ若い
   演歌 唄って アンコール
   生き甲斐ある人 ボケません
○ボケます小唄
 1.何もしないで ぼんやりと
   テレビばかりを 見ていると
   のんきのようでも 年をとり
   いつか知らずに ボケてゆく
 2.仲間がいなくて 一人だけ
   いつもすること ない人は
   夢も希望も 逃げてゆく
   年もとらずに ボケてゆく
 3.お酒も旅行も 嫌いです
   歌も踊りも 大嫌い
   お金とストレス 貯める人
   人の2倍も ボケてゆく
O人生は70より
 70歳にてお迎えあるときは今留守だと言え
 80歳にてお迎えあるときはまだまだ早いと言え
 90歳にてお迎えあるときはそう急がずともよいと言え
 100歳にてお迎えあるときは時機を見てこちらからボッボツ行く
   と言え。

昔、中国の()の国に天が崩れ太陽や月や星が落ちて来やしないかと心配になって、食欲もな くなり、夜も眠れなくなった人がいたという。
 天文学も万有引力も知らなかった時代のこと無理もないが、そういう無用の心配をして憂影になることを 「杞憂(きゆう)」という。
 健康寿命を延ばすには何事も「人間万事塞翁が馬」と達観することだ。

9月も半ばを過ぎると朝夕は何となく涼気を感じるようになるが、まだまだ暑い日もある。特に現役世代の方々は夏場の疲れが出たり、暑さの為に 消化器系統が弱って、とかく健康を害しやすい季節、健康管理には十分留意されて少しでも健康寿命を延ばすよう心掛けたいものだ。
                             以 上