White breath




太正14年 12月24日 クリスマス・イヴ・・・。 「帰りましょうか…」 教会のドアを静かに閉めた後、隣で待っていてくれた彼女が口を開く。 そう言った彼女だったが、微かに名残惜しそうに立ち止まったまま空を眺めている。 あれだけ降っていた雪も止み、今は星が輝く夜空に彼女は何を思うのだろう・・・。 先程彼女と二人で祈りを捧げた時、真っ先に浮かんだのが彼女の事だった。 勿論、帝都の平和や皆の幸せを祈らなかった訳ではないのだが・・・。 自分の職務を鑑みても、一時であれ余所事を考えている暇は無いと思う。 でも、こうしている今も彼女に見惚れたまま目を離せない自分がいる…。 彼女に対する思い、この胸の奥から湧き上る気持・・・。 先程は逸らかされてしまった彼女の言葉、最後まで聞く事は叶わなかったが、何となく 分かると思うのは自分の己惚れなのだろうか。 しかし、お互い仕種や雰囲気で分かっていても、言葉にしなければいけない気持もある と思う。 はっきりとした気持を伝えるのは、今が最高のチャンスなのかもしれない…。 「マリア…」 自分の呼びかけに振り返る彼女を正面から見てしまうと、思わず言葉が詰る。 「………」 「………」 「行こうか…」 僅かな沈黙の後、口を割って出たのは自分の思いとは違う一言…。 言葉に出来なかった気持の残滓が混じった吐息は白く夜空に上って行く。 「はい…」 一瞬だけ複雑な表情を浮かべた後、柔らかな笑みを乗せた彼女の返事・・・。 互いの白い吐息が絡み合いながら空に上がって行く。 そんな光景を二人で眺めていると、先程まで感じた焦燥にも似た切迫感も不思議と薄ら いで行く。 今日と云う日の意味を詳しく知っている訳ではない。 しかし、かけがえの無い仲間や大切な人と、この日この時を過ごす喜びは知っている。 『クリスマスだから、特別な日だからって無理に焦って何かをする必要も無いのかもしれ ない・・・』 ただ今は彼女とこの一瞬を過ごせる事で十分に幸せを感じる事が出来るから…。

偶然触れたマリアの指先を絡め合い手を繋ぐ大神。 そうして彼女の手を引きながら、薄く積もり始めた雪道を歩き出す。 まだ誰も歩いていない何処までも続く白い道は、二人の未来を感じさせた…。





↑↑
2003 X'mas Dinner Showへは此方からお戻りください。


戻る