【別室・イチロー選手の凄さ!】

 ここは私が熱心に興味を持っている現メジャーリーグ・シアトルマリナーズのイチロー選手(本名・鈴木一朗)の凄さについて語る別室です。野球には興味がない、わからないという方は無視してくださいませ(^_^;)。

一流打者の条件

 一流の打撃技術とは、何をもって評価されるのでしょうか。一般的によく聞く指標を列挙してみますと、
・打率が3割以上である
・ホームランが多い
・打点が多い
・長打(二塁打、三塁打)が多い
・三振が少ない
・フォアボールやデッドボールが多い

 つまり「コンスタントにヒットが打てて」「ホームランも頻繁に打てて」「打点もよく稼ぎ」「二塁打や三塁打も多くて」「三振は少なくて」「選球眼が良くて」「投手に‘打たれる’という恐怖感を与えるからフォアボールやデッドボールも増える」ということですが、当然ながらこれらをすべて満たすようなスーパー打者なんて、めったにいません。

 それに一番重要なことは「ある特定のシーズン(1年…正確には公式戦開催中の6ヶ月間)だけ絶好調だった」ような選手なら大勢いますが、「現役時代の通算成績」となるとほとんどの選手が大きく率を下げてしまうものです。若手時代の下積みが長かったり、晩年の衰えとかがあるからですね。

 そこで「現役時代の通算成績」に着目して、独自に7つの指標を定義してみました。

打者の通算成績7指標

 打者の通算成績において、7つの「一流たる指標」を定義します。前提条件は「100試合以上に出場して、1試合当り3.1打席以上(規定打席。つまりチームのレギュラーを意味する)」です。

 現役で通算1000試合以上出場しているベテラン選手と100試合ちょっとの新人選手を同じ土俵で比べるのは不適切ともいえますが(^^;)、なにしろ「助っ人」として日本に来て一年でクビになる外国人選手だってどっさりいますから、一応1年のシーズンで140試合が公式戦になっている現在、まあ100試合以上に出場していれば評価対象にしてもいいだろうという考え方です。

 なお「打数」というのは「打席数からフォアボール数、デッドボール数、送りバント成功数、犠牲フライ(これは三塁ランナーがホームインした場合のみ)数を差し引いた残りの数字です。世間で言われる「打率」というのは、ヒット(当然二塁打、三塁打、ホームランを含む)の数を「打数」で割った数字です。

 「打点」とは、その打者の打撃の結果でホームインした走者の数を指します。ホームランなら打者自身も走者としてその数に入ります。いわゆる「タイムリーヒット」ではなくても、犠牲フライになって三塁ランナーがホームインしたり、内野ゴロになって打者自身や他のランナーがアウトになっても三塁ランナーがホームインすれば「打点」になります。またいわゆる「スクイズバント」が成功しても「打点」で、この場合は同時に送りバント成功(犠打)になります。

 三振やフライでアウトになると、ランナーが次の塁に進めません。野球とは「一人でも多くのランナーを次の塁に進め、ホームインさせた数の多いチームが勝つ」球技なのですから、いくらホームランを多く打っていても、三振が多すぎる打者は減点だと私は思うのです。

指標 「打率3割以上
 言わずと知れたスタンダード指標です。野球を見始めてまもない人なら「3割バッターは一流の凄い選手なんだ」という感覚が最初に身につきます。現役の通算打率で3割を越えている選手はそうそういません。

指標 「出場1試合当り1.0安打以上
 一流打者の勲章です。どんな凄いバッターでも「ノーヒット」に終わる試合も多くあるのです。だから出場試合数よりもヒットの数が多いということは、大変なことなんですね。

指標 「出場1試合当り0.5打点以上
 野球ではランナーが二塁又は三塁にいる状態を「得点圏」と表現します。つまりヒットが出たらランナーがホームへ戻ってこれる位置ということですね。一流の打者はこういう得点機会での勝負強さが際立っていますから、2試合で1打点を稼いでいるのは凄いことなのです。

指標 「二三塁打率0.15以上(二塁打×2+三塁打×3を本塁打を除いた打数で除す)」
 打球が野手の間を抜けたら、バッターは一塁に向かって走りながらボールの行方を判断して次の塁を狙います。つまり単に強い打球を遠くに飛ばすだけではなくて、判断力と俊敏性、走塁能力も表れるわけですね。ある意味、ホームランだけ多い打者よりも、二塁打や三塁打が多い打者の方が能力が高いと私は考えます。だからホームラン以外の長打で進んだ塁の数を、ホームラン以外の打数で割ってみるわけです。3割バッターのヒットの内半分近くが普通のヒット(単打)とホームランだとすると、この数字が0.15以上なら凄い打者だということになるのです。

