「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」
とは何ぞや?



ようこそ、「ともゆきのホームページ」へ。
私のHPで発表した数々の作品を見て「私もミステリーを書いてみようかな」と思った人
もいると思います。私は「ミステリーを書くこと自体はそんなに難しくはない」と思って
ますが、ただ、ミステリーを書く際に皆さんに注意して欲しいことがあります。

ミステリーと言うヤツは何とか犯人を解決編まで解らせないようにしようとする作者と、
文中の探偵役より1ページでも1行でも早く犯人を見つけだそうとしている読者の間で繰
り広げられる一種の知的ゲームみたいなものです。スポーツやゲームでイカサマをやって
勝ったら非難されてしまうのと同じようにミステリーも出来る限り公平なルールで戦わな
ければならないのは当然の理屈。そう思ったのか、作家の中にはその「ルール」を作った
人もいるのです。その中で有名なのが「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」と言
われているものです。

1928年、ロナルド・ノックス、ヴァン・ダインという二人の推理作家が「ミステリー
を書く際これだけは守るべき項目」というまあいわば「ミステリーの基本的ルール」とで
も言うべき「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」というものをそれぞれ残しました。
これを読むと、彼らがミステリーというものをどのように考えており、また、如何に
「読んでいて面白い物を書こうか」と考えていたのかがわかると思います。
「これからミステリーを書いてみようかな」と思っている人は参考にしていただければ
幸いです。
勿論、これはあくまでも基本ルール。シチ面倒くさく守る必要はなく、「十戒」「二十則」
に違反しても面白い作品は数多くあるもの。面白い作品が書けるかどうかはあくまでも作
者本人の腕によるものだ、と言うものをお忘れなく。
なお、赤字で書いているものは私(ともゆき)の解説並びに感想です。

「ノックスの十戒」を読む
「ヴァン・ダインの二十則」を読む




「ノックスの十戒」
(訳・藤原宰太郎「世界の名探偵50人」1984年 KKベストセラーズより)

1. 犯人は物語の始めのほうで登場している人物でなければならない。
 まあ、当然と言えば当然。いきなり最後の方で出てきて「実は私が犯人です」という結果じ
 ゃ読者が怒りますわな。


2. 探偵方法に超自然の能力を用いてはいけない。
 つまりこれは超能力や魔術を使って推理してはいけない、と言うことですね。

3. 犯行現場に秘密の抜け穴や通路を使ってはいけない。
 後にも書いてますが、もし使う場合であったらあらかじめそれとわかるように知らせてお
 かなければいけません。


4.未発見の毒薬や難しい科学上の説明を要する装置を犯行に使ってはならない。
 解りやすく言えば「コナン」で阿笠博士が発明した数々の道具を犯行の道具として使って
 はいけない、と言う事。


5.中国人を登場させてはいけない。
 今の目で見りゃ差別表現もいいところなんだが、この「十戒」が書かれた当時、中国人は
 神秘的な存在と誤解されていたので、この項目を加えたんでしょうね。


6. 偶然や第六感で探偵は事件を解決してはいけない。
 第1項や第2項と同様あてずっぽうに言ったら「実は彼が犯人でした」では推理小説の意
 味がないですからね。


7.探偵自身が犯人であってはいけない。但し犯人が探偵に変装して、作中の登場人物を
騙す場合はよい。
 後半を解りやすく言えば「真犯人が探偵役を装い、自らが作ったニセの証拠を使って誰か
 に濡れ衣を着せる目的で罠を仕掛けるのはよい」ということです。


8. 探偵は読者に提出しない手がかりで解決してはいけない。
 つまり、必ず探偵役(及び作者)は犯人解決のための手がかりとなるものは全部出しなさ
 い、と言う事です。


9. 探偵のワトスン役(物語の記述者)は自分の判断を全て読者に知らせなければならな
い。
 あくまでも記述者も事件の傍観者である事を忘れるな、と言う事でしょうか。

10. 双生児や一人二役の変装は、あらかじめ読者に知らせておかねばならない。
 結局これは第8項や第9項同様「手がかりとなるものはあらかじめ全部出しなさい」とい
 うことですね。




「ヴァン・ダインの二十則」
(訳・藤原宰太郎「真夜中のミステリー読本」1990年 KKベストセラーズより)

1.事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
 これは「ノックスの十戒」同様のことを言ってますね。

2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をし
てはいけない。
 ヴァン・ダインは所謂「叙述トリック」というものが嫌いだったようで、このような規則を
 加えています。


3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミス
テリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚
の祭壇に導くことではない。
 要は途中でラブロマンスまがいの話をダラダラと引き延ばすな、と言う事でしょうか?

4.探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らず
のペテンである。

5.論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供
によって事件を解決してはいけない。
 上2項は「ノックスの十戒」と同じ事を言ってますね。

6.探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件
を解決しなければならない。
 これは基本中の基本。探偵役がいなければミステリーは成り立ちません。

7.長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続でき
ない。
 勿論例外も多いがやはり一番インパクトが強いのは殺人事件、と言う事ですね。

8. 占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
 あくまでもミステリーは推理小説であるから、オカルトには頼るな、と言う事です。

9. 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推
理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリ
レーチームと競争させるようなものである。
 最近は複数の探偵役がチームで組んでいる場合も多いから余り重要でないかも。

10. 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり
登場した人物に罪を着せるのは。その作者の無能を告白するようなものである。
 「ノックスの十戒」の第1項のルールをもう少し緩くしたものです。

11. 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪な
らわざわざ本に書くほどの事はない。
 勿論使用人が前項のように「重要な役」であればこの限りではありません。

12. いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者
がいてもよい。
 まあ、確かに現実の事件でも「主犯」と「共犯」がいますね。

13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織
に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるので
アンフェアである。
 いわば「コナン」で殺人事件の犯人が「黒の組織」の一員だった、と言うのは避けろ、と
 言う事です。


14. 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学
的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。

15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポー
ツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
 この辺は「ノックスの十戒」と同じ事を言ってますね

16. よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。
 勿論「情景描写」が事件解決の手がかりになれば話は別でしょうけど。

17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事であ
る。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
 第13項と同じようなものです。

18. 事件の結末を事故死とか自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテン
にかけるものだ。
 短編ならとにかく、長編だったらこのような結末では「今までの話はなんだったんだ」と
 言う事になりますしね…。


19. 犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀とか政治的な動機はスパイ小説に属
する。
 まあ、普通殺人事件というのは「個人的な怨恨」が動機ですからね。

20. 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは
既に使い古された陳腐なものである。
 A.犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を
 決める方法。
 B.インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる。
 C.指紋の偽造トリック
 D.替え玉によるアリバイ工作
 E.番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる。
 F.双子の替え玉トリック。
 「ノックスの十戒」第10項と同じで、この場合あらかじめそれとなく解るようにしな
 ければいけません。

 G.皮下注射や即死する毒薬の使用
 何だかよくわからないが、「こっそりと注射をして殺害してはいけない」ということ?
 H.警官が踏み込んだ後での密室殺人
 どうやら「密室に偽装した部屋に、犯人が発見者のふりをして、警官といっしょに踏
 み込んだ後に隙を見て、犯人が被害者をすばやく殺す」(「真夜中のミステリー読本」
 より)ことをしてはいけない、ということのようです。

 I.言葉の連想テストで犯人を指摘すること。
 J.土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法。
 暗号を解く際にはそれなりの過程と言うものが必要ですからね。



戻る