被告第5準備書面

以下は、2003年11月1日に被告側代理人より提出された準備書面である。


1. ある成書によれば、胸部X線上の右肺動脈下行枝の正常幅は16mm以下とされている。平成10年12月15日初診日の胸部X線上、右肺動脈下行枝の幅は16mmである。すなわち、正常の範囲内である。
 この点、原告らは、正常は15mm以下であり、それを超える場合には肺高血圧症であると主張しているが、この主張を具体的に裏付ける文献は提出されていない。
 また、甲B第14号証の1項には、「明らかに右肺動脈下行枝の拡大がみられ」と記載されているが、その幅と正常幅がそれぞれいからなのかの記載がない。「明らかに…拡大」というならば、正常幅がいくらで、本件幅がいくらであるから、と明記する必要がある。

なお、被告はすでに主張しているが、胸部X線写真の読影に関しては「肺血管陰影の読みは影響する因子の多様性などから必ずしも容易でない。…殊に微妙な境界線上の変化になると一層困難さが増すわけである。」、とされている。

2. 肺性P波(右房負荷)の一般的な診断基準は、II、III、aVf、V1,2などのの誘導でP波高が0.25V以上とされている。しかし、平成10年12月15日の初診時の心電図では、II、aVfの誘導でかろうじて0.25mVである。

 また、初診時と救急外来受診時(平成10年12月26日)の心電図を比較すると、V3,4における2相性T波、V4,5のS波増高などの変化が指摘されている。しかし、胸部誘導の波形は電極位置によって大きく異なり、また再現性に優れた四肢誘導、軸偏位等の変化がみられないことより、救急外来受診時までの期間に病態の大きな変化はないと考えられる。

 平成11年6月29日の心電図においては、それまでみられなかった右軸偏位がみられており、同日実施した心エコーにおいても右心拡大を認めた。このため、平成10年12月26日から平成11年6月29日までの期間に肺高血圧および右心不全の増悪が生じたものと考えられる。

3. 平成10年12月15日、胸部X線上の肺動脈の幅は正常上限であり、また心電図のP波の診断にかろうじて該当するものである。しかし、そのときの主訴は、動悸、頻脈であり、肺高血圧を積極的に示唆するものではない。したがって、この段階で右心不全の存在は否定的と考えられる。

4. 近年、肺高血圧症に対するプロスタサイクリン持続静注の臨床効果が注目されている。プロスタサイクリンは肺小動脈平滑筋の収縮(機能的障害)を解除し、肺動脈圧の低下をもたらす。
 したがって、末梢肺小動脈の多発性血栓性閉塞(器質的障害)を主病態とした本件においては、プロスタサイクリン持続静注などの肺血管拡張療法の効果は期待できない。
 また、肺高血圧症の予後は病因によって大きく異なり、器質的障害による場合の予後は著しく不良である。

 右心不全は肺高血圧症の予後規定因子であるが、心不全治療は肺高血圧自体の治療ではなく対症的なものである。このため、肺高血圧症の病因が除去できない場合は、あらゆる心不全治療に抵抗性を示す場合が多い。

5. 原告らはβ遮断薬の投与により亡E子は死亡したと主張しているようである。しかし、その因果関係の主張は医学的に到底認められないところである。この点、甲B14号証も認めていないところである。
 被告は原告らに対し、因果関係について医学的根拠を踏まえて主張されるよう強く求めるところである。


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