三猿主義運動
(2001年11月号)

今年の6月、東京都は都内15才以上の男女3千人を対象として、青少年を取り巻く社会環境の世論調査を行った。
 残念なことに今の日本は愚劣で幼稚極まりない性や暴力表現がメデイアを通して国中にあふれかえり、いやでも青少年の目に触れる 仕組みになっていて、当然のことながらその調査結果は惨憺たるものがあった。

調査によれば、どのような媒体で問題があるかと聞いたところ、
 1.雑誌やコミック誌   79%
 1.テレビ、映画     76%
 1.ビデイオ       74%
 1.インターネット    69%
となっていて、これら媒体に対して何らかの規制を求める声も83%、又不健全図書の規制強化を求める声は89%にも達している。
 「馬耳東風」の誌面を借りて、私は雑誌やテレビ、映画等の性や暴力表現が青少年に与える悪影響について度々触れてきたつもりだが、 凶悪な少年犯罪がおきるたびに、これらの影響を指摘する声がおきるものの、国や関係省庁は何一つ具体策を立てようとはしていない。

やっと警察庁が、この9月21日、「21世紀を担う少年のために」と題して、偉そうに2001年版警察白書なるものを公表した。
 それによると、総人口に占める20才未満の割合は、50年の45.7%から昨年は20.6%に半滅しているにも関わらず、刑法犯の検挙者に占める 少年は、この50年間に23.5%から何と42.7%にも増加しているという。
 又、昨年の人口千人当たりの検挙者数(人口比)でみると、少年の刑法犯は成人の8.3倍に達し、「犯罪情勢に及ぼす少年事件の影響は 非常に大きいものがある」と、まるで他人事の如く発表している。
 更に、殺人や強盗、放火などの凶悪事件に限ってみると、昨年は2,120人で4年連続して2,000人を超える高水準となり、殺人や強盗殺人、 傷害致死の「人を死に至らしめる犯罪」の検挙少年は80年の72人を底に、昨年は201人となり、人を死に至らしめる犯罪の検挙者を人口比 で比較すると、少年が成人を上回っていると報じている。
 又、その動機についてみると、恐ろしいことに「金目当て」が88.4%で、そのうちr全然反省していない」が26.4%、「悪いことをした 意識がほとんどない」が11.5%で罪悪感のほとんどない者が37.9%もいると発表している。
 残念ながら新聞では以上の数字しか報道されておらず、これが何故「21世紀を担う少年のために」なのか理解に苦しむが、電車の中では 席も譲らず、足腰が衰えているのか電車の床にべったりと座り込み、背を丸めて傍若無人に携帯電話をかけまくる十代の老人達の、これが 現実の姿なのだ。
 重ねて云う、以上が東京都や警察庁が調査した結果なのだが、この結果を踏まえて、どのような対策を立てるというのか、目にあまる 暴走族一つ満足に取り締まることの出来ない警察にそれを期待するのが無理なのかもしれない。
 然し、「調査したら、こんな恐ろしい結果が出たよ」というだけで、教育制度を変えるのか、青少年といえども悪いやつは容赦なく 刑務所にぶち込み、殺人を犯したら年齢に関係なく速やかに死刑を宣告するのか、それはどうやら警察や国の権隈外のことらしい。

 16世紀、イギリスの財政家、グレシャムが、エリザベスー世に提案した有名な意見書に「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの 法則がある。
 これは、一旦質の悪い貨幣を世に出すと、人々は悪貨を支払いにあてて良貨は貯蔵するか地金として使用するようになり、良貨が市場 から姿を消してしまうというところから、悪人がはびこるところでは善人が住みにくくなるという喩えになっている。
 世の中が悪くなる時というものは、一夜にして悪が(はびこ) るものだが、その悪を除去するとなると、並々ならぬ努力と時間を要するものだ。
 選挙のことしか頭にない政治家や小役人どもに、この改革は不可能だと半ば諦めていたら、つい最近、何と 小躍(こおど) りしたくなる様な嬉しい 記事を発見した。

これは「馬耳東風」と聞き流す訳にはいかぬと、聞き耳ならぬ目を見開いて読んでみると、残念ながら、それは海の向こうのアメリ カの話し。
 アメリカのある大学で、最近「スリー・モンキーズ運動」という活動が学生間でおこり、それが一般の市民にも広がりつつあるという のだ。
 「スリー・モンキーズ」とは、言うまでもなく日光の東照宮の三猿、即ち「見ざる・聞かざる・言わざる」のあの三猿のことだが、 その三猿を(もじ) って「見せまい・聞かせまい・言わせまい」という運動なのだ。
 何を見せまいとしているのかというと、ポルノ・スワッピング・エルエスデーを筆頭に、138種類をあげて、彼等青年達は、 こう叫んでいるという。
 『糞にすがりついて生きているウジ虫ども!お前達が世の中にヘドロを垂れ流すことを「自由」だというならば、私達には当然それを 拒み、闘い、たたきつぶす自由があるはずだ、同志諸君!我々人間にとって百害あって一利なしの、これらウジ虫どもを、この街から 徹底的にたたき出そうではないか!』と。
 「三猿運動」万歳!
 日本にも誰か骨のある政治家の中に、「三猿党」を結成する勇気のあるヤツはいないものか。

前記の調査の数字が示すように、「三猿党」から立候補すれば当選は確実だと思うのだが、どうも当選したとたんに、「君子は豹変す」 とばかり、たちまち何でも「見せましょう・聞かせましょう・言わせましょう」の三猿党になってしまいそうな気がする。
                     (参考・雑誌「ナーム」9月号)