ドングルを使って車内でiPod等の曲を聴く場合に、シガーライターソケットの電源を使いたい
と思う場合があります。
第5世代のiPodなら満充電からの連続演奏時間も相当あるのであまり必要性を感じないかもしれませんが、
第3,4世代の少しバッテリーの弱ってきたタイプでは 「あったら便利」と思うことがしばしばです。
しかしながら、シガーライターソケットの電源を使った場合には「ヒュー」という
オルタネータノイズの音と、「パチパチ」というイグニッションノイズの音が混入して、
ちょっと聞く気になれません。
そこで今回は「ライントランス型」のノイズフィルターに挑戦してみました。
結果は良好、ノイズを完全に除去することに成功しました。
フィルターによる音の劣化は厳密には皆無とは言えませんが、ノイズのないクリアな音は
非常に爽快で一度使うと止められなくなります。
勿論、iPodに限らずカーナビのライン出力をドングルに接続する場合にも使用できそうです。
また、自作に自信の無い方でもノイズのトラブルを解決できるよう、市販品についても簡単に調べてみました
ので参考にして下さい。
1.「ライントランス型」のノイズフィルターとは
車載用のノイズフィルターは大別して2種類あります。
(タイプA):音声入出力に入れる、トランスで構成される、平衡/不平衡変換型フィルター
(タイプB):+12Vの電源系統に入れる、チョークコイルとコンデンサで構成されるLC型フィルター
これらのうちの(タイプA)のほうが、今回高い効果が確認されたフィルターです。
これは「ライントランス」の他に、「アイソレーショントランス」とも呼ばれています。
デジタル化の流れか、はたまたカーオーディオ市場低迷の影響か、市販品は少数になってしまいましたが、
それでもこの方式のフィルターは僅かに販売されているようです。
実際に試してみたわけではありませんがどれも効果は同じと思われますので、
自作するのが面倒という方は購入という手もあります。
(市販製品情報については後述します。)
なお、(タイプB)の電源用のフィルターも試作してみましたが、ライントランスほどの
効果はありませんでした。 多段にすれば効果は増しますが、それでもノイズの
根絶には至りませんでした。
2.ノイズフィルターの製作
回路は非常にシンプルですので、簡単に自作できます。
1)回路図
ここでは2つの回路図を挙げておきます。
上側の回路(Type1)は基本のラインフィルタです。下側の回路(Type2)は、トランスの
巻線比を利用して出力電圧をおおよそ倍にできるようにしたものです。 ノイズをカットする
フィルタの働き具合はどちらも同じです。
今回使用するトランス(ST-71)には中点(センタータップ)があります。データシート上は出力側に
なっていますので、入出力を逆転して使うと、1:2の巻線比が作れます。
こうすることで出力電圧をおおよそ倍にアップすることができます。
もしAUX入力からの音が小さければ巻線比1:2で出力アップ、そうでなければ出力アップなし、
と切替えできるようにスイッチをつけてみました。
なお、Type1ではSansuiのデータシートを無視して入出力を逆転させて使っていますが、
どちらの向きで使っても周波数特性に殆ど違いはないようです。
2)部品リスト
部品 | 型番等 | 数量 | 参考情報 | |
1 | トランス | ST-71 | 2個 | マルツで購入 |
2 | 切替えスイッチ | スライドスイッチ(2回路2接点) | 1個 | 千石で購入 |
3 | RCAピンジャック(赤) | RJ-2290N/R | 2個 | 秋月で購入 |
4 | RCAピンジャック(白) | RJ-2290N/W | 2個 | 秋月で購入 |
5 | 基板 | 汎用穴開き基板 | 1枚 | 秋月で購入(72×47mmを半分に切断して使用) |
6 | ケース | テイシン電機TB-51B | 1個 | 千石で購入 |
7 | その他 | リード線、メッキ線、ハンダなど | --- | 適宜用意してください |
部品のメインは平衡/不平衡変換用のトランスです。今回はSansuiのST-71を使いました。
入出力600オーム、巻線比1:1のものです。
おそらく入出力1KオームのST-73Aでも代用可能かと思います。
実際のところ、トランス以外の部品は必須ではありません。
RCAのピンジャックも延長用のラインケーブルを切断してトランスのリード線に直結にしてしまえば
必要ありませんし、基板も単に部品の固定用に使っただけです。ケースは無いよりはあったほうが
良いとは思いますが、強い電磁波の発生する機器の傍に置くのでなければ金属製のシールドケース
にする必要はなくプラスチックのもので十分です。極論すれば空中配線でOKです。
組み立てに関して説明することは特に無いので、写真だけ載せておきます。クラリオン製の
フィルターを参考にして、2つのトランスの磁力が干渉しないように直角に配置してみましたが、
そもそも市販のトランスの磁力線は外に逃げないように作られていますので、
この工夫の効果は殆ど無いと思います。
なお、ST-71等の周波数特性については Sansuiホームページのデータシートを
ご覧下さい。中域と比べて低域と高域において1デシベル程度ダウンするようなカーブですが、
この程度なら聴感上は何も判らないはずです。(参考:某掲示板には、実測で2dBダウンとの
書き込みがありました。)
