都鳥廓白浪 黙阿弥の出世作 2004.10.15 W91 | ||||||||||||||||
8日に歌舞伎座昼の部をみてきました。
「都鳥廓白浪」(みやこどりながれのしらなみ)のあらすじ ここ隅田川のほとりへ、班女の前と梅若が中間の軍助を伴ってやってくる。旧臣の山田六郎の女房になっている軍助の娘・お梶を頼ってきたのだ。しかし捕り方に追われて一行は散り散りになってしまう。 母から旅の費用の二百両と吉田家の系図を預かった梅若は一人落ち延びるが、非人たちに金を奪われそうになったところをやってきた駕籠に救われる。そこで差込みをおこした梅若は、駕籠から降りてきた目の不自由な忍ぶの惣太に介抱される。 実は忍ぶの惣太は梅若たちが訪ねてきた山田六郎で、不義の罪で処罰されそうになったところを班女の前の情けで命を助けられ、お梶と二人で向島で植木屋をしながら桜餅を売ってくらしていた。 その惣太、吉田家の騒動を噂に聞いて松若を探していたところ、廓に松若に良く似た花子という傾城を見つけ、万一の時に松若の身替りにと考えて通っていたが、眼病を患って目が見えなくなってしまう。 丁度そのころ「都鳥の印」が百両で売りに出されていると聞いた惣太は金策に奔走するが、期限が明日に迫った今になっても金が手に入らなくて困り果てていた。 そんな時ふとしたことで梅若が二百両という大金をもっていることを知った惣太は、目が見えないために介抱したその少年が梅若だと知らないまま、その金をなんとか貸してくれるように頼むが、もちろん貸してはもらえず、もみあううちにあやまって梅若を殺してしまう。しかたなく梅若の死体を隅田川に流し系図と金をもって立ち去ろうとすると、そこへやってきた宵寝の丑市にぶつかり、金を落としてしまう。 暗闇の中で探り合うところへ、廓を抜け出してきた花子、それを追って花子を身請けしようという葛飾十右衛門も来合わせ、系図は丑市が、そして金は百両づつ惣太と十右衛門が手にする。 二幕目 花子と一間へ入ってしまった惣太を奥で見ていた軍助は腹を立てるが、吉田家伝来の眼病に効く秘薬をそっと置いて出て行く。 そこへ廓から閻魔の庄兵衛と、小袖の損料を取り立てようとする喜兵衛がやってくる。花子を身請けすると言う惣太だが、そこへ花子はゆずらないと言う葛飾十右衛門も登場する。 せっぱつまった惣太は、道具屋小兵衛に都鳥の印の代金として梅若から奪った百両を払い、「都鳥の印」を自分の心の証として花子へ渡す。 しかしそれ以上金がないので、喜兵衛に着物を剥ぎ取られてしまう。その有様を見て花子は惣太と自分が交わした起請文を十右衛門に渡し、金を貸してくれるように頼むと十右衛門はこれを承知し、「お梶を見捨てぬように」と言いおいて出て行く。。実は十右衛門はお梶の幼い頃生き別れた兄だったのだ。 皆が帰った後、花子が惣太の肩を揉んでいるところへ盗賊がやってくる。実は花子は天狗小僧霧太郎という盗賊で、惣太の目の見えないのをいいことに道具類を盗み出す。そこへ手下の一人丑市もやきて花子は惣太を散々いたぶったあげく「都鳥の印」をすり替えて立ち去る。 そこへ軍助が帰ってきて、梅若が殺されたと話し、殺しの証拠の手拭を差し出す。惣太は自分が殺したのが旧主の梅若丸だったと知り驚愕して、「都鳥の印」を軍助に差し出すが、すでにすり替えられた後。 軍助は腹を切って死のうとするが、それをとめようとする惣太は弾みで軍助を切ってしまい、軍助は井戸へ飛び込み自殺する。惣太も腹を切ろうとするが、それを止めたのは、すでに自らの胸を突いて死に掛かっているお梶。軍助がくれた眼病の妙薬に自分の血を混ぜて惣太に飲ませると、たちまち惣太の目は見えるようになる。それを見届けて、お梶は息絶える。惣太は丑市の家へ急ぐ。 第三幕 そこへ惣太がやってきて、都鳥の印を返せと迫るので斬り合いになり、松若は惣太を切る。すると惣太は梅若を殺してしまった次第を打ち明け、自分の首を梅若の墓前へ手向けてくれと言うので、松若はその望みをかなえるために惣太の首を打ち落とす。 そこへお市の訴人によって捕り方がやってくるが、松若は手下の蜂蔵に食事をもってこさせ、ゆうゆうと食べながら捕り方をあしらうのだった。 