〔10〕『十大経済学者』中山伊知郎・東畑精一監訳、日本評論社、一九五二。

 歴史に名を残すほどの人物を評価し、論じることは誰にでもできるわけではない。許される人が偉大であれば、それにふさわしい人物がその仕事をするというのが原則である。シユンベーターは若い頃から多くの経済学者について論じており、それが今日われわれの眼で読み返したときに素晴らしい読み物として生き返るのも、こうした評伝のルールが守られているからである。
 本書は、シユンベーターが死の直前に自ら選んだ人びと、すなわちワルラス、メンガー、マーシャル、バレー
ト、ベーム・バベルク、タウシツグ、フィッシヤー、ミッチェルそしてケインズと、死後シユンベーター夫人が加えたマルクス、および付録としてクナップ、ヴィーザー、ボルトキヴィツツの二名を含む一三名からなるものである。このうちマルクスを除いて、彼は生涯において少なくとも一度は直接に出会った人びと、そして多くは長期間にわたって親交を結び、彼の学問のみならず生活の上でも影響を受けた経済学の先人たちを敬愛を込めて論じている。それが時として芸術的な香りすら匂わせるのは、単なる歴史上の人物の客観的論評ではないからである。
 邦訳書は、本書で論じられている13名について、それぞれ同じ領域を専門とする経済学者を動員して日本語に移されたものであり、そのうえ原著にはない各経済学者の写真を挿入するなどして、シユンベーターの著書にふさわしいものとなっている。
現代の経済学は、ここにとりあげられている人物の誰一人を欠いてもその全容を現しえないと言っても過言ではない。構築された各々の経済理論の体系の背後において、それを築いた人物の人間性を知ることは、経済学を学ぶわれわれの楽しみのひとつである。そして若き学徒は経済学の勉強を、ここから始めることもできるのである。