【『犬夜叉』への想い】

 週刊少年サンデーで平成8年から平成20年まで連載された『犬夜叉』は、高橋氏のファン歴20年で、もう中年の私が、毎週気になってやまない作品でした。第47回小学館漫画賞を受賞した時の原作者のコメントでは「物語はまだ半ば」でしたが、コミックス巻数でいえば『うる星』の34,『らんま』の38をはるかに越え、「らんまを越えることはない」と本人が語ったという話はどこへやら、実に12年連載が続きました。

 この作品が、高橋氏の過去の長期連載『うる星』『めぞん』『らんま』と異なる特徴は、
1.主な舞台設定を戦国時代に設けたこと
2.主人公の抱える過去が極めて過酷であること
3.ストーリーの底流に、人間の嫉妬・憎悪・慈悲・愛情・孤独感等の様々な要素が盛り込まれていること
が挙げられます。

 ギャグ・コメディーで名を上げた氏がかつて『人魚の森』シリーズで伝奇的シリアス路線の境地を切り開いた時、「生と死」のテーマを様々な角度から追求しようとした試みがなされています。
 『犬夜叉』では主人公・犬夜叉とヒロイン・日暮かごめの出逢いからケンカ相手→冒険の相方→大切な存在への進展が緩やかに描かれ、もう一人のヒロインである桔梗が復活するに及んで、生死に絡む恋物語が展開されます。
 四魂の玉という、人間と妖怪の死闘が生み出した正邪双方のエネルギーを増幅させるアイテムが、かけらレベルで様々なキャラクターの生き様を引き出します。
 世界観そのものは決して壮大なものではありませんが、多彩なキャラクターそれぞれに複雑かつ深遠な境遇があり、前作『らんま1/2』からコメディー的要素を節々に引き継ぎながらも、『人魚の森』のシリアス路線をメインとして構成される物語が独特な雰囲気を醸し出しています。

 この作品は色々な側面から読むことができます。
「四魂の玉をめぐる冒険活劇」
「妖怪が多数登場する伝奇物語」
「生い立ちと血筋の特殊性から葛藤を抱える主人公の成長史」
「時空を越えるヒロインのSF冒険ファンタジー」
「愛憎の渦巻く人間関係が生み出すラブストーリー」
…いずれも該当します。コミックス単行本は第55巻まで発行、平成12年10月からTVアニメ化、平成13年冬には映画化、結局映画は第四作目まで公開されました。連載は平成20年6月に最終回を迎え、まもなくコミックス最終第56巻が発売されます。
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