3.効果
1)ノイズ除去効果
テキメンです。オルタネータノイズもイグニッションノイズも全く聞こえません。
ボリュームを目一杯大きくしても僅かに「サー」という
ヘッドユニットのアンプ部が発生するノイズが聞こえてくるだけです。
2)音質(巻線比1:1の場合)
特にハイファイ用の部品を使ったわけではありませんが、iPodで巻線比1:1にした場合
の音質は十分満足できるものでした。 直結の場合と聞き比べると若干高域が
ダウンするような気がしますが使用上は問題ないでしょう。
最近のiPodの味付けは派手目なのでむしろフラットに聞こえます。
いずれにしても車で使うには全く気にならないと思います。
3)音質(巻線比1:2の場合)
一方、巻線比1:2の場合はイマイチでした。
確かに音量はアップしますが、ややボケた音に聞こえます。高音もダウンしているかもしれません。
ヘッドユニット入力レベル過大かもしれませんし、トランスの飽和によるものかもしれません。
巻線比1:2は出力レベルの小さい機器を繋ぐのに向いているようです。
あくまでも私見ですが、iPodのDOCコネクタのラインアウト出力の場合も 1:1が適しているようです。
4.市販製品情報
Webで検索すると、このような結果となりました。
メーカ | 品名 | 定価 | |
1 | クラリオン | NSA-141-110 | 定価3000円 |
2 | ビクター | KS-U33J | 定価2500円 |
3 | ソニー | XA-112 (生産完了品在庫のみ) |
定価6000円 |
4 | パイオニア, アルパイン, サンヨー, ナカミチ, ミツビシ, 富士通テン, デノン |
該当なし | --- |
市販のものは金属性のシールドケースを使うなど若干立派に仕上がっているますが、
中身は今回紹介したものとほぼ同じ部品を使っていると思われます。ノイズの除去性能も
大差ないと思われます。
この他に、楽天で扱っている外国製のフィルタがありましたが、それは入出力インピーダンス
が10Kオームと高くiPodには適さないような気がします。
付録
以下はマニア向け情報です。興味があればお読みください。
A1.なぜ「ライントランス型」のノイズフィルターが効くのか
簡単な実験として、シガーライター電源に接続されたiPodにヘッドホンを繋いで聞いてみてください。
フィルターがなくともノイズは全く聞こえてきません。
ノイズが確認できるのは、ドングル経由でヘッドユニットに繋いだ場合だけです。
どうしてなのでしょうか?
このノイズの発生理由については
appleのサイト
に解説があります。「グランドループ」という現象です。
ヘッドホンの場合は、グランドループが無いのでノイズが聞こえません。一方、ヘッドユニット
に接続すると、iPodのグランドとヘッドユニットのグランド間の2つのグラントポイントが
出来てしまうので、ノイズ成分がアンプの入力に乗り、ヘッドユニットで増幅されて
大きなノイズとなって聞こえてきます。
ちなみに、iPodの出力もG4のヘッドユニットの入力も、どちらも不平衡型です。
またこの実験から、iPodのGND側にはノイズが乗っていても音声出力のホット‐GND間の電位差には
ノイズは乗っていないということも判ります。
ならば、トランスでグランドループを遮断しiPod音声出力の差分だけをヘッドユニットに
伝えればノイズはカットできます。
iPodにトランスを平衡入力で接続するということは、丁度iPodにヘッドホンを
繋いだのと同じ回路になります。この回路が「ライントランス型」フィルターというわけです。
トランスがGNDのラインを遮断(アイソレート)するので、ノイズがヘッドユニット側に
伝わらず、高いノイズ除去効果が得られます。
一方、前述の+12Vの電源系統にいれる(タイプBの)フィルターは、
コイルとコンデンサで、直流電源上に乗ったノイズ成分を"減衰"させるものです。
ノイズが小さくなるだけで完全には消えません。
さらに、iPodのバッテリーがフルの時は効果があるのに空っぽに近い時(つまり充電のために多目の
電流が流れている)にはノイズが聞こえる、といった現象が起きることがあります。
これはチョークコイルの直流磁化による磁気飽和という現象で、直流回路用フィルタ実装時
の課題といえます。(飽和に強い部品は高価ですし、しかも期待されるインダクタンスが
得難いという難点があります。)
A2.実は、+12V電源用のフィルタも作ってみたのですが.....
これが、そのフィルタです。フィルタ回路は黒い箱の中に入っています。
中身の説明は省略しますが、コモンモード型チョークコイルによるLC型のフィルタの2段構成
になっています。
前述のiPodのバッテリーの充電量との依存性の他にも、バッテリーの劣化や電源のGND側の
アースポイントの有無によってもノイズの減衰性能が違ってくるようです。
フィルタとしての効果はありました。何も付けない場合に目立っていたノイズが
ロードノイズに掻き消されて気にならなくなる、といった程度の効果はあります。
ですが、それでも停車中にはノイズが微かに耳に付きます。
音質の劣化が気になってどうしてもライントランス型のフィルタは使いたくない、という方
は試す価値があるかもしれませんが、再現性にやや難があるのであまりオススメはしません。
少なくともG4の純正MDデッキ(MDX-5V101)の場合は、ライントランス型のフィルタだけで
十分だと思います。