犬夜叉とかごめ】−2人の名場面が詰まった恋の傑作選!−について

 コミックス最終第56巻と同時に発売された894頁の冊子。背表紙6.5cm以上。(以下【犬かご傑作選】と略します。)また例によって商学館さんのソツのない活動か(失礼^^;)、ふっ、こんなみえすいた罠にこの私が引っかかるとでも思っているのか…アレー?なぜ今手元にあるんだろう?

 一人ツッコミはさておいて(^^;)この【犬かご傑作選】、コミックスを全巻揃えているファンならいつでも読めるものの再収録にすぎないので深い意味はないと考えたのですが、ところがところがそのチョイスが、選択が。
 いやもう二重三重の意味で痛快でした。やってくれます少年サンデー編集部。

 高橋先生の特別書下ろしがあったわけじゃないのに、明確に原作者の意図を感じるのです。それは何か。以下に語ります。

.「原作者が誰よりも犬夜叉とかごめと桔梗を愛していた

 【犬かご傑作選】894頁の内容は、以下の全48話分の再収録でした。

第67話(コミックス第7巻第9話)「ふたつの時」
第68話(コミックス第7巻第10話)「破られた結界」
第69話(コミックス第8巻第1話)「気配」
第70話(コミックス第8巻第2話)「再会」
第71話(コミックス第8巻第3話)「奈落」
第72話(コミックス第8巻第4話)「目印」
第73話(コミックス第8巻第5話)「死魂」
第74話(コミックス第8巻第6話)「救われぬ魂」
第75話(コミックス第8巻第7話)「桔梗の結界」
第76話(コミックス第8巻第8話)「死の匂い」
第77話(コミックス第8巻第9話)「かごめの声」
第78話(コミックス第8巻第10話)「やさしい匂い」

第134話(コミックス第14巻第6話)「狼の洞窟」
第135話(コミックス第14巻第7話)「極楽鳥」
第136話(コミックス第14巻第8話)「三つ巴の戦い」
第137話(コミックス第14巻第9話)「強い男」
第138話(コミックス第14巻第10話)「逃がした理由」
第139話(コミックス第15巻第1話)「二人の気持ち」
第140話(コミックス第15巻第2話)「井戸の向こう」

第171話(コミックス第18巻第3話)「桔梗の危機」
第172話(コミックス第18巻第4話)「鬼蜘蛛の心」
第173話(コミックス第18巻第5話)「嫉妬」
第174話(コミックス第18巻第6話)「土の結界」
第175話(コミックス第18巻第7話)「出会った場所」
第176話(コミックス第18巻第8話)「かごめの心」

第282話(コミックス第29巻第4話)「桔梗の命」
第283話(コミックス第29巻第5話)「犬夜叉の本心」
第284話(コミックス第29巻第6話)「心の闇」
第285話(コミックス第29巻第7話)「暗示」
第286話(コミックス第29巻第8話)「捨てた心」

第452話(コミックス第46巻第4話)「蜘蛛の糸」
第453話(コミックス第46巻第5話)「絡みつく糸」
第454話(コミックス第46巻第6話)「糸の向こう」
第455話(コミックス第46巻第7話)「切れた弦」
第456話(コミックス第46巻第8話)「梓山」
第457話(コミックス第46巻第9話)「梓山の精霊」
第458話(コミックス第46巻第10話)「桔梗の幻」
第459話(コミックス第47巻第1話)「絡め捕られた仲間」
第460話(コミックス第47巻第2話)「流れ込む心」
第461話(コミックス第47巻第3話)「開かれた体」
第462話(コミックス第47巻第4話)「玉の行方」
第463話(コミックス第47巻第5話)「浄化の矢」
第464話(コミックス第47巻第6話)「落日」
第465話(コミックス第47巻第7話)「光」

第472話(コミックス第48巻第4話)「花皇」
第473話(コミックス第48巻第5話)「血の涙」
第474話(コミックス第48巻第6話)「傷ついた心」

第494話(コミックス第50巻第6話)「ふたつの世界」

 ストーリー的に簡単に解説すると、
@「一度現代に追い返されたかごめが犬夜叉と再会し、奈落が初めて彼らの前に姿を現し、復活した桔梗が犬夜叉と心中を図ってかごめがそれを阻止したエピソード」
A「鋼牙とかごめと犬夜叉との間で新たな三角関係が発生し、鋼牙を逃がしたかごめに怒った犬夜叉とのケンカと仲直りまでのエピソード」
B「桔梗を助けた犬夜叉が想いを告げ、それを見たかごめが現代に逃げ帰るも犬夜叉への想いを自覚して彼のそばにいることを決意するエピソード」
C「奈落によって瀕死にされた桔梗を捜す犬夜叉と、その隙に心の闇を狙った赤子の暗示をかごめがはね返すエピソード」
D「蜘蛛の糸で桔梗とかごめの霊力を奪った奈落との戦いと、犬夜叉の腕の中で桔梗が天に還るエピソード」
E「哀しみを喰らう妖怪・花皇に犬夜叉とかごめが激怒して退治するエピソード」
F「戦国と現代の狭間で悩むものの、一緒にいるというかごめの手を握って命懸けで守ると誓う犬夜叉の場面」
ということになります。

