2.『経済発展の理論』塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳、岩波文庫1977年

シュンペーター主な著書と解説

の作品である。本書は出版早々大きな反響を呼ぎし、国境を越えて多くの人びとの評価の対象となつた。と
ころが、この書物が従来の経済学の枠を超えたまったく新しい経済学であったために、誤解や曲解をも招き、ついにそれに応えるべく、1926年に大改訂を断行した。
 それは、初版の最終章である「国民経済の全体像」をそつくり切り離してしまうというもので、これによって
シユンペーターは、彼の真意を読者に誤りなく伝えうると確信した。そして彼は日本語訳をはじめとする各国語
への翻訳は、すべてこの第二版によるよう指示しているのである。
本書の副題は「企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究となつているが、ここにシユ
ンベーターの意図が示されているとみられる。彼はオーストリア学派の第三世代として経済学の基礎訓練を受け、同時にレオン・ワルラスを発見し、その方法と体系に対してかぎりない尊敬の念をいだくのであるが、やがてそのような純粋理論の限界を知り、それを乗り越えて、生きている現実の資本主義をいかに把握し説明し、その本質はいかなるものであるかを問い、ついに『経済発展の理論』に至ったのである。
初版の序文において、彼は処女作である『理論経済学の本質と主要内容』とは別の独立した一冊として本書を
書いたと記しているが、それはシュンペーターの本来の目的である資本主義経済の分析を試みるものであり、いわばこの両者は静態と動態の関係にある。このようなことからシユンペーターの体系は二元論であると言われるのである。
第一章は『理論経済学の本質と主要内容』のエッセンスを要約した形となつており、第二章からが動態論の展
開ということになる。そこでは資本主義に特有な資本、利潤、利子、信用そして当然の帰結としての景気変が
取り上げられ、それらを育て説明するものとして「企業者」が導入されている。シユンペーターといえばシユンベーターといえば「企業者」、「新結合」ないし「イノベーション」といった言葉を誰でもが想起するように、シユンベーターをシユンベーターたらしめているのは、まさしく本書にある。
『経済発展の理論』は、単なる過去の理論の蓄積やそれの1にさらに理論を展開するといった立場でなく、い
わばベルクソン流の「直観」をもって現実の中に飛び込み、そこから対象となるものの本質をつかみ出すという、わずかな人にのみ与えられた天賦の才をもって初めて著しうるものである。およそこの著作が、旧来の経済学の書物とは異なり、シユンベーターの代表作といわれるゆえんはこの点にある。
我々は、本書への読書案内として、中山伊知郎の遺稿ともなった邦訳書巻末の「解説」を是非とも熟読すべき
である。

早熟の天才とうたわれ、生涯一度として初心者であることがなかったと言われたシュンペーター28歳の時