第69回  少年のような恋にエール

ニュースで、厚生労働省は2007年の日本人の平均寿命を伝えていた。
女性85・99歳、男性79・17歳と、過去最高を更新したと発表した。

女性は23年連続で長寿世界一であり、
二位は香港の85・44歳、三位がフランス84・1歳。
男性長寿世界一はアイスランドの79・4歳、次いで香港の79・3歳、
第3位が日本だった。

意外に思ったのは、男性世界一のアイスランド、
香港が男女とも第二位につけていることである。

アイスランドは、寒くてどちらかというと暮らしにくい印象があるが、
実際は快適なのだろうか。
香港は二度ほど行ったことがあるが、
自然環境の少ない人工的な都市のイメージがあり、
同じく暮らしにくいのではとの印象を持った。

長寿の内容にしても気になるが、高齢者が長寿を満喫できているのか、
あるいはただ生きながらえているだけなのか。
いずれにしても日本はまぎれもなく長寿大国でありますが、
それを素直に喜んでよい社会環境なのだろうか。

最近の新聞でも40代の娘が92歳の父親を殺した記事がある。
この娘は母親も介護していた。
高齢の肉親を殺す内容の事件の一方で、
80歳代の高齢者が、可愛い孫まで巻き添えにして一家皆殺しという、
おぞましいニュースも近ごろは聞かれるようになった。

高齢者が暮らしにくくなった国は、子供たちにとっても同様であるのか。
これらは自分の生まれた国に夢が持てない状況ということになるが、
後期高齢者医療制度など医療の中で高齢者を住み分けするような、
世界に稀な制度などからしても、
高齢者が住みよい社会環境とは言えないかもしれない。

そんな中、読売新聞の人生案内欄で
「横恋慕する80代男性」のタイトルが目についた。

人生案内は読者の相談ごとに対して評論家や医者、著名人等が回答するもので、
ご本人の投稿内容は以下の通り。

<80歳代の男性。老人施設で暮らしています。
体調が良くなかったとき看護師さんに病院へ連れていってもらいました。
彼女は受付をてきぱき済ませ、診察時も先生の言われたことを小生の耳元で
小声でささやいてくれました。優しい看護師さんだと思い、
小生は彼女に恋慕するようになりました。
美人で立派な家庭の主婦です。恋して良いだろうかと己を叱り、
もんもんとする日々が始まりました。
この年になるまでこんな恋の道はなかったのです。
心労もあり小生は病に倒れてしまいました。病状は重く入院数することに。
彼女から年賀状で励ましの言葉をもらい小生も懸命に闘病しました。
退院することができ、一番に彼女に喜びを報告。
二人きりになったとき「好きです」と告白をしました。
今後どのようにしたらいいのでしょうか>

うーん、少年の初恋のような恋である。

評論家の樋口恵子さんの回答内容。

<「好きです」いい言葉ですね。「好きです」あなたの率直な思いです。
いくつになっても異性にときめくことは、生きる証のエネルギーです。
あなたはその「好きです」というエネルギーで病気に打ち勝ちました。
これからも親切で美人のその看護師さんにときどき「好きです」と
言ってよいと思います。
でも私はそこまでにしていただきたい。
心の中で縦横に羽ばたかせる愛の自由を誰も止めることはできません。
でもここは他の入居者や職員がいる施設という集団生活の場です。
その配慮が必要です。
彼女への愛の表現はできるだけおおっぴらに「好きです」がいいです。
あなたは「〇〇看護師の大フアン」と定評を取るようにふるまえば
よいのではないのでしょうか。
それでは道化みたいでイヤですか。
だとしたらどう真剣に取り組んだら決着がつくというのでしょう。
相手に詰め寄って困らせないのが、愛における年の功だと私は思います>

さすが人生の達人、見事な回答ぶりです。
芸能人の愛人騒ぎの報道合戦では、芸能人が否定すればするほど深追いされ、
騒ぎは大きくなるばかりですが、あっさり肯定すると以後の報道は沈下。
あの手の応用ですね。

しかし、ひとつ不安が。
愛の道には、せっかくの年の功も功を奏さないのではと心配になったが、
投稿内容から人物像を推察すると、きっと回答者の信頼に応えることでしょう。

高齢者に純粋なこのような情熱があることをうれしく思った。
少年のような恋が、大らかに80歳代の高齢者を照らしますように
祈らずにはいられませんでした。


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