 私はこの【犬かご傑作選】のことを知った際、普通に考えれば「犬かごの名場面」ということで「出逢い編(「さわってみたい」)」や「知念児編(「おれの居場所だ」)」や「蛾天丸編(「わかってるから…」)」や「琥珀編(「ごめんな。痛かったろ」)」や第56巻のクライマックス編を思い浮かべていたのですが、この@〜Fのチョイスには正直唸らされました。Aを除いて全部「桔梗絡みのエピソード」だったからです。

 つまり、コミックス最終巻と同時発売されたベストセレクション【犬かご傑作選】でこれらのエピソードが再収録されたというのは、原作者である高橋先生自身が「犬かごの恋路を桔梗抜きに語ることはできない」と意思表示なさったもののように思えるのですよ。
 そして同時に、誰よりも原作者自身がこの三人を愛していたのだと痛感させられるのです。

.「アニメと原作は全然違う

 またソレか、と苦笑する閲覧者の方もいらっしゃいましょうが(^^;)、「原作とアニメについて」の「1.原作ならではのシーン」で「これらの頁とコマをそっくり取り去ってしまえば、おそらく『犬夜叉』という漫画作品のイメージは相当変わってしまう」と私がピックアップした6場面の内3場面が、この【犬かご傑作選】で再収録されていました。
 『かごめにそばにいてほしい』も『おまえの笑顔が好きだ』も『そばにいてあげるわよ』も『おまえ以外の男には髪の毛一筋も触れさせはしない』も、カットされたり改竄されることなく(そりゃ原作なんだから当然ですが^^;)再び強調されたわけです。
 CまではTV版アニメでも一通り描かれましたが、D以降はアニメ終了後に少年サンデーで掲載されたこともあってアニメ化されていません(されなくてよかった、と正直感じてますが)。

 これは4年以上前に放映終了したアニメへの「静かなる抗議」に思えます。【犬かご傑作選】を手に取ることで、改めて「アニメとは全然違う原作」を見直してくれる一般人が少しでも増えてくれることを祈りたいですね。増刷してくれ商学…いや、小学館!

.「ネット界の犬かご贔屓の暴走が原作者を苦しめていたのではないか

 私自身の【犬夜叉】への想いをこうして自分でHPを作るまでに高めてくれた犬ネット界をけなすのは気がひけるのですが、明らかに一時期のネット界における「犬かご贔屓」のサイトやそれを取り巻く一部の人々は暴走していました。
 プロトタイプ化された「桔梗は邪魔者」「かごめは菩薩」「二股犬夜叉はケシカラン」思考で延々と繰り返される愚痴と非難とマイナスのリアクション。ネット界で知り合った知人の方々には、毎週毎週空きもせずに繰り返されるその光景を哀しみ、【犬夜叉】という作品への好意そのものまで弱められてしまうという辛さを訴える人も数名いらっしゃいました。
 アニメの影響なのかネットの影響なのか、おそらく少年サンデー編集部に「ファンレターと称して送りつけられるネガティブリアクション」がかなりの数に上っていたのではないでしょうか。

 談話サロン第1回で私は明都氏と一緒にそうしたネット界を猛批判して相応の友人を失いました(というより私の方から一方的に絶縁した、が正確^^;)が、やはり誰よりも哀しみ、苦しんでいたのは原作者である高橋先生だったと思えるのです。

 Dのエピソードでかごめは梓山の精霊から桔梗を救うための弓を受け取るのですが、それを持ち帰る先で試練に遭遇します。あの時かごめの心を「偽善だ」として上からけなした「蜘蛛の糸でできたニセ桔梗が喋った言葉こそ、連載中に散々原作者のもとにファンレターと称して送りつけられていたネガティブリアクションだったのではないでしょうか。
 【犬夜叉】という作品を「かごめが彼と出会ってから結婚するまでの物語」と位置づければ、まさしく「桔梗抜きでは語れない」物語だったわけです。

 【犬かご傑作選】という名の冊子に「二度の犬桔のキスシーン」が再録されているところにも、私は「ネット界で暴走していた犬かご贔屓層はこの作品をド派手に誤読していたにすぎない」ことが暗示されていると感じています。

 桔梗と犬夜叉とかごめの三人は「誰も悪くない」関係でした。だからこそ多数の読者が涙し、【犬夜叉】という作品を絶賛して支持したのです。
 もちろん【犬夜叉】は単に恋愛物語「だけ」の作品ではなく、他の側面でも名作たる要素をわんさか持っている大傑作ですが、原作完結後8ヶ月、アニメ放映終了後4年5ヶ月の今、これだけぶ厚いセレクション再録本で恋愛部分をチョイスして世間に再度示した編集部の英断に拍手を贈りたい心境です。

 アニメ犬夜叉や犬ネット界に幻滅して誤解していた人達は、ぜひ一度この【犬かご傑作選】に目を通し、本物の原作【犬夜叉】の価値に気付いてほしいと思います。
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