資源(食材)としてのトド
北海道での事例


 「トドを食べる」と聞くと、ちょっと違和感を感じる人が多いかもしれません。鯨と同様、食に関しては様々な意見(価値観)があるし、同時に意見交換することの難しさも知っているつもりです。

 ここでは、北海道で実際にトドを食べている地域があるので、事例として紹介したいと思います。


 紹介するのは、日本最北の島、礼文島。ここでは、害獣駆除として撃ったトドを肉、脂身まで解体し、地元で消費している。聞けば、交通の便が発達していなかった頃から、冬期間閉ざされた地域での重要なタンパク源であったというのだ。さすがに今はそんな時代ではないが、今でも好んで消費する人たちは多く、1頭上がるとほぼ1つの町内で消費されてしまう。


 肉の臭みを抜く方法が上手で、これを使った味噌ベースの伝統的なトド鍋がある。脂身を多く入れるため、スープ自体がトロトロな状態になり、かなりこってりとした、そして少し甘みを感じる味だ。血生臭さは全く感じられない。むしろ、肉を噛んだときのかすかな甘みが味噌と相まって後を引く。海産哺乳類は筋肉中に多くの血液(ミオグロビン)を溜め込むことで潜水能力を向上させている。このため、トドの生肉をそのまま焼肉にすれば、真っ黒で血の焦げた味しかしない。歯ごたえも相当悪く、ゴムを噛んでいるようだ。つまり、血抜きを上手にできるかどうかが鍵となるのだ。礼文島では、肉を一度冷凍させてから薄くスライスし(冷凍しないと薄く切れない)、これを大量のお湯を煮立たせてから肉を入れ、あく抜きをする。あくの量は半端ではないが、何度もすくって丁寧に仕上げる。最後に肉をざるに開け、冷水でもむようにして洗い流す。冬の北海道の場合、水道水そのものが冷水だ。不思議なことに、入れる脂の量に反して、かなりの量を食べたとしても、なぜか後に胃もたれがしない。この他にも、無駄なくトドを消費できるよう様々な調理方法が試みられていた。

 例えば、指と指の間の脂身を一度湯がき、酢味噌で和えたものがある。味というよりは、歯ごたえを楽しむ感じの料理だ。 (写真右→)



 また、知床の羅臼でもトド肉を食べる習慣がある。観光客向けの食堂も有名だが、ハンター(トド撃ち)に教わった教わった食べ方は普通の焼肉だった。たれは醤油で、ここに多量のコショウを入れてつけて食べる。どんなにコショウを多く入れても辛くならないのだとか。この方法で食べたが、確かになかなかの味だった。焼肉にする肉は礼文のような血抜きは行っていないが、撃った後に海中に数日入れておき、自然に血が抜けるのを待つという方法を取っていた。

 さらに、札幌のすすきのにもトド肉を出すお店がある。知床らうす亭というお店で、大和煮、から揚げ、ルイベ(凍らせて薄くスライスしたもの)の3種類を出している。女将さん曰く、「駆除され、ただ死んだのではもったいないので、有効活用したいと思って出している。貴重な種だということも知っているので、宴会料理などには出さない方針だ。お客さんの中には批判の声もあるし、意外とおいしいと言って、北海道の思い出にしてくれている場合もある。」とのこと。トド問題に直面している1つの現場がここにもあると私は勝手に思っている。




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