四谷怪談 笑える怪談 2004.8.20

14日、歌舞伎座第三部を見てきました。

主な配役
お岩
佐藤与茂七
小仏小平
勘九郎
伊右衛門 橋之助
お梅 七之助
伊藤喜兵衛 市蔵
按摩宅悦 弥十郎
お袖
小平女房お花
福助
直助権兵衛 三津五郎

「東海道四谷怪談」のあらすじ
序幕
浅草観世音額堂の場
按摩宅悦内の場
浅草観世音裏地蔵前の場
同田圃の場

塩冶判官が殿中で高師直に刃傷に及んだために、塩冶家は断絶となり家来たちは浪人となった。元塩冶の家臣、民谷伊右衛門は仇を討とうという気など全くないばかりか、以前主家の御用金を盗んだ張本人。

伊右衛門の妻・お岩の父・四谷左門は、伊右衛門が盗人だと感づいて、身ごもっているお岩を離縁させて連れ戻す。お岩の妹お袖の許婚・佐藤与茂七は主君のあだ討ちのために奔走していて現在行方がしれない。

生活力のない左門は浅草観世音境内で物乞いをし、お岩は夜鷹、お袖は昼は観世音額堂前の楊枝屋に勤め夜は按摩宅悦の経営する地獄宿で身を売っている。

ある日物乞いたちに袋叩きにあっている左門を伊右衛門が助け、お岩との復縁を頼むが、きっぱりと断られたばかりか御用金盗難のことも指摘され左門に殺意をいだく。

一方与茂七は許嫁のお袖がこのあたりにいると聞いてやってくるが、宅悦の女房から良い女がいると聞いて地獄宿へ女を買いにいくことにする。

今は藤八五文の薬売りになっている元塩冶家臣奥田家の下僕・直助は、楊枝屋でかねてから横恋慕しているお袖に言い寄るが、身分違いとはねつけられる。しかしお袖が地獄宿へ出ていることを聞きつけ、その晩地獄宿へやってくる。

直助は金づくでお袖をくどくが、お袖は許婚与茂七への操をたてに首をたてにふらない。その後へやって来た与茂七は相方として出てきたお袖に気がつき、口喧嘩になるが結局二人は仲直りして一緒に帰っていく。お袖を取られた直助は、与茂七を殺そうと宿の提灯を目印に後を追う。

与茂七は裏田圃で奥田庄三郎と会い由良之助からの廻文状を受け取り、敵の目をくらますためにお互いが着ている物を交換して、庄三郎は与茂七の持ってきた提灯を受け取る。

一方伊右衛門は同じ裏田圃で左門を切り殺す。そこへやってきた直助は旧主の息子庄三郎を与茂七と思い込んで殺し、顔面の皮をそぐ。偶然であった伊右衛門と直助は人殺し同士、手を結ぶ。そうするところへ夜鷹姿のお岩と、お袖がやってきて父親と許婚が殺されているのを見つける。

伊右衛門と直助は偶然とおりかかったふりをして、二人にそれぞれの敵を討ってやろうともちかける。身内でなければ敵討ちはできないので、伊右衛門はお岩と復縁し、お袖は直助と仮の夫婦となることを約束する。

二幕目
雑司ヶ谷四ツ谷町、 伊右衛門浪宅の場
伊藤喜兵衛宅の場
元の伊右衛門浪宅の場

お岩と伊右衛門は雑司ヶ谷の浪宅で暮らしているが、お岩は産後の肥立ちが悪く、床にふせっているので按摩の宅悦が手伝いにきている。伊右衛門は約束した左門の仇討ちなどどこへやら、貧しいのに子供を生んだといってお岩を邪険にあつかう。

おりしも小仏小平という若者が主人のために、民谷家に伝わるソウキセイという秘薬を盗みに入ったのを伊右衛門の仲間が捕らえ、縛り上げ戸棚の中に放りこむ。

ここへ隣家の伊藤家から乳母お槙が、お岩のためにと家伝の血の道の妙薬を、子供には小袖を届けにくる。伊右衛門は礼を言いに隣家へ出かけていく。

お岩が伊藤家から届けられた薬を飲むと、俄かに顔が熱を持ち苦しみ始める。

一方伊藤家で歓待された伊右衛門は、彼に一目ぼれした孫娘・お梅を嫁にもらってくれないかと頼まれる。伊右衛門が「妻があるから」と断ると喜兵衛は「さっき届けた血の道の妙薬が実は飲むと面体が変わる毒薬」と打ち明ける。伊右衛門は高家へ推挙してくれることを条件に婿入りを承諾する。

