HALF AND HALF JOURNAL

 

 

HHJ

 

 


無意味な破片

 

 

走る劇場での会話

 

 

HHJ  VOL.74  2000.6.14

編集長は《仮面について》の予期しない展開で脳の栄養補給に余念がない。

              ☆ ☆ ☆

特派員―半分半分放送が始まってから、いろんな変化があった。その一つを言うと、通りの向かいにある学習塾が終わる頃子どもたちを迎えに来た車がリヴァー・ポートの前に平然と並んでいたけれど、それがきれいに消えた。

ナモネ氏―放送局長は脇見運転による事故を心配していたが、ほう、そうか、よほどひどい映像ばかりだったんじゃないのかね?

特派員―胸がむかついたり、眩暈を起こしたりで・・・いや、ここだけの話ですがね、ちょっとでも見てしまった人は不眠症になるっていう噂です。

ナモネ氏―サブリミナル効果は嘘だと思うんだが、それを信じる人間はノイローゼになる恐れがあるかもしれんな。ちらっと何かが目に入ると、強烈な作用を及ぼす。

特派員興―興味がある対象に限るんじゃないでしょうか?だから、塾に出入りする馬鹿者いや若者が妙に滅ったように思えても、ぼくは気にしませんよ。

ナモネ氏―やはりねえ、私も最近何となく自転車の数が少なくなったと感じていたんだ。そうしたら、新聞に宣伝広告の大きいのが出たから、内情の察しが付いたよ。

特派員―あの若い経営者は知らんふりですね。一度擦れ違うとき目が合った。9811月鷹巣町の北秋田土木事務所で大館橋マーク塗装事業に関連する公文書の閲覧をしたとき安倍総務課長から〈内訳書を市長宛てに送る〉という決定的な事実を聞いて、その帰りに大館駅前に止めてあった白い自転車が盗まれ、4か月後の3月母の自転車がイトク・ショッピングセンターで盗まれ、それから今度は撮影に使う赤い自転車が秋の産業祭の後ジャスコで盗まれた。その後だから、よく覚えていますよ・・・以前から鍵の掛かってない自転車が塾の片隅に放置されていたでしょう?その脇で擦れ違ったのだが、それから、まもなく 《時効》が成立した頃を見計らって、と言いたいのだが、自転車が消えた。意外に自然主義者で、リヴァー・ドキュメンタリーを欲しがるのも、無理はない、と・・・不自然じゃない、と思いましたね。      

☆ 

半分半分放送局長―秋北ターミナルは市民の宣伝ポスターを張らせないって、編集長から聞いたが?

特派員―ええ、頼んでも無駄ですよ。通路にやたら張ってある宣伝広告はご自分のものばかりで。何年か前イべット・ジロー夫妻があそこに宿泊したけれど、リサイタル開催は誰のお陰か、想い出してもらいたいね。

ナモネ氏―70年代の半ば、あの高層ビルが完成したとき、バス・ターミナルから新しい街へ、という宣伝文句だった。結果は御覧の通りだ。ロッキード事件で田中角栄元首相が裁かれていた頃、東京の週刊誌が、国際興業グループの世話にならなければ東北を回れないと皮肉ったが、田舎町じゃ市民の自慢なんだ。小佐野賢治が角栄とコンビを組んで戦後払い下げのおんぼろバス1台から築き上げた会社で、大館の秋北バスを買収してあのビルを建てたのだ。

放送局長―そうですか。ガソリンがよく手に入ったもんです。地下鉄H線の事故で線路の横取り装置が問題になったけれど、戦後の駐留軍物資の横流しを連想しましたよ。それはともかく、長木ダム建設期成同盟会は市の補助金を使って毎年秋北ホテルで気勢を上げている。市民の金を吸い上げるだけで、芸術文化発展には貢献しない。

                 ☆ 

特派員―いい意味で新しい街にしようという意思が最近やっと形を取り始めた。例えば、街路の大きさに合った中型バスや一律150円の市内循環バス運行。楽に乗り降りできるよう設計されたバス。一度乗ってみませんか?

ナモネ氏―私は遠慮するよ。

放送局長―バスに乗るのは何年ぶりかな?おっと、柄の悪い男が来たぞ。編集長が前に書いてるが、後部からも乗り降りできる設計にしないと、本当のヒューマニズムではないな。君、地域犯罪はどこで破裂してもおかしくない社会状況なんだ。国際興業のバスが走る劇場となったら、みんな激情の犠牲だ!

特派員―それもこれもHHJの存在が原因・・・大館市と自民党の戦車がたった1個の卵を潰そうとして逆に滅茶苦茶になった。

放送局長―いやはや、あそこに山と積まれた鉄屑が、それか?

特派員―ガラクタじゃないけれど、ま、普通だったら、道路に卵があるのを見れば、運転手は絶対に避けて通る。それを潰して通り抜けようとするんだから、ちょっと異常な心理だ。実験してみませんか?

放送局長―道路交通法が喧しい。編集長だって、駄目だと言うよ。キャンパスで遊んでいた頃から、ああいう人騒がせなアヴァンギャルドは否定していたからね。寺山修司の(天井桟敷)などのことだが。日常生活を掻きき乱す演劇が市民を覚醒させるとは、安易な考えだ。

特派員―20世紀の入り口で〈もはや劇場はない〉とリルケ(RMRilke

は予言的に書いています1。街の中がテアトルになったのはその頃でしょう?

