== 意見を述べる ==
社会学の世界で、大衆とは、非合理的な(衝動や感情や気分にもとづいた)判断を下して無責任な行動をする非対面的な(会ったこともない)人々で、主体性の喪失と非合理主義が特徴、なんだそうだ。
ではまずは、試しに非合理的な(衝動や感情や気分にもとづいた)判断をしてみよう!
…当然、小論文としては不合格だ(笑)!
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今日、処分する成犬は30頭である。
伸生はその犬たちが入っている犬収容室の誘導通路の扉を上げた。
扉が開くと、犬たちはそろそろと誘導通路に出ていった。
制御室のモニターには、その一部始終が映し出されている。伸生はその部屋のすべての犬が犬収容室から出たのを見ると、再び部屋の扉を下して閉じた。
誘導通路に出た犬は、これから後ろから迫ってくる追い込み機によって少しずつ、処分機の中に追いやられる。
まるでそれは大きな一枚の壁のようになって、ゆっくりと動いて背後から迫ってくる。
動く追い込み機と誘導通路の床の間に、足などが挟まれることのないよう伸生は制御室のモニターを真剣に見つめながら、おどろくほど慎重に、時間をかけて操作をした。
時速1キロにもおよばないほどのスピードである。
犬たちに苦痛を与えることだけは、絶対にさけたい。伸生は何度も何度もモニターを確認しながら、追い込み機を動かした 。
犬たちが徐々に処分機に近づいてくるのが見える。
自分たちの身に何がおこったのかわからず、おっかなびっくり、追い込み機を見て前進している。中には前に進むのが怖いのか、尻ごみする犬も数多くいる。しかし、その体は犬たちの意思に反して、無理やり前にずるずるとおしだされていく。
こうして追い込まれた犬たちは、わずか一坪にも満たないほどの処分機の中に、自らの足で入って行くのだった。
すべての犬が入ったのを確認すると、伸生はボタン操作で処分機の扉を下からゆっくりと上げた。
犬たちはおどろいて出ようとするが、斜めに閉まりかかった扉に逆らうことはできず、滑り落ちてしまう。
この時も伸生は扉に犬たちが挟まれないよう、モニターでその様子を何度も確認しながら操作をした。やがて、扉は重い金属音をひびかせゆっくりと閉まった。
準備完了である。
あとはこの密閉された処分機に二酸化炭素ガスを流せば、すべては終わる。
制御室モニターには、ステンレス処分機の中にいる犬たちの様子が映し出されている。ほとんどの犬がおどろいた様子であわてていたが、中にはしっぽを下げることもせず、気丈に立っている犬もいた。
まだ飼い主が迎えに来ると信じているのだろうか。
ひしめき合う30頭の犬たちの表情は、人間を疑っているようには見えなかった。
伸生は、間髪をいれず、ガスの注入ボタンをおした。 次の瞬間、異変を感じた犬たちがあばれ始めた。モニターは微動だにしないのに、犬たちの動きが激しくなるにつれ、地面がゆれているような錯覚におちいる。
ガスが充満するにしたがい、犬たちを映し出しているモニターが徐々にくもり始めた。
犬たちは頭を上に向け、その口を大きく開き、胸のあたりを波打たせてあえいでいる。
ガスは下から上に流れるため、大きい犬ほど長く苦しむ。
ハアハアと舌を出し、酸素を求めるかのようにあえぎ続ける。
そして数分後……。
犬たちは折り重なるようにその場に倒れこみ、小刻みにふるえ、息絶えた。
やがて、くもっていたモニターが徐々に明るくなり、息絶えた犬たちの姿をくっきりと映し出した。
ガスが完全に抜かれ、制御室のすべてのボタンの点滅が消えると、伸生は制御室を出て、処分機の扉を開けた。
重なり合った犬たちの死体が、糞尿といっしょにごろんと転がって出てきた。
いちばん上に折り重なっていた犬が、他の犬の体の上を手足をひるがえしながらぐったりと滑り出た。
その顔は殺されてもなお飼い主を信じ、いちるの望みを伸生に託しているかのように穏やかだった。
伸生は処分機の手前から、犬たちを手で一頭一頭引き出し、その数を再確認した。
同時に犬たちの遺体についていた首輪を一個、また一個、ていねいにはずし、それを床の上に置いた。
犬を処分してくれと連れてくる飼い主にとっては、その犬も、その犬の身分証明である首輪も、ゴミでしかないのだ。
首輪が物語る犬たちの無念の思いを、伸生はもう何年、受け止めて続けてきたのか。
伸生の全身から汗が噴き出した。
『…全部で、30頭…。』
言うと、伸生は再び遺体を処分機に戻し、その扉を閉じると制御室に戻った。
処分機に戻された遺体は、ボタン操作で荷台へと移され、それが今度は上に持ち上げられてトロッコのようにレールの上を通り、焼却炉にたどりつく。そして、荷台の底が開き、焼却炉へと遺体が落ちて行く仕組みとなっていた。
