第96回  パリコレクションの謎

新聞にパリコレクションの華やかなファッション写真が掲載されていた。
すてきなファッション写真はいつ眺めても楽しいものだが、
同時にこの手の写真を眺めていてそのつど疑問に思うことがある。

「こんな服を着て街を歩けるの?」

乳首やお尻が透けて見える過激なもの、
袋をいくつもつなぎ合わせたりの奇抜なもの、
布を極太のしめ縄みたいに編みこんだものを体にまきつけたり、
とてもじゃないけれど歩くのがシンドイようなものばかり。

ファッション界はこのようなモードコレクションの発表の場と、
街着のデザインとは区別されていているのだろうか。
そうでなければ実際に着用できないようなデザインの発表の場に、
バイヤーがかけつけるのはなぜ?

物識りで理由を知っている方もいらっしゃるかもしれないが、
わたしはここで理由を知りたいとは思わない。
知りたければパソコンで情報収集すればすぐにわかるけれど、敢えてしなかった。

理由は、わたしのコラムにはふたつのタイプがある。
わたしが(一般の人)感じた疑問について調べた結果をコラムにする場合と、
今回のように疑問を敢えて調べないままストレートに書いて
読者に委ねるタイプとに分けている。

たぶん読者の中にもわたしと同じように、
「アレ、んまぁ」と、つい声をあげてしまいそうな過激なデザインを目にしたとき、
「あれを着て街を歩けっていうの?」と疑問に感じたり、
「実際に着て歩けないようなものをなぜ発表するの」と思うに違いないと
確信できるから。

そしてわたしがいつも思うのは、
なぜ人はそれほどまでに、ファッションの流行を追いたがるのだろうという疑問。
各種のメディアが発信する流行が、あっという間にたちまち世の中を席捲する。

さまざまなシーンで「人より目立ちたい」という理由が、
一刻も早く流行を取り入れたいという心理を働かせるようでもあるが、
その結果、誰もが同じスタイルをする金太郎飴状態では、
やはり ? のマークがついてしまう。

また、周囲と同じでなければ取り残されてしまうという心理が働くならば、
これもまた? でしかない。

これらの観点からすると、
わたしは流行ファッションからは最も遠い位置にある人間ということになる。
まったく流行には左右されないで、それが好きだからという理由だけで、
20年以上も前のスタイルを未だに貫いているのだから。

したがって、自分のスタイルにケチをつけられると猛烈と腹が立ち、
大きなお世話と言いたくなる。

時間つぶしにめずらしくのぞいたブティックで、
最新モードでがっちり武装した販売員から
「あら、珍しい。今でも肩パット入りの洋服!」と、
あきれ顔で囁かれると反論したくなる。

(それがどうかした? 文句ある?)

要するに、最新流行で固めたファッション通からすれば、
わたしのファッションはオカシイということになるのだろう。

わたしは細身で背が高いから、
肩パット入りのゆったりした身頃のブラウスやジャケットで装うのが好き。
ゆったりしたデザインがゆえに細身が強調されて、
すこしおしゃれで粋に見えるのではないかと
勝手に自分だけで満足しているのである。

そのわたしからみれば、
近ごろ街中に氾濫している裄丈が短くて身頃がぴっちりした若い女性の洋服は、
昔ならば「ツンツルテン」と形容されたもので、
粗悪な生地のために洗濯後に縮んでしまった洋服と同じスタイルである。

つまり、昔はあまり格好のよくない代物であった。

わたしにしてみれば、「最新モードはみっともない」ということになり、
要するにお互いさまということになる。

わたしはメディアや企業が矢継ぎ早に打ち出す、
目まぐるしい「商業ベース」には安易に乗らないように
ファッションのみならず生活全般に心がけている。

姪の結婚式があった。
洋服を買いに行くのも面倒で、どうせ合うものはないだろうと、
20年以上も前に買ったゴルチェの黒のジャンプスーツの胸に花を飾って出席した。

新宿のタカノという店でそれを見たとき、ゴルチェとは知らなかった。
黒のつなぎのスーツは上質の生地の割にはわたしのような貧乏性でも買える、
2万円というバーゲン価格だったので、それにつられた。

わたしが買う洋服は1万円以下、高くても2万円どまりと決めているが、
しゃれた感じだったのでアクセサリー次第で立派なパーティ着となると直感した。
買ってはみたもののほとんど着用しなかったので、
それを引っ張り出したのである。

披露パティー後に、姪が言った。

「お友達がみんなおばちゃんのことモデルさんみたいだって、わたし鼻が高かった」

どう、参ったか!
肩パットのどこが悪い!
流行がなんだ!

20年前のファッションスタイルを未だに堅守している今でも、
「モデルさんをしていたのですか?」とよく聞かれる。

美容師さん、初めて会った人、立ち寄ったお店の人、八百屋のオジサン、
骨折で入院した際に接した看護士さん等々。

しかし、まったく気に入らない。
どうしてみんな口を揃えて<過去形>なの? 

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