放送局長―たぶんね。でも、あれはアポロ11号が月に行った時代の芸術じゃない。

                 ☆ 

放送局長―シナリオを作るには情報収集が何より大事だ。ドラマはそれから始まる。大館橋の例のマークや長木川に放置された大町花壇などは、シナリオの記号なんだ。

特派員―ぼくが問題にしたいのは、新聞やTVなどを媒介にした情報記号ですね。編集長は最近そういう奇妙な指示記号を環境サイン(Le signe en mileu)と名付けた。この特徴は、匿名性とオプセッション(強迫観念)の形成にある。サインを送る実体は曖昧です。サイン製作の指示を受けた役人や請負業者は本当の目的を認識しているかどうか?もう一つの特徴はタイミング。コンテクスト(文脈)や状況が意味を限定するので、哲学的な説明はしないけれど、狙い撃ちされた人は精神分裂症的になる。これは当然です。ほら、あのポスター〈26時だよ 全員集合、715日、大館市民文化会館〉興行は東京の〈プロステージ〉翻訳すると、半分半分放送の時間帯を2時から6時に変更しろ、3時から7時じゃ学習の邪魔だ・・・嫌なメッセージでしょう?

放送局長―なるほど、金は相当かかるが、CMはその意味じゃ手軽に使える武器だな。強迫観念は感染症みたいなもので、場合によって、それと戦うには死神を相手にするくらいの勇気が要る。目の前の問題をどうするか考えると、まずCMを番組の終わりに回すとか宣伝時間帯を決めること、ポスターの大きさと掲示場所を規制することだな。個人の了解と意思を越えて視覚と聴覚に入る宣伝広告は、もう時代遅れにしなければならない。人格を尊重することだ。      

特派員―どんな人間も固有の世界を持って生きてる。そういう厳然たる事実を嫌っているように思えるね。CM問題などは30年前から叩かれながら、日本の関係者は一向に改善しようとしない。市民が本当に見たがるようなCMを製作するべきなんだ

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放送局長―生きるか死ぬかでやらなければ、駄目だよ。ジャニーなんか、NHKに入ったと思ったら、22才の若さで急死したんだ。免疫ができてないのに無理な仕事をさせられたんじゃないかと想像すると、おれは切なくなるね。ところで、編集長の話では、謀略的なシナリオ機関が長谷川家の過去を調べるのは自滅行為みたいなものだ。その情報記号が今年になってから三つも揃った・・・長谷川が何様だろうと、嫌がらせと謀略は続くだろうが、昔から知ってた情報とは思えない。調査が熱心すぎたな。

特派員―起爆剤で自分たちが吹っ飛んでしまった。放送局長は、大学時代に編集長から聞いていましたか、父親が恵比寿生まれだっていうことを?

放送局長―ああ。訛りがないなって言うと、そう答えた。冗談ばかり喋ってた男だからなあ。でも、こういう状況では70年前後と同じでスパイとかテロリストというイメージ操作にやられやすいんだ。だまされて陰険な企みに協力する市民もいるはずだ。

特派員―96年渋谷駅前のハチ公をヘルメット姿の労働者が倒したCMを覚えてるでしょう?銅像維持会の菅原昇県議が読売広告社の社長を呼んで謝罪させた。あのパフォーマンスなんか、歌舞伎の大見栄だったな。

放送局長―去年2度も続けて元建設省官僚の小畑元市長が公の集まりであの県議を〈我が師〉と称えたので、秋田県の裏の支配者かと思ったら、頭の方が政治責任を取らされてしまったね。どんな失敗(スッパイ)をしたのやら・・・

特派員―広尾は知ってますか?

放送局長―おれが知ってるのは有栖川宮公園の奥にある都立中央図書館ぐらいだ。

特派員―あの庭園の想い出がリヴァー・ドキュメンタリーの始まりだと聞いても、信じないでしょうね。編集長はある日池を眺めて、その水がどこから流れてくるのか、疑問に思ったんです。公園前にサーティ・ワン・アイスクリームがオープンした頃。渓流を辿って行くと、小さな橋が架かっていて、突き当たりにコンクリートの塀があって、そこから管が出ている。風来坊は塀の向こう側に回ってみたけれど、古めかしい病院の建物で、自然の湧き水か水道水か確認できなかった。

放送局長―あの天現寺交差点の周辺が、問題なんだよな・・・

特派員―小淵前首相が倒れたのはその情報を聞いたためじゃないか、と冗談半分に編集長に言いましたよ。小淵派の能代出身の代義士(野呂田芳成)の青褪めた顔を見ながら。

放送局長―天現寺交差点っていうのは、君、ドラマの題名にぴったりだね。森喜郎首相が登場して、〈日本は天皇を中心にした神の国である〉と発言するんだ!

特派員―憲法改悪の下心を持った憲法調査委員会で52日、民主主義憲法作成に係わったアメリカ人3人が証言しましたね。あの人たちは慎ましいクリスチャンだと思うが、神の論理と戦って人間の世界を確立しようと努力したのは他でもないキリスト教の国々の人間たちでしょう、イタリア・ルネッサンス以来。

放送局長―造られたリンゴの、じゃない、生き物の気持や生活を尊重してほしいよ。

特派員―戦後生まれが見たって、あの敗戦は解放ですね。民主主義憲法を強制されたと思うのは、今でも特権階層と教育の犠牲者ですよ。

放送局長―アジアの人々は日本の理想主義的な憲法を悪いとは考えないはずだ。アジアの戦後に責任があるんだから、日本はそれを軸にしてアジアの平和のイメージを描くべきなんだ。ベルリンの壁が崩壊してから10年経つのに、日本の政治は西ヨーロッパと反対の方向に進んでいる。協調的でないのだ。

特派員―このバスもどこを走っているのか、分からないなあ。

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1 《マルテの手記》より。20世紀初期のオーストリアの詩人。

 

 

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