河竹黙阿弥の出世作と言われる「都鳥廓白浪」は1854年に江戸河原崎座で、惣太は小団次、花子実は松若は志うか、梅若は由次郎(後の三世田之助)によって初演されました。黙阿弥と小団次はこの作品の成功をきっかけに、手を組むことになったという重要な作品です。 「隅田川」の世界を借りたこの作品は、最初から三囲神社や待乳山聖天が遠見にあったり、長命寺の櫻餅屋が登場したりして、江戸らしい雰囲気があふれたお芝居です。 仁左衛門がこの役を演じるのは22年ぶり。茄子紺に白で隅田川の流れに櫻と都鳥(ゆりかもめ)を描いた着物、お祭りつきの鬘が良く似合って、美しい役者ぶり。 4年前にこのお芝居を見た時の印象は、菊五郎の演じた花子実は松若の印象が強烈でしたが、この芝居は通称「忍ぶの惣太」と言うくらいで、今回は特に前半は仁左衛門の惣太の芝居だなと感じました。 梅若を殺す前、本舞台に惣太と花道七三の梅若の渡り科白の面白さが心に残りました。 梅若を殺した後の、惣太、花子、丑市、十右衛門の4人によるだんまり、幕切れでは惣太と十右衛門が丑市が乗った駕籠の前後に立って駕籠を半分ひっくり返し、もう一人の主人公花子は一人花道七三というちょっと珍しい見得で、ここは歌舞伎美を堪能。 「惣太内の場」ではお梶の時蔵がユーモラスな場面をほのぼのと演じ、良かったです。半人庄兵衛の菊十郎がいかにもそれらしい胡散臭い人物に見えました。段四郎の十右衛門は昼夜3つの初役にはちょっと無理があったようで、科白が不安なのは惜しかったです。 「原庭按摩宿の場」になると花子が天狗霧太郎という男性だったと明らかになり、丑市の願いを聞いて又花子に戻ったり、兼ねる役者・菊五郎の独壇場。花子と霧太郎実は松若、どっちになっても違和感のない菊五郎はまさにこの役にぴったりの役者です。 最後は霧太郎の手下の木の葉の蜂蔵が捕り方に引っ立てられてくるのですが、これが仁左衛門の早替り。下がったゲジゲジ眉毛をつけているので、一寸見はだれだかわからないためか、ガラリと戸を開けた松若の菊五郎が「あぁ、孝夫か」と言うのには笑えました。この蜂蔵の方は前回の團十郎のおおらかでユーモラスな芸風があっていたように思います。 眼目の「おまんまの立廻り」は、前髪姿で黒の着付けの菊五郎がどっかと腰掛けて、ご飯を食べながら捕り方をあしらうのですが、長々と糸をひいている納豆や沢庵を使っての立廻りというのはとてもユニークで楽しいものです。幕切れは菊五郎の松若が片足で捕り方をふんずけながら片手で差し出す茶碗に、仁左衛門の蜂蔵が同じく片手で土瓶からお茶をつごうというところで柝の頭になりました。 他には幸四郎の熊谷陣屋。芝翫の相模が小次郎の首を懐紙の上に載せていたのが、この間の時蔵の相模が打掛の上に載せたのと違っていました。今回時蔵は藤の方を演じました。義経を演じた梅玉の後ろに黄色の着物を着た人がいて誰だろうと思ったんですが、合びきを支えている後見なのかなと思います。 それと梅玉と歌昇の舞踊、「寿猩々」でした。猩々とは不老長寿の福酒の神だそうで、格調の高い踊りでした。 |
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この日の大向こう |
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多い時は4〜5人の声が聞こえていましたが、会の方はお一人だったようです。 「熊谷陣屋」では花道に熊谷が登場した時は掛けないで、花道七三で袖の中に手を入れて突き袖をした時に、「高麗屋」と掛かっていました。それから本舞台に行って、妻の相模が来ているのに気がついた熊谷が思い入れの後、大きく袴を両手でポンとたたく時、このときも一斉に声が掛かりました。 「都鳥廓白浪」の最後の方で女の方が、菊五郎さんに「七代目!」と掛けていらっしゃいました。感じは良かったんですが、世話物には本当は〜代目というのは合わない上に、惣太がいますのでなおのことなのだそうです。 |
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