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たかが車が10台ほど連なる光景を渋滞と呼んでいいのか分からないが、ここ数日弟子屈は、道路が騒々しく、活気づいている。ふいに目と耳が刺激され、日頃とは異なる道路の賑やかさにお盆に突入したことを知らされる。それでも国道から数本奥まった美留和は変わることなく小さな生き物から動植物の賑わいと彼らが謳歌する季節の只中。本日のお客様は昨日からお泊りのお顔馴染みのお客様。今回は親しくされている関西からのご友人をお誘いになり3泊の予定でお越し下さった。今日は、とあるハプニングから斜里岳登山を断念、急きょ釧路川カヌーツアーに変更、夏の不安定な雨模様のなかお出かけになったが、カヌーに乗る間は雨があがり、終わってから降るという、絶妙な天候を縫うようにアウトドアを楽しまれ(例え仮に大雨でも、物ともされなかっただろうが)他にも危機一髪で物事が好転したことなど教えて下さり、「晴れ女」(天照大御神)が言葉だけではなく現実にあることを信じてしまいたくなるような偶然の出来事も、旅のおもしろさを倍増させるエッセンスになったようで話が弾んだ。さて、本日の一押しは、木の子と白身魚(網走産鰈)の包み焼。刺身幅にスライスした鰈でソテーした木の子を包み蒸し焼きにした一品。レモン、サワークリームとマヨネーズのソースとともにお召し上がりいただいた。他には、地場産の野菜が出回るこの時季ならではの夏野菜のミルク煮。ピュレにしたジャガイモと玉ねぎをソースにし、ブロッコリー、ズッキーニ、蕪をグラタン風に焼き上げたもの。思いのほかお喜び頂いたのがポルチーニと玄米のリゾット。マツタケと風味がよく似たポルチーニとマッシュルーム、玉ねぎのみじん切り、玄米をオリーブオイルでソテーし、スープを合わせ、オーブンにかけリゾットにした一品。仕上げにたっぷりのパルメザンチーズを合わせてお出しした。デザートは北海道十勝産の豆(白花豆、小豆、金時豆)とほうじ茶ゼリー、白玉の盛り合わせをご用意した。2日目の夜もお食事とともにお二人の充実した会話のご様子から、豊かさが溢れ出し宿の空間隅々にまで拡がった。カヌーのまなざし(水面に近い目線)からの自然の新たな気づきから動植物、食べ物、北海道の大地に根づくアイヌ文化の知恵の奥深さ、各々の日常のことに至るまであれこれと尽きそうもないご様子に、水をさすのがもったえなくて、時計の針の時間から解放できるものなら・・・と思った。宿のオープン当初からの、かれこれ10年ものお付き合いで、これまでにご主人、お母さん、ご友人などをお誘いになり度々お越し下さっていることを振り返ると感慨深くもあり、と同時に、ついこの間のことのようでもあり、時の流れの不思議さ、身体の中に積もる、時計の時間とは異なる次元の時間の感覚が確かにあるように思えた。これまでも、そして、これからも、多くをとりこぼしてしまう時間や感覚であり続けることであろうが、身体に積み重なっていくだろうことを思い、月並みではあるが、健やかでいたいものだ、とつぶやく宿主であった。


29th April 2012
いつになく雪深く氷点下30度の残雪が圧縮した氷山と化し、しぶとく立ちはだかっていたのがウソのように、ここ数日の雨と陽気で一気に消えてしまった。今シーズン初めてお客様をお出迎えするにあたって、お客様の足元を安全に確保しておかねば!と、かなり意気込んでいた巨大氷山との格闘であったが、違う意味で出鼻をくじかれた。何はともあれ、今季も初日から、お顔馴染みの常連のお客様をお出迎えし、再開(再々再会!)できることは、うれしくありがたい。本日お出迎えするお客様もオープン当初から足を運んで下さる関東からのお客様で指折り数え10年来のお付き合いだ。前回は半年前の秋の頃に会社の同僚女子組三名様ということでおいでになったが、今回はご主人とお二人での貸切。例年であれば、初物として摘み立てクレソンをサラダで食して頂くのが楽しみでもあるのだが、今年は成長がゆっくりで、あと4〜5日というところだ。本日は店頭に並ぶ北海道産の素材を調達してきて仕込みにとりかかる。本日の一押しは白身魚と帆立貝のポワレ。白身魚を違う角度からポワレ風にしてお出ししたいと考えていたこの頃であったが、今日は鯛に生の帆立貝とマッシュルームを巻き込み、ロール状にした鯛の表面はカリカリの焼き加減に、包み焼きされた帆立貝とマッシュルームはレアな食感を山葵のソースでお召し上がり頂くポワレ仕立ての一品に完成した。メインには厚岸産の時鮭(トキシラズ)のムニエル。ちょうど旬を迎えたアサリ(網走産)の旨みを煮詰め、サフランとチャイブで香り付けしたソースと共にお召し上がり頂いた。
雪の大きな塊がなくなったことで視界が拡がったせいか、道東にも春がきたなぁ、とふと実感する。目を凝らすと樹木には小さな芽がいくつも連なり、茶色の地面にはうっすらと緑色の産毛のようにアイヌ葱の芽の絨毯、沢には水芭蕉、福寿草、水仙が咲く順番まちをするかのようにスタンバイしている。耳を澄ますと、うぐいす、オオジシギ、カエルの鳴き声、ほかにもいくつもの生き物たちの気配の声が重なりあっている。これから初夏に向けての美留和は動植物たちの圧倒的な生命力を目の当たりにする命の時に突入してゆく。


2012
10th August 2012