<ものがたり>
白夜が美しい夏至の夜、そこは伯爵家の台所、下男ジャンが胸元に汗を滴らせながら入ってくる。
「あの方、まったく変だ。頭がどうかしている。森番なんかと踊ったりして、しかもこの俺にまでワルツのご所望だ。ずっと踊りっぱなしさ。」
ジャンは許嫁である召使いのクリスティンに話しかける。
「ご婚約の話がこわれて二週間、おかしくなっちまったんだよ。」
「今日は夏至の夜、特別な日だ。ワインを飲ませてくれ。それにしてもあの人の身体は素晴らしい。」
クリスティンは言う。「ねえ、私とも踊っておくれよ。」
そこへジュリーが現れる。
「ジャン、今度はスコッチダンスを踊りましょう。いいわね、クリスティン。」
その知性は父親から、感情は母親から受け継いだジュリーは命令する。
「ジャン、今日はお祭り、身分なんか忘れるの。」
狂おしい白夜・・・・・・・。
ジャンは、ジュリーを想った幼心を告白する。
ジュリーは夢の話をする。
「わたくしは、いつも高いところから下へ落ちていく。そんな夢を見るの。」
二人の心はいつしか、ひとつに溶けあう。
そして、戻り道はもう無い。
現実に生きていく、下男ジャン。
彷徨うように、夢の中に落ちてゆく、令嬢ジュリー。
|