伊右衛門の家ではお岩の顔が見るも無残に崩れてきて、そこへ帰ってきた伊右衛門はお岩に「新しい嫁を取ることにした」と赤子の着物、お岩の着ている物、それに蚊帳を質屋に持っていくために奪う。そして宅悦に「離縁する口実をつくるためにお岩に不義をしかけろ」と耳打ちして立ち去る。

宅悦はやむなくお岩に言い寄ろうとすると、お岩が落ちていた小平の脇差を抜いて切かかったはずみに刀は柱に突き刺さる。宅悦はこうなったわけを話し、お岩に鏡で自分の顔を見せる。

驚き嘆くお岩だが、「隣家へ挨拶へ行く」と鉄漿をつけ母の形見の鼈甲の櫛で髪を梳かし始める。すると髪の毛がごっそりと抜け落ちて一段とものすごい形相になる。伊右衛門と伊藤家一家を呪うお岩は、宅悦と争っているはずみに、柱に突き刺さった刀で咽喉を切って死ぬ。すると大きな鼠が赤子をさらっていく。

内祝言を済ませて帰宅した伊右衛門は、仲間の秋山らと戸棚から小平を引き出して殺し、戸板の裏と表にお岩と小平の死体を打ち付け、二人に不義の汚名をきせて川に流す。

そこへ嫁入りしてきたお梅と付き添ってきた喜兵衛だが、彼らにお岩と小平の亡霊が取り付き、幻惑された伊右衛門は二人の首を打ち落としてしまう。

三幕目
砂村隠亡堀の場
ここは深川隠亡堀。伊藤家の娘お弓と乳母お槙は非人に落ちぶれ、ここで暮らしている。しかしお槙は大きな鼠に堀へ引きこまれ、
お弓は気を失う。

そこへ鰻かき権兵衛と名乗っている直助がやってきて、鰻をかいているうちに川の中からお岩の髪の毛がひっかかった鼈甲の櫛を拾う。

その後今では蛇山の庵室に身を隠れすみ、人目をさけてこの場所へ釣りにやってきた伊右衛門は母親のお熊と出会う。

お熊は評判の良くない息子を案じ、いっそ死んだことにしようと卒塔婆を建てにやってきたのだ。お熊は以前高野家に奉公していて、そのとき師直にもらったお墨付きを息子に渡していく。ここで直助と伊右衛門は久しぶりに再会する。伊右衛門はお弓に気がつき堀へ蹴り落とす。

直助が去った後、伊右衛門も帰ろうとすると一枚の戸板が流れてくる。引き上げて菰を取り除けてみるとお岩の死骸が恨みごとを言う。裏へ返すと小平の死骸が手をさしのべて、「薬くだせえ」と訴える。

伊右衛門が再び戸板を流すと、直助、小平女房お花、与茂七、がやってきて、暗闇のなか探り合ううちに、与茂七の持っていた由良之助からの廻文状(かいもんじょう)が直助に、権兵衛と名の入った鰻かきの先の部分が与茂七の手におちる。

・・・深川の三角屋敷で、お袖は直助と仮の夫婦として暮らしていたが、姉お岩の死を知り、親と姉、許婚の敵を討ってもらうため、ついに直助と契りを結ぶ。

そこへ鰻かきの名前から直助が廻文状をもっているとあたりをつけた与茂七が訪ねてくる。許婚が生きていることを知ったお袖は、与茂七には直助を、直助には与茂七を殺す手引きをすると約束して、自分が身代わりとなり二人に自分を殺させる。

直助は与茂七から田圃裏で殺した相手が、旧主の息子奥田庄三郎だったことを聞き、そしてお袖の臍の緒書きからお袖が実の妹だったことを知って、与茂七に廻文状を返し、自害する。・・・今回はカットされた「三角屋敷の場」

大詰
蛇山庵室の場
仇討の場
お岩の亡霊に取り付かれた伊右衛門は病気になる。そこで母お熊が講中に百万遍を唱えてくれるようにと頼む。

するとお岩の亡霊が現れてお熊を取り殺す。そこへ師直のお墨付を預かった秋山がやってきて、毎晩鼠に悩まされているとこぼす。お墨付を見ると鼠に食い破られてボロボロになっている。帰ろうとする秋山をお岩の亡霊が仏壇の中に引きずり込む。

ここへ与茂七と小平女房お花が駆けつけて、伊右衛門を討ち、敵討ちを成就する。

四世鶴屋南北の代表作、「東海道四谷怪談」の初演は1825年7月、江戸中村座で一番目(時代物)を「仮名手本忠臣蔵」に二番目(世話物)として交互に挿み込むように2日がかりで上演されました。お岩・小平・与茂七の三役を三世菊五郎、伊右衛門を七世團十郎、直助を五世幸四郎という豪華メンバーでした。