指標 「安打数が三振数の2.0倍以上
 遠くに打球を飛ばすためには、バットを強く振らなければなりません。従って当然空振りも多くなります。だから普通はボールカウントが2ストライクになると、「当てにいく」ことが多いのですが、それでも強振して三振が増える打者も多くいます。私は三振が多い打者よりもヒットが多い打者の方が格上だと考えます。だから三振数の2倍以上のヒットを打っている打者は凄いと考えるのです。

指標 「本塁打数が三振数の0.3倍以上
 第5指標と考え方は同じですが、ホームランが多い打者は当然大振りするわけですから普通は三振も非常に多いものです。しかし10回三振したら3回はホームランを打つ、ということは、3回三振したら1回はホームランを打つことになるので、普通は1試合で4打席回るとして、3打席目まで3三振でも4打席目はやられるかもしれないという雰囲気を持つ打者なわけです。ちょっと極端な例えですが(^^;)、ともかく三振数の0.3倍以上ホームランを打っている打者は、ホームランを打つ能力も十分ある凄い打者なのです。

指標 「1打席当たり四死球数が0.1回以上
 投手からすると、一流打者は下手に勝負をすれば打たれる怖ろしい相手です。従ってまともなコースには投げません。ストライクゾーンギリギリの際どいコースで勝負しますし、一流打者は選球眼もいいですから当然フォアボールが増えます。また厳しい内角攻めで腰をひかせようとするのも常套手段ですから、ちょっとでもコントロールが狂うと打者の体に当たってデッドボールになってしまいます。だから10打席に1回以上フォアボールやデッドボールがある打者は、凄い打者だということになるのです。

 さて、この7つの指標の内、
6つ以上をクリアしている打者…AAA級(別格の超一流)
4〜5つクリアしている打者…AA級(トップレベルの日本代表クラス)
2〜3つクリアしている打者…級(一流打者クラス)
1つクリアしている打者…級(中堅クラス)
1つもクリアしていない打者…級(レギュラーにはなったが平凡な打者)
と定義します。

日本プロ野球の現役選手のランク分け

 2003年度までの現役選手では、

AAA級…小笠原(日本ハム),和田(西武) 2名

AA級…カブレラ(西武),小久保(ダイエー→巨人),城島(ダイエー),バルデス(ダイエー),フェルナンデス(西武),ブラウン(オリックス),松中(ダイエー),高橋由(巨人),古田(ヤクルト),ペタジーニ(巨人),前田(広島) 11名

A級…井口(ダイエー),磯部(近鉄),エチェバリア(日本ハム),オーティズ(オリックス),ショート(ロッテ),谷(オリックス),中村紀(近鉄),福浦(ロッテ),マクレーン(西武),松井稼(西武→メッツ),メイ(ロッテ),山崎武(オリックス),T・ローズ(近鉄→巨人),石井琢(横浜),今岡(阪神),岩村(ヤクルト),ウッズ(横浜),江藤(巨人),金本(阪神),清原(巨人),シーツ(広島),清水(巨人),鈴木尚(横浜),立浪(中日),野村(広島),福留(中日),村田修(横浜),ラミレス(ヤクルト) 28名

B級…阿部(近鉄),大島(オリックス),大友,大村(近鉄),小関,川口(近鉄),川崎(ダイエー),後藤光(オリックス),柴原(ダイエー),進藤(オリックス),高木大(西武),坪井(日本ハム),西浦(日本ハム),初芝(ロッテ),水口(近鉄),武藤(近鉄),村松(ダイエー→オリックス),赤星(阪神),阿部(巨人),アリアス(阪神),アレックス(中日),井端(中日),緒方(広島),片岡(阪神),川相(巨人),金城(横浜),久慈(阪神),鈴木健(ヤクルト),谷繁(中日),土橋(ヤクルト),仁志(巨人),濱中(阪神),桧山(阪神),広澤(阪神),ベッツ(ヤクルト),真中(ヤクルト),宮本(ヤクルト),吉永(巨人) 38名

C級…石本(日本ハム),井出(日本ハム→巨人),伊東(西武),葛城(オリックス→阪神),金子(日本ハム),木元(日本ハム),クローマー(日本ハム),小坂(ロッテ),シェルドン(オリックス),塩崎(オリックス),田中幸(日本ハム),波留(ロッテ),堀(ロッテ),諸積(ロッテ),吉岡(近鉄),新井(広島),飯田(ヤクルト),稲葉(ヤクルト),小川(横浜),クルーズ(中日),佐伯(横浜),関川(中日),種田(横浜),中村武(横浜),二岡(巨人),浜名(ヤクルト),東出(広島),藤本(阪神),元木(巨人) 29名

