〔9〕『社会科学の過去と未来』玉野井芳郎監修、谷嶋喬四郎・佐瀬昌盛・中村友太郎・島岡光l訳、ダイヤモンド社、一九七一。
本書は一九七〇年代の初頭に、近代経済学と呼ばれていた従来の主流派経済学が、妄において理論の精緻化をすすめ、したがって他方において現実とめかかわりを希薄化し、その結果「経済学の危機」を招き、軌道の修正が叫ばれ始めた時に、経済学の総点検の必要を感じ、そこからいわば必然的に生み出された成果とでもいうべき書物である。
内容的には、最初に玉野井芳郎の論文「シユムベーターの今日的意味」が収められ、その後にシユンベーターの三つの論文が訳出されている。第一章は「社会科学の過去と未来」と題するものであり、1915年に発表された社会科学についての彼の基本的構想を示す論文である。そこでは社会科学とは何か、それの過去はいかなるものであつたか、そして将来へ向けての発展はどのようなものと予想されるかを主題として展開されている。
第二は「国民経済の全体像」(1912)である。この論文は最初『経済発展の理論」の初版の最終章に置かれていたものであるが、第二版で削除され、今日まで陽の目を見ることのなかった貴重な文献といえる。これは″文化社会学についての断片”とシユンベーター自身が述べていることからも明らかなように、今日の経済学に対する批判論文であり、われわれの求める方向が明示されており、必読の論文であるといえる。
第三は「シユモラーと今日の諸問題」(1926)である。メンガーとの方法論争において不利な立場に立った
シユモラーをシユンベーターは独自の立場から再評価し、社会過程に関する本格的な知識がシユモラーの方法によって初めて可能であると断じ、社会科学とりわけ経済学における歴史研究の重要性を指摘した論文である。
シユンベーターの初期の重な論文が収録されている本書の熟読は、シユンベーター研究のみならず、現代の経済学を考えるためにも不可欠の文献である