私が所属している、社団法人・日本馬術連盟の下部組織には、いろいろな馬術関係の団体があるが、
その中の一つに日本社会人団体馬術連盟というのがある。
去年の暮、その団体から今年の3月に世田谷の馬事公苑で社会人の馬術大会を開催するので、そ
の会の終了後、約2時間ほど会員の人達に馬の話しをしてほしいという依頼があった。
今迄にも何回か馬術関係の団体では話しをさせて頂いたが、この社会人の団体は、どちらかとい
うと競技を目的とするのではなく、会員も会社に入ってから会社の馬術部に入うて趣味で乗馬を始
めた人が大半で、技術的な話しもいいが、むしろ乗馬を楽しんで明日の鋭気を養い、定年になって
からも心の支えになるような趣味を身につけて頂けるような話しをしたほうがいいと考えた。
そして咄嵯に、それには私の二人の友人が書いた本の内容を引用して話してみようと思い、引き
受ける事にした。
その一冊は日本ペンクラブの私の保証人になっている嘗てのNHKのアナウンサー、下重暁子さんが
「貴方にはあまり関係ないと思うけれど」と言って持ってきてくれた「不良老年のすす
め」という本である。
どういう意味で「関係ない」と言ったのか、貴方は
石部金吉
だから関係がないというのか、それとも貴方は不良老年を地で行っているからという意味なのか
どうかわからない。兎に角有り難く頂戴して読んでみると非常に面白く、事実、私もこ
れからは彼女の言うような人生を送ってみたいと思うようになった。
人生を折り返した時、ふと自分が様々なものに縛られていたことに気が付く、逃れたいと思いながら
諦めてきたことが何と多かったことか、これからは世間を忘れ、弧になり個に返って、恋をしたい。
権力や名誉ではなく、自由に自分らしく生きてみよう。
若い頃に憧れた粋で格好いい不良になるのだ!。突然訪れる死の瞬問まで、生を謳歌しようではな
いか。と彼女は言う。
男と女はいつまでも異性を愛する気持ちを失ってはいけない、要するに色気を失っては人間はお
しまいだと言うのだ。
会社の馬術部に入って馬に乗るのもいいが男は女を、女は男を意識しながち少しでも格好良い処
を見せようと出来る限りのお酒落をして馬に乗り、一緒に食事等すれば人生は楽しい。
唯、気をつけなければいけないのは、熟年になってから若い女性と結婚しその重圧(?)に堪え
かねて2~2年であっさりと人間を廃業した友人を私は何人も知っているから、その点だけは注意
する必要があると思っていたら、明治の元勲、外務大臣の陸奥宗光の孫の陸奥陽之助氏は92歳で63
歳の女性と正式に結婚し、やはりその翌年93歳で若い(?)新妻に看取られながら、目出たくあの
世に旅立ったと書いてあった。
彼の死後、遺産相続で家族間の揉め事が起こらなければ、こんな良い事はない。
そうかと思うと競馬気違いで106歳まで現役のバリバリで仕事をした国学者の
物集高量
氏は、炬燵の上に堆
く積まれた競馬新聞に、赤エンピツで印をつけながら、「忙しくて忙しくて死ぬ暇はありません」と
言いながら、たった一週間の入院で若い女性の看護婦さんのお尻を目で追いながら
極楽に行ったという。
この事は彼の死亡記事と同時に新聞の社会面にも掲載されたというから本当の事なのだろう。
そして新聞には「よかったなあ、彼は最後まで色気をなくしていなかった」と報じられたという。
男は女に恋心を、女は男に恋心を、恋心を持てる人は幸せだ。
日本では「老いらくの恋」等といって、どちらかというと老人の恋愛沙汰は醜いもの、みっとも
なく不純なものと受けとられがちだが、老いてこそ益々輝くべきなのだ。
会社勤めをしながら悟った乗馬の楽しさをどうか定年後も持ち続けてもらいたいと切に願う。
然し、定年後の楽しみは何も乗馬だけではない。人問は仕事以外に何か息抜きになるような別の楽
しみを見つける事が必要だ。
殊に仕事人間の日本の男性は定年後、何もする事がなくて一時
流行った「濡れ落ち葉」になりやすい。
以前も書いたことがあるが、或る生命保険会社の統計によると、
一.生まれ変って又同じ女房と一緒になりたい男 75%