機械操作で一連の作業を終え、伸生は最後にその目で遺体が残っていないことを確認して処分を終了させた。
摂氏800度の焼却炉の中の遺体は、またたく間に水分が抜け、焦げて炭化し、酸化して、やがて二酸化炭素になって、焼却炉の煙突から煙となって空に舞い上がっていく。
そして、3時間ほどで、犬たちは完全に骨となる。
その骨は粉々に砕かれ、土嚢に詰め込まれ、産業廃棄物(ゴミ)として最終的に処理される。
ひとつの土嚢に、いったいどれだけの数の犬たちの骨が微塵にくだかれ、詰め込まれているのだろう。少しでも"ゴミ(骨)"の嵩を減らすため、骨までも粉々にくだかれ、犬たちは跡形もなく、この世から姿を消していくのだ。
『 犬たちをおくる日
』 今西 乃子、 浜田 一男
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この処分場では、1年間でおよそ4000頭の犬が殺処分されるそうだ。
どの犬も、どの犬も、いつかきっと飼い主が迎えに来てくれるって人間を信じ切っているような目をしているんだそうだ。
けど、そんな願いも叶わず、上のような結果になる……。
子犬のうちは可愛かったけど、犬が大きくなって、可愛くなくなったから、って理由でこのセンターに持ってくる飼い主が後を絶たないんだそうだ。
さぁ、受験生諸君!
非合理的な(衝動や感情や気分にもとづいた)判断をしてみよう!
『犬たちが可哀想だ!!』
『すぐに殺すのを止めるべきだ!』
『ひどすぎる!何て人間は身勝手なんだ!愚かな人間なんて存在する意味がない!』
『人間のエゴ、丸出しである!』
『もっと市民が動物愛護の精神を持つべきである!』
『無責任な飼い主こそ、殺処分されるべきである!』
うん。
これが非合理的な(衝動や感情や気分にもとづいた)判断なんだ。
なぜ?
だって、実現不可能なことを言うだけで、何の問題の解決にもならないじゃないか!
そう。
衝動や感情や気分でモノを言っているだけ!!
…どうだ?
そう。
意見を言うってのは、こんなことじゃない!!
もっと建設的な話をするの!
例えば、この話でもっとも多い意見(と勘違いした衝動)は、無責任な飼い主を責める類のお話だ。
けど、冷静に考えてみよう!
確かに、無責任な飼い主を1人でも減らすことが出来れば、それだけ、ムダに殺される犬は減るだろう。けど、どんなに犯罪者を逮捕したところで社会から犯罪が無くならないのと同じように、どんなに無責任な飼い主を責めたところで、そういう人たちは決していなくならない!
引用したこの本の著者も書いてるとおり、『かわいそう!』って気持ちだけでは何も解決しないんだ。
つまり、こういう主張は、意見としては意見になっていない、単なる非合理的な(衝動や感情や気分にもとづいた)判断なんだ!
建設的な話ではない。
こんな話の他に、良く『戦争』について例に出したりする。
戦争ってのは愚かな人間の欲望が生み出したものである。だから、戦争をなくすためには欲望をコントロールすべきである。
こんなことを口にする受験生がいるけど、この発想自体、愚かな話だ。欲望をコントロールできないから戦争が起こるんであって、その人間の欲望を無くすことは不可能な話し!つまり、出来もしないことを述べて善人ぶってる“偽善者”の意見に過ぎない!
犬の話も同じ!
無責任な飼い主なんて決していなくならないの!それを理解した上でどうしたらいいのか、それを述べるのが“意見”なんだ。
そうでなければ、ある漫画のキャラクターを見て『萌え〜〜!』って言ってるのと同じだよ(苦笑)。
戦争の話で言うなら、人間は欲望をコントロールできないほど弱い生き物なんだ。だったら、コントロールできない欲望を認めたうえで、そこから別の戦争を防ぐ方法を考える、それが建設的な意見。
犬の話で言うなら、当然、無責任な飼い主たちの啓蒙も大切だが、そういう人もいて、いろいろな価値観を持った大勢の人たちがひしめき合う社会の中で、どんな方法を使ったら、犬たちの悲劇を減らすことが出来るかを考える。
そのためには、当然、勉強もしなければ、何もしなければ意見なんて言えない!
法学部の人なら、どんな社会的なことを考えるだろうか?
経済・経営学部志望の受験生なら、どんなことを考えるだろうか?
教育学部志望だったら?
文学部志望だったら?
理科系だったら?
君たちなら、どんなことを考える?
それを問うてるのが小論文の試験だ。
2011年
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