 こうしてみるとやはり上位ランクほど少数ですね。B級の数がC級よりも多いのは、「普通レギュラーになるまで出世した選手なら、7指標の内一つはクリアするものだ」という観点からみて、いささかC級選手の物足りなさを表すものです(C級に名のある選手のファンの方には申し訳ないのですが^^;)。

イチロー選手の凄さ

 現在メジャーリーガーとなっている選手(投手は除きます)を日本プロ野球時代の通算成績で同様に評価するとイチローはAAA級松井秀喜はAA級、田口はB級、新庄はC級でした。今年からメジャーに挑戦する松井稼は三振の多さが災いしてA級どまりですが、これを克服できるかどうかが課題でしょう。

 イチロー選手の凄さを語るのに、この7指標の数字が非常に参考になります。

  第1指標 0.353(クリア)
  第2指標 1.34(クリア)
  第3指標 0.56(クリア)
  第4指標 0.14
  第5指標 3.84(クリア)
  第6指標 0.35(クリア)
  第7指標 0.126(クリア)

 第4指標だけわずかに及ばす、オールクリアとまではいきませんでしたが、いかにバランスのとれた選手かということがよくわかると思います。

 それに上述した日本プロ野球の108人の中で、それぞれの指標をクリアできている選手が何名いるかというと、第1指標17人,第2指標39人,第3指標34人,第4指標9人,第5指標27人,第6指標16人,第7指標36人という高いハードルです。

 B級以上、つまり7指標の内最低一つ以上をクリアできている選手79人の平均値でみると、第1指標0.282,第2指標0.97,第3指標0.48,第4指標0.12,第5指標1.75,第6指標0.21,第7指標0.101となって、平均値では1つしかクリアできません(^^;)。

 A級以上42人の平均値になると、第1指標0.291,第2指標1.04,第3指標0.59,第4指標0.12,第5指標1.73,第6指標0.27,第7指標0.107と上昇しますが、まだ半分以上の4つがクリアできません。

 AA級以上14人の平均値になって、第1指標0.306,第2指標1.10,第3指標0.68,第4指標0.13,第5指標1.92,第6指標0.35,第7指標0.117と5つクリアできるわけです。バランスよくハイレベルな数字を残すことがいかに難しいことであるか、よくわかります。ちなみに各指標の最高値をみると、第1指標0.325,第2指標1.23,第3指標0.90,第4指標0.16,第5指標2.64,第6指標0.45,第7指標0.194です。

 イチロー選手の数字は、このAA級以上の選手達の平均値と比べても第3指標を除いてすべて上回っています。しかも第1,2,5の3つが最高値よりもさらに大きい。まさにAAA級です。特に凄いのが第5指標で、三振数の4倍近くのヒットを打っているというのは驚異的、凄いの一言なのです。野球選手の中でも並はずれて強力な動体視力が、この離れ業を可能にしているのでしょう。

 メジャーリーグに挑戦して3年。マリナーズでの3年間で同じ指標の数字を見てみると、
  第1指標 0.328(クリア)
  第2指標 1.40(クリア)
  第3指標 0.38
  第4指標 0.12
  第5指標 3.62(クリア)
  第6指標 0.16
  第7指標 0.066

 さすがにまだまだ日本プロ野球よりレベルが高いといわれるメジャーリーグ。イチロー選手でもA級つまり「並の一流」にランクダウンしていますが(^^;)、それでもまだ3つの指標をクリアしているのは実に凄いことです。特に第5指標の数字がさほど日本時代から下がっていないのですから価値が高い。

 打者としての能力がこれだけあって、これにあのずば抜けた俊足、守備力、強肩が加わっているのですから「4年契約50億円」という超破格の契約が可能になるわけですね。

 参考までに現ヤンキースの松井秀喜選手の巨人時代の数字は、

  第1指標 0.304(クリア)
  第2指標 1.10(クリア)
  第3指標 0.70(クリア)
  第4指標 0.13
  第5指標 1.49
  第6指標 0.36(クリア)
  第7指標 0.160(クリア)

 日本人ではナンバーワンとされている松井選手ですが、長距離打者につきものである「三振の多さ」からは例外ではなく、第5指標がやや低いですね。ただ松井選手は敬遠で勝負を避けられることが滅法多く、第7指標の高さは特筆ものです。

 しかしその松井選手も、昨年のメジャーリーグ1年目では、

  第1指標 0.287
  第2指標 1.10(クリア)
  第3指標 0.65(クリア)
  第4指標 0.12
  第5指標 2.27(クリア)
  第6指標 0.20
  第7指標 0.09