ことに直助を初演したのが敵役で有名な鼻高幸四郎だったというのが、興味深く感じられます。三世菊五郎はお岩を生涯に9回も演じたことから、この狂言は「音羽屋の家の芸」として伝えられているそうです。

「隠亡堀」で伊右衛門が伊藤家のお弓を堀へ蹴落とすと、見ていた直助権兵衛が「お前もなかなかの悪党だ」と言うと伊右衛門が「これもこなたのお仕込みだ」とかえすのは、先輩の五世幸四郎に対する七世團十郎の楽屋オチだというのも面白いエピソード。生身の役者と劇中の人物が二重写しになるところです。

今回の勘九郎のお岩、伊藤家にもらった薬を飲むところをじっくりと丁寧に演じていて、なにも知らないお岩が伊藤家の方に向かって何度も頭を下げて感謝しながら、薬を一粒たりともこぼすまいと茶碗の上に薬包紙をかぶせてポンポンとはたいたりするところはリアルで上手く、お岩が本当に哀れだと思えました。お湯を取りに行こうと、よろよろと立ち上がってからの横顔を見せた極まりは非常に綺麗で印象に残りました。

けれども毒がまわって顔が無残に崩れ、せめて身だしなみをととのえようと髪を梳くところでは、抜けた髪を両手でおもちのようにのばしてみたり、まるで楽しんでいるように見えてしまいました。蛇山庵室の場では客席に亡霊が出没して、客席からキャーキャー悲鳴があがったり、勘九郎の四谷怪談には深刻さはほとんどなく、愉快なお化けのパーティといったところ。

以前勘九郎が中村座で法界坊をやったとき、最初は思いっきりおふざけでしたが「双面」ではきっちりと磨かれた芸を見せ、さすがだと思いました。今回の「四谷怪談」では毒薬を飲むところは気が入っていましたが、全体から見て、そういうところがちょっと少なすぎるように感じます。

しかしニューヨーク公演の成功のためか、役者さんたちが自信にあふれて見えました。宅悦の弥十郎も以前見た時よりも突っ込んだ演技でお岩の変貌を引き立てていましたが、本来はもっとこすからい嫌なやつでしょう。

ところで「隠亡堀」の勘九郎、戸板がえしでお岩から小平、そのあと柝の頭で与茂七になって登場する三役早替わりは信じられないほどすばやくて、ここはとても見事でした。お岩から小平は本来首だけだったのではと思いますが、今回は全身替わっていたのがすごかったです。この場の与茂七はきりっと格好良く見えました。

伊右衛門の橋之助は錦絵からぬけでたような色悪ぶりで、この役にぴったりでしたが、以前も書いたかも知れませんが、笑いながら口から息を吸わなければもっといいのにと感じました。あれでは伊右衛門の残酷薄情なところが充分出ないと思います。

勘九郎は四谷怪談を何度も手がけていますが、一度も三角屋敷を上演していないようです。今回も時間が足りないということで染五郎の舞台番が出てきて、幕外で三角屋敷のあらすじを説明しましたが、どうしてもはしょったような感は免れず、残念でした。

三津五郎の直助権兵衛はいかにも一癖ありげな胡散臭さがただよっていて、良かったです。福助のお袖も行儀良く演じていましたが、三角屋敷が出れば直助もお袖ももっとしどころがあって、芝居全体も見ごたえがあっただろうと思います。去年の「四谷怪談忠臣蔵」で猿之助が直助権兵衛を演じた「三角屋敷」は非常に面白かったです。

過去の上演記録を見てみると、勘三郎も歌右衛門も歌舞伎座で「三角屋敷の場」と「蛍狩の場」を出したことがあるようです。勘三郎が5時間4分、歌右衛門が5時間46分掛かったとありますが、どういう形で上演されたのでしょうか。

できれば先月の桜姫のように一部前の部で上演するなど何とか工夫して、次回はより完全な形の四谷怪談を見せていただけるよう願っています。

最後は切り口上で華やかな幕切れでした。

この日の大向こう

会の方も3〜4人見えていたそうで最初のうちからにぎやかに声が掛かっていました。一般の方も掛けていらしたようです。

お岩が薬を飲むために湯を取りに行こうとして、ふらふらと立ち上がった後の最初の本釣で「中村屋」と何人かがいっせいに掛けられました。その前の台詞の間には一切掛からなかったので、こういう怪談物などでは雰囲気を壊さないような決まった掛けどころがあるんだなぁと感じました。

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