7.帝国主義と社会階級   都留重人訳、岩波書店、1956

 P・M・スウイージーの編集のもとに、H・ノールデンがシュンペーターの二つのドイツ語の論文を英訳し、一冊の単行本として出版された。
第一の論文「帝国主義論」は一九一九年に、第二の論文「社会階級論」は一九二七年に発表されている。
シユンベーターが帝国主義論を書いた二十世紀の前半は、帝国主義論といえば、ほとんどの場合マルキストやネオマルキストの専売であり、非マルキストの側からの帝国主義論には見るべきものはなかったと言っても過言ではない。このような状況の中で、シユンベーターが帝国主義論を問題にしようとするとき、議論の対象となるのは必然的にマルクス派の理論であった。
 彼は学生時代からオーストリアのネオマルキストたちと机を並べて勉強しており、同時に彼の対決すべき真の相手はマルクスであったことから、帝国主義論はどうしても避けて通ることのできない問題であった。シユンベーターはマルクス派の資本主義即帝国主義という理論に対して、帝国主義は資本主義においてのみ存在するのではなく、それは古代から今日にいたるまで、いずれの社会形態にも存在するものであるという認識を示している。
 つまりシユンベーターの帝国主義論は、最も広い意味、一般的な意味における帝国主義についての本質を明らかにすることにその目的があり、それがどのような形態をもち、いかなる原因により生じるかを明らかにしようとするものである。そして結論的に言えば、純粋な資本主義は、その本質において非帝国主義的であり、マルクス主義者の言うように帝国主義に傾く必然性はもっていないということである。
 同じ論理は社会階級論にもみられる。つまりマルキストは社会階級を、資本主義において労資の対立という視点でとらえるが、決してそれで十分に階級の問題は論じ尽くされるものではないとして、ここでも長い歴史の旅を続け、マルクス流の階級論を向こうにまわして自説を構築していくのである。そしてシユンベーターに特有な「共生の理論」は、単に階級理論だけでなく、それを超えて社会科学における歴史理論のひとつの型を示すものとして、今日次第に注目を集め始めているのである。さらに彼の階級理論は、個々人の能力を重視する立場であり、これは企業者理論とも結びつき、その意味でシュンペーターの社会階級論は、資本主義の発生と成長を説明する理論でもある。『帝国主義と社会階級』は、かくして彼の歴史についての基本的な立場を示すものであり、その意味からも、本書は、シュンペーター体系に不可欠のものと言える。