 やはりA級つまり「並の一流」にランクダウンするのがメジャーリーグなのです。しかしこちらは三振を減らして第5指標をクリアし、第3指標を小幅の減にとどめているのが素晴らしいといえます。一番打者タイプのイチロー選手とはまったく異なるタイプの打者ですが、年齢も一つ違いの良きライバルとして、今後も活躍が期待されます。

7指標オールクリアの猛者

 さてもう一つ余談。今年から北海道札幌市に移転した日本ハムファイターズの小笠原道大選手は、上述したように現在の日本プロ野球界で二人しかいないAAA級ランク該当者の一人ですが、イチロー選手でさえ一つ足りなかった「7指標オールクリア」の猛者です。
  第1指標 0.325(クリア)
  第2指標 1.15(クリア)
  第3指標 0.59(クリア)
  第4指標 0.15(クリア)
  第5指標 2.03(クリア)
  第6指標 0.34(クリア)
  第7指標 0.123(クリア)
 この凄さをもっと多くの野球ファンに知ってもらいたいものです。チャンスさえあれば彼もメジャーリーグ挑戦に踏み切ってほしい逸材だといえるでしょう。ワールドクラスの選手が地元球団の一員としてやってくることを、北海道民の一人として素直に喜んでもいるんですが(^^;)。

 以上はあくまで私個人の「打撃能力のみの評価」です。走塁能力や守備能力が極めて優れていると球団が評価している選手の年俸にケチをつけるつもりはありませんが(^^;)、野球に興味のある方なら、こういう観点で選手の凄さを感じられれば一段と観戦が面白くなってくると思います。

余談

 上述の「7指標によるランク付け」は我ながらシビアです(^^;)。なにしろ名球会(日本プロ野球での個人通算成績で、投手なら200勝、打者なら2000本安打以上を記録した人達が入会できる名誉団体)のメンバーであっても、打者会員30人を上述の手法でランク付けしたら「AAA級」の該当者は川上(巨人),張本(日本ハム→巨人→ロッテ),落合(ロッテ→中日→巨人→日本ハム),長嶋(巨人)の4名だけです(あの王選手(巨人)も「AA級」)。もう50年ほど前ですが「打撃の神様」と呼ばれた川上哲治選手だけが「7指標オールクリア」でした。やはり数字は正直ということですねえ。

 AA級が12名、A級が6名、B級が7名、C級が1名。横浜で引退した駒田選手が名球会唯一のC級です。息の長い現役生活を続けていれば、平凡な打者でも2000本安打まで到達できるわけですね。

MLB偉大なり!

 さて、メジャーリーグ(大リーグ)という言葉もイチロー、松井両選手のニュースでずいぶんポピュラーになりましたが、その歴史は日本のプロ野球の2倍、100年もあります。

 私が定義した超ハードな7指標ランク付けでも、既に引退した名選手でAAA級が15名、AA級が16名、A級が26名もいますし、現役の代表的な選手でもAAA級が13名、AA級が23名、A級が74名…いやいや凄いところです。世界中からベースボールという球技に魅せられた猛者が集まってきてその技術を競い合う場の、レベルの巨大さを感じます。

 ちなみに日本球界では前述した「名球会」メンバーで1名、現役で1名の合わせて2名しかいない「7指標オールクリア」のAAA級打者が、メジャーでは引退選手で8名、現役選手で3名、合わせて11名もいるのです。その‘神様の次元’にいる選手達の名前を覚えておくことは決して無駄ではないでしょう。打率の高い順に挙げます。
 ロジャース・ホーンスビー,テッド・ウイリアムス,ベーブ・ルース,ルー・ゲーリック,スタン・ミュージアル,ジミー・フォックス,ジョー・ディマジオ,ジャッキー・ロビンソン(以上引退選手)。いずれも「伝説」と化している名前です。
 トッド・ヘルトン(コロラドロッキーズ),アルバート・プホルス(セントルイスカージナルス),ブライアン・ジャイルズ(サンディエゴパドレス)(以上現役選手)。ヘルトンは「4割にもっとも近い男」と評される名人、プホルスはまだメジャー3年目ながら昨年3割5分9厘という物凄い数字で首位打者になった天才児、ジャイルズは知名度こそ低いものの折り紙つきの実力派です。

 以上はとあるメジャーリーグ関係のホームページで「生涯成績が紹介されている選手達」にすぎず、まだまだ猛者がどっさりいるものだと思ってください。MLBというところがどんなに凄い世界か、わかっていただけると思います。

 今年もそんな凄い世界でイチロー、松井秀喜、松井稼頭央選手らの挑戦が始まります。日本人がどこまでやれるのか、声援を送りましょう!

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