早いもので今年もあと20日間を残すのみ。“歳月人を待たず”とは良く言ったもので月日の経つことの速さに
驚かされる。
“世の中に いまいう時はなかりけり まという時は いの時は去る”
かつてリスト系の有名なピアニストが、「5才の時の練習を25才の時にすることは出来ない、それは例えば
3度の食事をするようなものだ、朝食を抜いたからといって夕食を2食分食べればいいというわけにはいかない、
朝食は必ず朝の時に食べなければ身にならない、それと同じように毎日必ず2時間ピアノの練習はしなければ
ならない。今日2時間の練習を休んだから明日4時間やればいいというわけにはいかない、今日の2時間の練習を
休んだことは、永遠に取り返すことは出来ない」と常々生徒達に言っていたという。
私事で恐縮だが、私は来年の5月で満81才になる、今改めて自分の人生を振り返ってみて、いかに朝食を抜いて
きたことかと悔いるばかり、第4コーナーを過ぎ、200もきってしまった私の人生、遅蒔きながら最後の追い込み
で何とか悔いの残らない納得のいくゴールを切りたいものだと思う。
今更手遅れの感がしないでもないが然し村上専精という人が、何でも良いと思った事なら、それを10年やれ、
いや10年では少ない、20年やれ、20年やれば、たいがいの事は熟練してその道の達人になれると言って
「人間万事20年」という標語をつくった。
よく「継続は力なり」というが私も馬に乗り続けて70年、この「馬耳東風」も20年と8ヵ月書かせて頂いているが
未だにその道の達人には程遠い、何事も長くやればいいというものではない、スポーツもそうだが習い事という
ものは、下手な先生についたが最後、変な癖がついて、やればやるほど下手になって取り返しがつかないこと
になるものだ。
残り少ない私の人生、貝原益軒ではないが「老後は若き時より月日の早き事十倍なれば、一日を十日とし、
十日を百日、一ヶ月を一年とし喜楽して、あだに日を暮らすべからず、老後の一日も楽しまずして空しく過ごすは
おしむべし、老後の一日は千金にあたるべし」と言っている。
もう失敗は許されない、何とか最後の目標を定めて迷うことなく全力投球したいものだ。
馬の調教を長年やつてきて痛切に感じたことは、人馬にとって良いと思ったことは続けてやり通し、一事敢行から
一事慣行へ、一事慣行から一事貫行へと迷わずにやり遂げる事だ。途中で迷って方針を変更することは人馬に
とって最大の不幸となるという事を悟った。
どうせなら残された人生、自分なりに定めた目標に向かって敢行したいと思うのだが、何分にも俗人の悲しさ、
いろいろな煩悩が鎌首をもたげて私の決心を鈍らせる。
あと20日ほどで大晦日、泣いても笑ってもいや応なしに我々は除夜の鐘を聴く事となる。
仏教では除夜の鐘を「百八鐘」という。
百八の煩悩をたたき出すために(煩悩解脱)百八点をつくのだ。
それでは百八の煩悩とは一体何なのか、人間には、目、耳、鼻、舌、身、意という六根があってその六根に
それぞれ目=色、耳=声、鼻=香、舌=味、身=触、意=法の六識を生ずる器官があり、その六識が人間の心性を
汚す六つの塵
(六塵)
に接すると煩悩を生ずるとされていて、色・声・香・味・触・法にそれぞれ六塵がつくので六掛ける六で三十六の
煩悩が生まれ、それが過去・現在・未来の三世にわたっているから三十六煩悩の三倍すなわち百八煩悩
となるのだという。
そうかと思うと、この世(此岸)に住む私達人間の一生には、苦しみが満ちており、それらを分類すると
“四苦八苦”となり、その四苦・八苦は生・老・病・死の四苦と、
愛別離苦(愛する者との別れの苦しみ)、
怨憎会苦(怨み、憎む人と出会う苦しみ)、
求不得苦(求めるものが得られぬ苦しみ)、
五蘊盛苦
(色・愛・想・行・識の五藩による苦しみ)の四つの苦しみを足して四苦八苦と言うのだが、四掛ける九(四苦)、
イコール三十六、八掛ける九(八苦)、イコール七十二、で三十六と七十二を足すと108となるような
穿った説もある。
いずれにしても今年の大晦日には、じっくりと除夜の鐘を聴いて来年の目標に向かって迷うこと
なく邁進したいものだ。
因みに百八点の鐘のうち、百七点は旧年に、残りの一点は新年につくならわしで、最後の百八点めをつくのが
丁度元旦の零時となるわけで、仏教ではこれを旧年を送る最後の
宣命、新年を迎える最初の
警策という。
何故「警策」というのか知らないが私の知っている警策とは馬をいましめて疾行させる為の策(ムチ)のことか
又は馬を鞭うつ事で禅寺で座禅の時に惰気
や眠気を覚まさせる為に鞭うつのに使用する扁平な棒状の板の事は字は同じだが一般にはそれは「きょうざく」
と言っている。
いずれにしても元旦の零時に響く前後の鐘の音を聴きながら我と我が尻を鞭うって惰気を払い心
も新たに新年を迎えたいものだとつくづく思う。
以 上